2021年に延期された東京五輪。新春特別インタビュー第3回は新型コロナウイルスの感染拡大に世界が揺れた1年を経て、就任当初から最大目標としていた金メダル獲得に向けての思いを稲葉篤紀監督に聞いた。
――東京五輪が1年延期となりましたが、そこでの金メダル獲得を目指す意義はどのように考えていますか?
「我々は野球というスポーツに対して自信を持っています。昔は、まずは野球をやって他のスポーツに分散するようなイメージで、少しでも野球をやったことがあるという子供は多かったです。ただ最近は幼少期から色々なスポーツに触れて、野球をやったことがない子供も増えています。そうすると、野球選手の何が凄いかということは野球を経験していないと分からないですよね。野球で育ててもらった我々はもう一度野球に恩返しをしたい。金メダルを獲ることによって、野球の輝きを取り戻したいです。また、野球をやっている子供たちは侍ジャパントップチームを目指す子供が増えてくれたらと思います。野球に誇りを持つ、野球の誇りを示すことが金メダルの意義ではないかと感じています」
――やはりこうした視点は侍ジャパントップチームの監督になられてから、より強く感じることでしょうか?
「そうですね。加えて、プロがオリンピックに参加するようになってから金メダルがまだ獲れていません。私は現役選手の時、北京五輪に出場してメダルすら獲れていない(結果は4位)。その悔しさしかありません。選手にはそのような思いをさせたくないです」
――現役時代の2008年北京五輪の悔しさが原点とも言うべきポイントなのですね。
「2019年のプレミア12で優勝できましたが、選手たちに(オリンピックの)金メダルを獲る喜びをどうしても味わってもらいたいです。オリンピックのメダルをもらえるのは選手だけなので、私は金メダルをもらえません。でも、それでいいのです。選手たちがどんな思いでオリンピックに臨むのかの気持ちが分かる。それこそご家族も一緒に戦ってくれていますから」
――2021年の漢字一字“束”に込めた思いとは?意味を教えてください。
「昨年は“結”の一字にさせていただきました。私の契約最終年である結び(東京五輪)に結果を出すという意味でした。今年の“束”というのは、2019年のプレミア12から1年半ほど空きますので、もう一度束ねて結束するという意味ですね。それは野球界、ファンの方々とも結束して戦うということ。また医療従事者の方々が大変な思いをしているので、感謝の気持ちとして花束を贈らねばならないという意味でこの字にさせていただきました」
――色紙の言葉にもあるように様々な人たちが“束”になってということですよね。
「そうですね。国民の皆さんやファンの方皆さん全員で結束をしていきたいという気持ちです。そして喜びを分かちあえるオリンピックにしたいです」
就任以来、チームの根幹となる「結束力」を何度も口にしてきた稲葉監督。そしてそれは、東京五輪に出場する24選手とスタッフだけの話ではない。情熱を滾らせプレーする各世代・各カテゴリーの選手、応援するファンも含めた日本球界全体の結束力を望む。 だからこそその期待を背に戦う選手たちの首に金メダルをかけさせ、その喜びをファンとともに分かち合うことを稲葉監督は誰よりも願っている。その願いを叶えるための1年が始まった。