それは、高橋広監督が追求する理想の野球が初の実戦で示された瞬間だった。8回、2番・峯本匠(大阪桐蔭)がボールを殺してしっかりバントを決め、続く安里健(沖縄尚学)の打球はしぶとく二遊間をゴロで抜いて同点とした。「日本の高校野球らしい野球」、すなわち「守りを中心に接戦を粘り強くスモールベースボール」をまさに字でいく展開だった。
9月1日からタイで開幕される18Uアジア野球選手権まであと5日。日本代表チームは国内合宿2日目を迎えた。この日は、生駒山に広がる近畿大学のグランドで同大学と初の練習試合が行われた。試合開始直前まで曇り空だったが、途中から顔を出した太陽がまるで、本番さながらのタイの首都バンコクを思わせるような天気になった。
高橋監督が先発マウンドに送り出したのは昨年夏の甲子園優勝投手・高橋光成(前橋育英)だった。先発の柱として期待のかかる右腕は、夏の大会以来実戦から離れていたせいか、まだ本調子とは言えず、制球を乱す場面が多かった。
それに乗じて相手の近大に盗塁やヒットエンドランを数多く仕掛けられ3回2/3を投げ5安打3四死球4奪三振3失点で降板。高橋は、「スピードは出ていたんですけど制球がバラついて…」と肩を落としたが、再び顔を上げ、「投げ込んで調整します」と復調を誓った。高橋監督は「元々3失点を目安にしていたので予定通り。慣れさせるために、大会前にまた投げさせます」と心配はしていない様子だった。
その後は、2番手の小島和哉(浦和学院)が丁寧な投球で試合をキープ。こちらは久々の実戦ながらも、「楽しくて仕方がなかった」と笑顔を見せた。また、内野ゴロの多い試合だったが、内野陣もミスなく確実にアウトを重ねた。
攻撃陣では、初回2死1塁から4番・岡本和真(智辯学園)が、初打席で木製バットとは思えない豪快な打球でレフトの頭上を越える二塁打を放つなど序盤に2点を奪った。8回に冒頭で書いた「日本の高校野球らしい」攻撃が決まったことで、ベンチのムードは一気に湧いた。
試合は8回裏満塁で、7番・栗原陵矢(春江工業)がライト線奥深くに運ぶ走者一掃のタイムリーで6-3の勝利に貢献した。前日、主将に指名された栗原は、「前半、盗塁を多く許してチームに迷惑をかけていたので、あの一打でホッとした。これで乗っていけます」と安堵の表情を浮かべた。
序盤にリードを許しても粘った末に、終盤に高橋監督が掲げた理想の野球で逆転した。これには、指揮官は「今日は初戦ということでスモールベースボールにこだわるつもりはなかったが、(バントを)やらせればきっちり決めてくれる。個人の能力は高い」と目尻を下げた。対戦相手を務めた近大の田中秀昌監督も、「このメンバーなら優勝できます」と太鼓判を押す初戦となった。
初めての実戦を白星でスタートした侍ジャパン18U。大会に挑む姿勢を内外に示す初陣だった。