8月25日(日本時間26日)までコロンビア・バランキージャで行われた「第6回 WBSC U-15 ワールドカップ」で初優勝を果たした侍ジャパンU-15代表。快挙を果たした裏には、井端弘和監督の限られた時間の中での周到な準備や選手たちに情熱を込めて伝えてきた野球の結実があった。
この大会での過去最高成績は福島県いわき市で開催された第3回大会(2016年)の準優勝。この際は地元開催の追い風に加え、及川雅貴(現阪神)や宮城大弥(現オリックス)の活躍もあったが、それでも優勝には届かなかった。
その後2大会(パナマ開催の2018年、メキシコ開催の2022年)は4位。MLBが選手と契約できるのは16歳からということもあり、中南米を中心に将来有望な選手たちが惜しみなく選出され、世界一への壁は非常に高いものだった。今回の対戦相手の中にも、MLB球団と数億円規模の契約が予定されている選手もおり、そんな世界列強に勝てるための準備を、直前合宿の3日間で迫られた。
初日は習志野高のグラウンドを使用し、中学生にとっては不慣れな経験のナイターゲームに備えた。そして、2日目と3日目は今春の甲子園4強の中央学院高、昨年春夏連続で甲子園に出場し今春の千葉大会優勝の専大松戸高という強豪校と交流戦を実施。中央学院高は甲子園に出ていた3年生が揃うフルメンバー、専大松戸高は梅澤翔大・中山凱のプロ注目バッテリーで臨んでもらえたこともあり、140キロ超える球速や力強い打球をいち早く体感することができた。帰国後の優勝会見でも井端監督は「今回対戦した高校生ほど速い投手は大会にいなかったので、優勝に繋がったと思います」とあらためて感謝した。
それでも順風満帆にいかないことは多かった。中央学院高戦でチーム初安打を放った右の強打者・今井幹太朗(東京城南ボーイズ)が牽制球からの帰塁の際に右肩を負傷。大会直前に離脱が決まった。さらに、オープニングラウンド序盤には走攻守三拍子揃う大宮翔(東北楽天リトルシニア)と丹羽裕聖(愛知尾州ボーイズ)が体調不良で一時離脱。大会前に想定していた1・3・4番を欠くことになった。
また、初戦のドミニカ共和国戦ではミスが多発し、イタリア戦では7回まで無得点でタイブレークに突入と辛勝が続いた。両試合後、ミーティングでは井端監督が選手たちに徹底して欲しいことが丁寧に伝えられた。
「1つこれだけは守ってくれ。ミスはいくらしてもいい。下を向くことだけはやめてくれ。下を向くと“次やってやろう”という気持ちがなくなる。生きてきて15年、この先15年も野球をやろうと思っているなら、“次、次”と切り替えないといけない。そういう気持ちで野球をやって欲しい」(ドミニカ共和国戦後)
「こういう劣勢は野球を続ける限り起こるよ。相手投手の特徴を頭に入れて打席に立っていかないと、今日みたいなことになる。あとは、次の試合に向けて体調を整える。どのカテゴリーで野球をするにしてもコンディションを整えることが選手の仕事だよ」(イタリア戦後)
するとその後はコロンビア、グアム、プエルトリコを破り3連勝。無敗でスーパーラウンドへ進出した。
スーパーラウンド初戦でも試練が訪れる。この日から大宮と丹羽もベンチに戻ったが(試合復帰は翌日から)、チャイニーズ・タイペイに最終7回2死まで3点をリードしながら、まさかの大逆転負け。この試合でも井端監督は熱を込めて選手たちに伝えた。
「これが野球です。良い勉強をしたと思う。こういうことは2度とあってはいけない。試合が終わるまでの2時間は集中しようと言ったけど、それができていたか。反省して、あとは全部勝とう。どうしても試合の中で気持ちの浮き沈みはある。でも打つのも投げるのも自分。やるかやられるか。どういう気持ちでやるのか。やばいと思っても気持ちで上回っていくのは自分しかいないよ」
また、夜には選手一人ひとりと会話もし、個々の課題などとともに「今後、甲子園や県大会の決勝でやったら一生後悔する。2度とああいう試合をしないようにして欲しい」と再度伝えた。
こうした井端監督の熱い思いに応えるのが、今回の選手たちだった。その後、2試合に勝利して迎えた決勝のプエルトリコ戦では何度も同点のピンチを迎えながら粘り強く守り切り、歓喜の瞬間を迎えた。
「チャイニーズ・タイペイ戦後の試合は最後まで気を抜かずに勝ち切れたこと、あの試合を引きづらなかったということは大きかったと思います」と、井端監督は優勝会見でも勝因に挙げた。
また、自ら立候補した主将の新井悠河(藤岡ボーイズ)を中心とした結束力も高く、投手だけでなくブルペン捕手など裏方として奮闘した大久保遼(東京ヴェルディボーイズ)も監督・主将に続き胴上げされたことが象徴するよう、それぞれの役割を果たしたことも見事だった。
こうした経験を、30時間以上の移動を経てたどり着いた異国の慣れない環境とも戦いながら中学生のうちにできたことは、選手たちにとって貴重な財産だ。
井端監督が最も繰り返した言葉は「現状に満足しないように」ということ。この先、高校野球やその先のステージでさらなる高みを目指す選手たちが、今回の日々を生かし、高い意識で周囲や日本球界を牽引していって欲しい。
選手コメント
川上慧(明石ボーイズ)
※MVP、最優秀守備賞、ベストナイン(遊撃手)
「獲れると思っていなかった賞なので、選んでいただいてとても嬉しいです。もともと守備が得意な方ではないので、周りの選手を見て学んだことがたくさんありました。自分自身にとっても良い経験になるので、生かしていきたいです」
岡田良太(熊本泗水ボーイズ)
※首位打者
「正直、獲れると思っていなかったので呼ばれて驚きました。(井端監督の方針で3ボールからもスイングし安打を打つ場面もあり)チームでもそのように打っていたので積極的に打つことができました。(右肩痛で出遅れ)チームに迷惑かけた分を取り返そうという思いでやってきたことが首位打者に繋がりました。今回の経験を生かして甲子園に出場したいですし、U-18代表やトップチームにも選ばれる選手になりたいです」
福井那留(愛知豊橋ボーイズ)
※大会唯一の本塁打(ランニング本塁打)で本塁打王
「1打席目だったので自分のスイングをしようと思いました。当たりは良かったのですが、まずはしっかり走り切ろうと思いました。(投手としてもメキシコ戦完投)自分の投球をしようと思ってマウンドに上がりました。良い経験であっという間の日々でした」
新井悠河(藤岡ボーイズ)
※主将、ベストナイン(三塁手)
「まだ侍ジャパンとして優勝したことが無かった大会なので絶対に優勝したいと思って大会に臨みました。(主将に自ら立候補して)集まった時はみんなに緊張もありましたが、積極的に話しかけてコミュニケーションを取りました。みんなレベルが高くて不安はなかったので、自分で引っ張ろうと思いました」
第6回 WBSC U-15 ワールドカップ
大会期間
2024年8月16日~8月25日
オープニングラウンド(グループA)
8月17日(土)9:00 日本 12 - 9 ドミニカ共和国
8月18日(日)5:00 イタリア 3 - 8 日本
8月19日(月)9:00 コロンビア 3 - 14 日本
8月20日(火)5:00 日本 14 - 0 グアム
8月21日(水)0:30 日本 4 - 2 プエルトリコ
※開始時刻は日本時間(コロンビア:時差-14時間)
スーパーラウンド
8月23日(金)5:00 日本 5 - 6 チャイニーズ・タイペイ
8月24日(土)5:00 日本 6 - 1 メキシコ
8月25日(日)5:00 日本 7 - 2 ニカラグア
※開始時刻は日本時間(コロンビア:時差-14時間)
決勝
8月26日(月)9:00 日本 7 - 6 プエルトリコ
※開始時刻は日本時間(コロンビア:時差-14時間)
開催地
コロンビア(バランキージャ)
出場する国と地域
グループA
日本、ドミニカ共和国、プエルトリコ、コロンビア、イタリア、グアム
グループB
メキシコ、チャイニーズ・タイペイ、ベネズエラ、オランダ、ニカラグア、南アフリカ