2連覇の望みを繋いだのは、德本健太朗(龍谷大平安)の一振りだった。「打った瞬間に抜けたと思いました」。レフト線に転がる間に3塁から岡本和真(智弁学園)、そして2塁から香月一也(大阪桐蔭)がサヨナラのホームを踏んだ。その瞬間、ナインがベンチを飛び出し、ヒーローとなった徳本を迎えた。
準決勝は緊迫した展開となった。台湾打線は満を持して送り込んだエース高橋光成(前橋育英)の立ち上がりから攻め立てた。1番の張祐銘が痛烈なライナーのセンター前ヒットで出塁し、手堅く送りバントでチャンスを広げた。この回は無得点に終わったものの、日本代表にとって初回に走者を背負ったのは今大会で初めてのこと。得点機を伺う台湾は攻守ともに予選リーグの相手はとは違い、手強い相手だった。
均衡を破ったのは3回裏の9番淺間大基(横浜)のタイムリー2塁打だった。ライナーで深々と右中間を破った打球はフェンス付近まで達し、1塁走者の安田孝之(明徳義塾)が生還。スコアボードに待望の1点を刻んだ。予選リーグの中国戦の初安打の後、「1本出てほっとしました。調子は上がっています」と言う通り、大事な場面で結果を出した。
このまま日本が主導権を握るかと思われたが、これまで鉄壁を誇っていた日本の守備にミスが連発した。5回表1死1、2塁のピンチに、安田がショートゴロでの併殺を焦って悪送球。ボールがライトに達する間に2塁走者が生還して同点。さらに、栗原陵矢(春江工業)の3塁への悪送球で1対2と逆転を許した。初回から手を叩いて、大声で歌う台湾ベンチが、これには一気に盛り上がった。
5回まで制球に苦しみながらもなんとか台湾打線を2安打に抑えていた高橋は、3番王崇穎の打球を右のふくらはぎに当てるアクシデント。「途中からフォークが落ちはじめていたので、もっと投げたかった」とエースは悔しがった。ベンチで見守った高橋広監督は、「打球が当たったこともありますが、ここが替え時と思いました」と、小島和哉(浦和学院)にスイッチした。
小島は毎回走者を出しながらも7回まで追加点を与えず、8回からはレフトで出場した岸が後を継いだ。9回を3人できっちり抑え、味方の攻撃陣の背中を押した。
この日、日本打線の前に立ちはだかったのは先発の林凱威だった。伸びのある速球を内外角に投げ分け、反撃の機会を与えなかった。我慢の野球を強いられた日本は1点を追う最終回、諦めない姿勢を見せた。先頭の岸田行倫(報徳学園)と岡本和真(智弁学園)の連打で無死1、2塁とすると、香月が3塁側へ絶妙のバント。これを処理したピッチャーの3塁送球はセーフのジャッジ。これを見た台湾の陳献榮監督が審判に猛抗議したが、判定は覆らずに無死満塁。流れは完全に日本に傾いた。
日本のベンチはここぞとばかりに身を乗り出して、途中出場の德本を鼓舞した。サヨナラの一打は、それまで粘ってきた日本代表の魂がまるで乗り移ったようだった。
その思いは指揮官も同じだった。「カウントが1-1になったらスクイズのつもりでいましたが、追い込まれてしまったので打たせました。2点は取られましたが、それ以上の失点を防いだのが良かったと思います」。興奮冷めやらぬままでサヨナラの場面を振り返った。
明日は宿敵・韓国との決勝となる。韓国代表メンバーの多くがすでに8月の韓国のドラフトで指名された強力なメンバー揃いだ。偵察部隊が予選リーグから日本代表を徹底マークし、この日は選手全員がスタンドから侍ジャパンに目を光らせていた。
高橋監督が、「もう明日が最後なので、全員で勝ちに行くだけです」と言えば、殊勲の德本は、「みんなでひとつになって優勝します」と、力強かった。若き侍たちは、最後の最後まで勝負を諦めなかった。そして、彼らが目指すのはただひとつ。「アジア・チャンピオン」の称号しかない。
インタビュー動画(逆転サヨナラタイムリーを打った徳本選手)