11月5日に日本の4大会ぶり2回目の優勝で幕を閉じた第9回BFA U-15アジア選手権。この大会で侍ジャパンU-15代表が得たものは、念願の栄冠だけでなく様々なものがある。
武田勝コーチが伝えたかったこと
「武田さんとの10日間で野球観が変わりました」
そう話したのは、前回2015年大会に続き2度目の指揮を執った伊藤将啓監督(習志野市立第一中)だ。今回から軟式球児たちによる侍ジャパンU-15代表の指導陣にもNPB経験者がコーチとして加入。日本ハムの投手として4年連続二桁勝利を挙げるなど活躍した武田勝氏が大会直前合宿から合流し指導に当たった。そこでの役割は投手コーチとしての役割だけにとどまらなかった。選手たちに向けて率先しておどけて笑わせるなどチームの雰囲気作りも積極的に買って出た。
その真意を、選手たちから離れた場所で尋ねると武田コーチは「こんなにふざけたことを言っていても、その中にヒントが隠れていることに気づいて欲しいんです」と語った。その根底にあるのは「苦しいことは多くても、野球は楽しむもの」ということ。
伊藤監督は「真剣でストイックな方でした。気遣いがすごいですし、常に先に動いてくれる。自立した人間じゃないとプロで勝負できないんだなと思いました」と、高校生以上でより問われてくる自立の大切さを再認識したという。
長期の活動や国際経験がもたらしたもの
結成当初は遠慮し合っていたような雰囲気があったが、選手たちは長期間において寝食をともにし、練習や試合を重ねるごとに一体感は強固なものになっていった。
そして、ウォーミングアップから率先してムードメーカーになった濵田世投手(私立高知中)や、山場となったチャイニーズタイペイや韓国との戦いで、いつでもマウンドに向かえるようにブルペンで準備を怠らなかった清水惇投手(高崎市立長野郷中)のような存在も生まれ、伊藤監督は彼らの献身を何度も口に出した。武田コーチも「緊張感の中で選手が大人になって成長しているのを見られたのが嬉しかったです」と目尻を下げた。
そして、日本とは異なる特徴の海外勢と戦えたこともかけがえのない財産だ。日本戦で先発したチャイニーズタイペイの李晨薰投手は191cmの長身から最速147km/hのストレートを投げ込み、MLB球団が今大会の視察に複数訪れるほどの逸材だった。そんな未体験の球筋にも各打者が冷静に見極め四球で走者を溜めると神里陸内野手(南風原町立南星中)がしぶとくセンター前に転がして先制。その後も好投や好守で相手の反撃を許さずに完封勝ち。最終戦の韓国戦も相手にホームを踏ませず、少ないチャンスをモノにした。
また実力差のあった香港、フィリピン、パキスタンには、日本の良い野球を伝えるべく、正確性の高いプレーで手本を示した。これは、前回大会を経験したパキスタンが今回は見違えるような懸命なプレーをして香港から勝利を挙げたように、今後のアジア球界の発展にも繋がっていくことだ。
そして、今回は記事の発信にとどまらず、映像によるライブ配信も行われた影響で、次の世代の目標となるプレー・振る舞いも求められた。その中で伊藤監督が「軟式でも勝負できるんだと発信できました」と話ように、大いにその役割も果たされた。
この大会が、出場した選手たちにとって、また関わった全ての人々に新たなビジョンや価値観をもたらした有意義な大会であったことは間違いない。