8月3日(日本時間4日)まで行われた「カーネクスト presents 第9回WBSC女子野球ワールドカップ ファイナルステージ」で7大会連続7回目の優勝を果たした侍ジャパン女子代表。カナダ戦で延長タイブレークの末になんとか勝利を収め、アメリカ戦では延長タイブレークの末に敗れ、W杯での連勝が39でストップしながらも決勝戦でアメリカに11対6で雪辱を果たし偉業を継続させた。
そんな女子野球の世界的レベルアップが顕著な中で今後必要とされることや苦しみながらも栄冠に輝いた要因を総括する。
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
他チームの目覚ましい進化に対し技術力で対抗
この大会で目立ったのは、飛躍的な競技力の向上だ。決勝戦で本塁打を放った川端友紀(九州ハニーズ)を含む、大会全体16試合(※)で9本の本塁打が出て、投手では決勝戦で最速86マイル(約138キロ)を記録したアメリカのオリビア・ピチャードをはじめ130キロを超える球速も珍しくなくなり、精度も向上した。
これまで投手やコーチとしてW杯に出場していた中島梨紗監督は「どのチームにも複数の好投手がいるようになり、その多くの投手が球も速く、簡単に四球を出さないようにもなりました」と身をもって実感。「私たちももっとオーバーフェンスが打てる選手を増やさないといけませんし、130キロを超える投手がどんどん出てこないと、勝ち続けていくのはもっと難しくなると思います」と危機感を示した。
その中で侍ジャパン女子代表は今大会、技術力で対抗。今大会の対戦成績が1勝1敗だったアメリカと比較すると、四球はアメリカの16個に対し8個。本塁打はアメリカの4本に対して1本ながら、的確なミート力や俊足で稼いだ二塁打はアメリカの6本の倍以上となる15本を記録。MVP・首位打者・ベストナイン(外野手)の三冠に輝いた白石美優(大阪体育大)は4本を記録した。アメリカは初戦が不戦勝(※)で1試合分少ないが、長打率もアメリカの442 .に対し.509と上回っている。
「女子野球を当たり前の文化に」というスローガンを中島監督とチームは掲げ続けてきただけに競技力向上は望ましいこと。世界に対抗する意味でも女子野球のさらなる発展・普及を目指す意味でも、中島監督は「国内の試合はロースコアが多いので、打者の飛ばす力や投手のスピードは絶対に必要になってくると思います」と今後の課題を挙げた。
※開幕戦のアメリカ対ベネズエラは、ベネズエラが移動上の問題により棄権
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
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
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選ばれなかった選手の思いも胸に
中島監督が2020年11月の就任から大切にしてきたことは、どれだけ全員で喜びや達成感を得られるかという結束力だ。練習や試合の前後は必ず全選手・スタッフでハイタッチを行い、ミーティングでも繰り返し「全員で」の意識を説いた。また、昨年のアジアカップ(香港)やW杯グループラウンド(広島県三次市)、今大会とメンバーの入れ替えをしながら戦ってきたことや、2021年にメキシコで開催予定だった今大会が代表選手の発表がされながらも延期となったことなどを踏まえ、選ばれなかった選手たちの思いも忘れることなく「みんなの想いと共に世界一へ」という言葉も掲げた。
今大会直前には、若手のエース格だった小野寺佳奈(読売ジャイアンツ)がコンディション不良により辞退。直前合宿の合流日に宿舎を訪れ、涙ながらに思いを託した。
小野寺の辞退に伴い追加招集となったのが、カナダ戦と決勝戦のアメリカ戦で先発し試合を作り、優勝に貢献した清水美佑(読売ジャイアンツ)だ。「自分が頑張ることが佳奈のためになると思って全力で投げます」と大会前に誓い、大会中も頻繁に届いた小野寺からの激励や助言に背中を押されながら、今大会チーム最多の10回3分の1を投げ右投手のベストナインを獲得。チームの結束力と選手層の厚さを象徴する活躍だった。
今年はこの後も全国大会が控え、来年以降も国際大会の開催が予定されている。次回大会での8連覇に向けて成長を求めていくことや、今大会で得たかけがえのない経験を還元していくことが、さらなる女子野球の発展・普及に大きく寄与していくことは間違いない。
選手コメント
白石美優(大阪体育大)
MVP・首位打者・ベストナイン(外野手)
「打撃がずっとしっくり来ていて、チャンスで打てましたし、初見の投手も打てて良かったです。下半身をしっかり使えてボールに力を伝えることができました。今大会は追い込まれたら外の配球が多かったので、追い込まれるまでに打つようにしていました。昨年の国際大会で良い経験ができたからこそ、今年に生かせたと思います。日本の野球を世界に示すことができました。現状に満足せずもっと上を目指したいです」
清水美佑(読売ジャイアンツ)
ベストナイン(右投手)
「1ヶ月前にはこのユニホームを着ていることすら想像していなかったので、首に金メダルをかけられていることが本当に幸せです。ランナーが溜まって不安になってもベンチにかかっている11番(小野寺佳奈)のユニホームを見ると、背中を押されました。毎日“大丈夫”“絶対できるから”と言ってくれて心強かったです。こうして優勝の報告ができて嬉しいです」
英菜々子(埼玉西武ライオンズ・レディース)
ベストナイン(捕手)
「ファイナルステージは今までと違う緊張感や雰囲気があって、ここで力を出し切れたことを自信にして、より高いレベルを目指していきたいです。アメリカの強さやファイナルラウンドに残った5チームの守備も打撃も隙がなかなか無くて、1戦も気が抜けませんでした。世界がレベルアップしたと上から言ってはいけないほどアメリカには苦しめられたので、同じ立場・同じ挑戦者の気持ちでレベルアップしていけたらと思います」
楢岡美和(九州ハニーズ)
ベストナイン(外野手)
「自チームではバントはほとんどしませんが、侍ジャパンでは小技もやるよと言われていた中で、チャイニーズ・タイペイ戦では失敗してしまったバントを決勝戦では決めることができたのは自信になりました。守備でも国内の試合とは異なるポジショニングなど財産になる大会でした。この貴重な経験を他の選手やこれから野球を始める女の子に伝え、環境整備なども含め、これからの女子野球に貢献していきたいです」
カーネクスト presents 第9回WBSC女子野球ワールドカップ ファイナルステージ
大会期間
2024年7月28日~8月4日
7月29日(月)3:00 チャイニーズ・タイペイ 4 - 9 日本
7月30日(火)8:00 カナダ 6 - 7 日本
7月31日(水)4:00 日本 11 - 0 ベネズエラ
8月1日(木)0:00 日本 10 - 0 メキシコ
8月2日(金)0:00 日本 3 - 4 アメリカ
※開始時刻は日本時間(カナダ:時差-13時間)
決勝
8月4日(日)4:00 アメリカ 6 - 11 日本
※開始時刻は日本時間(カナダ:時差-13時間)
開催地
カナダ(サンダーベイ)
出場する国と地域
日本、チャイニーズ・タイペイ、ベネズエラ、アメリカ、メキシコ、カナダ