8月7日まで行われた東京オリンピックの野球競技で、悲願の金メダルを獲得した野球日本代表。優勝の要因には全試合で8回以降に得点する勝負強い攻撃と、5試合通じて1失策(バッテリーと内野手は無失策)という堅い守備も挙げられるが、最も大きかったのは強い結束力だろう。
歓喜から一夜明け、8月8日に金メダル獲得記者会見を行い、冒頭で稲葉篤紀監督は「オリンピック関係者の皆様、支えていただきました方々にまずは感謝を申し上げます。この選手たちと結束し、金メダルを獲れたことを大変嬉しく思っております。素晴らしい選手たちと野球ができて私は幸せです。ありがとうございました」と挨拶。そこから選手、コーチ全員が挨拶をしたが、次々に感謝、幸せ、誇りという言葉が口をついて出た。
金メダル獲得という最高の結果を得られたからだけではなく、稲葉監督がかねてより掲げていた「良い選手を選ぶのではなく良いチームを作る」という指針のもと選ばれた精鋭24選手たちだったからこそ、誇り高きチームは生まれた。
2019年のプレミア12では松田宣浩(ソフトバンク)がムードメーカーとしてプレー面以外でもチームを盛り上げたが、今大会でも各選手がチームを一番に考えた行動をグラウンド内外で取った。
8月3日の稲葉監督のサプライズ誕生日会では、青柳晃洋(阪神)がバースデーソングを熱唱。阪神では先発だがオリンピックでは中継ぎとして起用され、思うような成績を残せていなかった中での心意気に、稲葉監督は「タフな状況で投げてもらい申し訳ない気持ちでしたが、それでもチームのためになんとかしたいとしてくれたことが嬉しかったです」と大きく心を打たれたという。
また、プレミア12代表ながら今大会は選外となった田口麗斗(ヤクルト)からのメッセージ動画と赤いパンツのプレゼントも届き、決してここにいるメンバーだけではなく、多くの選手、関係者の思いも背負って戦っていることを、あらためて強く感じさせられた。
試合の中でも、普段は各チームで主力を任され、自らが勝敗を決める役割を担うスター選手たちが、バントや進塁打を確実に決め、代走や守備固めの準備も怠らず、味方を鼓舞するベンチからの声かけなども率先して行うなど、各自がそれぞれの役割を見つけ、それに徹して仕事を果たした。
投手陣は経験豊富な選手数人に現在勢いのある若手選手を積極的に加え、大会総失点を5試合15失点にまとめて、攻撃にリズムを作った。野手はプレミア12を戦った選手を基盤にし、役割や戦術の傾向を理解した選手たちによって打線に繋がりが生まれ、そこにヤクルトで主砲としてだけでなくチームを牽引する姿勢も見せていた村上宗隆を加えたことで、さらなる厚みが生まれた。
稲葉監督は「若い選手は声を出して盛り上げてくれましたし、経験豊富な選手たちは非常にチームをまとめてくれて、最高のチームができ上がりました」と胸を張った。
会見が終わってから各選手たちは次々に稲葉監督の下を訪れ、互いに感謝の言葉で労い合い、一人ひとり帰路についていった。
そして、全選手が部屋を出た後、稲葉監督は感慨深く呟いた。
「本当に良いチームだったなあ」
寂しくもあり、誇らしくもあり、愛おしさも詰まったその言葉は、2017年の監督就任以来、ブレずに貫いてきたことの集大成が最高の形で表れたことを示す何よりの証拠だった。