日本時間7月13日までアメリカのノースカロライナ州とサウスカロライナ州で行われていた「第44回 日米大学野球選手権大会」は最終戦まで優勝争いが繰り広げられ、侍ジャパン大学代表の優勝(3勝2敗)で幕を閉じた。
2大会連続20回目の優勝であるのと同時に、アメリカ開催では史上2回目(2007年の第36回大会以来)の優勝という快挙となった。
バッテリーの創意工夫実る
「アメリカで2回目の優勝を」という悲願を見事に成就させた侍ジャパン大学代表。際立ったのは選手たちの高い対応力と修正力だ。
アメリカへの移動は飛行機を含め20時間を超え、現地入りしてからも試合前の雨天の影響による遅延や試合前練習の大幅カット、長時間のバス移動、食生活を含めた文化の違いなど、国内では経験しない不規則な準備を強いられた。また、アメリカ大学代表もドラフト候補を揃えたMLB予備軍とも言える逸材揃いだったが、グラウンド内外で選手たちは逞しかった。
まず海外メーカーの球は国内メーカーの球に比べて「滑りやすい」と一般的に言われているが、第1戦と第5戦の勝利に貢献した武内夏暉(國學院大)は「腕だけではなく体全体で投げるイメージで投げました」と早くから大会使用球に対応。第4戦では一時逆転を許す2本塁打を浴びたが「問題はメンタルだったので」と翌日には気持ちを切り替え相手強力打線の勢いを削ぐ好救援を見せた。
また、大会序盤や第5戦の初回で制球が乱れていた細野晴希(東洋大)も、最終戦の2回以降は「勇気を出して軽く投げるようにしてみました」と修正を図ったところ、ストライクゾーンに力強いストレートと切れ味鋭いスライダーがどんどんと集まり、パワーある打者たちをねじ伏せるなど、大会最優秀投手を獲得する活躍を見せた。
投手陣の好投には全5試合で先発マスクを被った進藤勇也(上武大)の存在も大きい。勝利した初戦の後に「緩急への対応が想像以上でした」と振り返り、「打者の目線を上手くズラしていきたいです」と対応策を明かしていたように、大会を通して高低を有効に使う配球を組み立て、投手陣を牽引。王手をかけられて以降の第4戦と第5戦で接戦を制することができたのは投手陣の好投あってこそで、その背景には確実に進藤の的確なリードがあった。
選手層厚い野手は3年生トリオの活躍目立つ
守備面では、取りたい場面で確実に併殺を取ることができたことも大きかった。特に遊撃手の宗山塁(明治大)は最終戦でこそ送球による失策はあったが、普段とは異なる内野天然芝にまったく苦労せず好守を連発。宗山自身も「できることをしっかりやっていれば、どこの球場でも同じパフォーマンスができます」と自信を見せていたように「ショートに飛べば大丈夫」というほどの安心感はチームにとっても大きかった。
攻撃面でも大会中に大久保監督が「野手は誰を出しても遜色ない」と話していたように、第2戦では途中出場の選手が多く活躍し、最終回に7点差から3点差の「一発出れば逆転サヨナラ」という状況にまで粘り大敗で終わらせることは無かった。さらに、第4戦から5番で先発起用された渡部聖弥(大阪商業大)が、第4戦では来年のMLBドラフト1巡目候補であるトレイ・イエスベイジから先制本塁打を放つと、第5戦でもあわや本塁打というダメ押し打を放ったことは、選手層の厚さを象徴していた。
宗山と渡部はまだ3年生。全試合で4番を打ち、チームトップタイの打率.316(※)を記録し、最終戦では気迫あふれるヘッドスライディングも見せた西川史礁(青山学院大)も加えて、3年生トリオのクリーンアップは来年の国際大会での活躍にも期待だ。
※西川とともにチームトップタイの打率を残したのは4年の天井一輝(亜細亜大)
心身ともに充実
もともと前評判の高いチームではあったが、異国の地でも体調不良者が出ず、故障離脱者も上田希由翔(明治大)のアクシデント(※)以外は出なかった。
※第3戦で相手投手の牽制球が首を直撃し救急搬送されるも幸い大事には至らず打撲の診断。大事をとって残り2戦は欠場したがベンチ入りした。
「僕はすぐに体調が悪くなるので日本にいる時以上に管理をしっかりしました」と話すのは、今大会3試合に登板し最後は胴上げ投手にもなった常廣羽也斗(青山学院大)だ。対策はシンプルに「しっかり寝ることとたくさん食べること。ピザとかパスタが好きなので食事が美味しくないとはあまり思いませんでした」と飄々と答えた。
こうした落ち着きも今大会はどの選手にも顕著で、初戦でジャック・カグリオーンに浴びた打球速度180キロ超えの本塁打には、打たれた下村海翔(青山学院大)が「飛ばされすぎて気持ちいいくらいでした」と笑い飛ばすほど。気持ちを落とすことの無かった下村は3試合11イニングに登板したが、失点はこの1点のみで、大会MVPを獲得した。
貴重な経験をした26選手には、帰国後の各リーグ戦での活躍もさることながら、今後の国際大会でも活躍が期待される。大久保監督も「この経験を生かして、さらに実力を発揮してもらいたいですし、いずれはトップチームでWBCなどを戦う選手が出てくることを期待しています」と話していたように、今大会でかけがえのない財産を得た選手たちが日本球界をさらに盛り上げる存在となっていくことを願うばかりだ。