昨年は3月の欧州代表戦から始まり、8月のU-15W杯では史上初の優勝、11月のプレミア12では全勝で決勝進出を果たすも決勝で敗れて準優勝。侍ジャパントップチーム就任2年目、U-15代表監督も兼任した井端弘和監督にとって2024年は激動の1年となった。
今回はその1年の振り返りや感じたことに加え、連覇がかかる来年の2026 WORLD BASEBALL CLASSIC™に向けて重要な1年となる2025年の抱負を聞いた。
悔しさの一方で収穫の多かった2024年
――2024年は目まぐるしい1年だったと思いますが、終えてみていかがですか?
「メインは11月のプレミア12だったのですが、最後の最後で負けて優勝ができず結果的には何の意味も残りませんでした。今回の反省は必ず次のWBCに生かさないといけません」
――反省とは具体的にどのようなことになるでしょうか?
「最後に勝ち切らないとそこまで全勝で行っても意味が無いですから、もっとできたことはあったのではないかと思います。例えば、チームでも個々でも決勝に向けて気持ちを高ぶらせていければ結果は違ったかなと思います。“2度負けて3度目は負けないぞ”と、なりふり構わず向かってくる相手の気迫を跳ね返せるくらいの気持ちを持って戦わなければいけません」
――プレミア12 では国際大会の経験が無い選手や少ない選手、若い選手が経験を積むなど収穫も多かったと思います。
「投手も野手も持っている力を十分発揮してくれました。絶不調だった選手もほぼいませんでした。厳しい連戦の中で投手陣はみんなよくやってくれましたし、打線はもっと苦労するかと思いましたが決勝戦以外はよく打ってくれました。トップチームの国際大会が初めてという選手が多かったので、今後選出された際にも、今回を良い経験として生かして、結果を出してくれる選手がたくさんいると期待しています」
――投手では髙橋宏斗投手(中日)、才木浩人投手(阪神)、藤平尚真投手(楽天)の3選手の活躍が特に目立ちました。
「髙橋投手はオープニングラウンドの韓国戦では思ったような投球ができなかったのですが、スーパーラウンドのアメリカ戦ではスプリットをきっちり低めに落とすことができていました。また、アメリカ戦ではストレートとスプリットだけでなくスライダーやカーブも織り交ぜることができ、本当に完璧な投球をしてくれました。才木投手は最後に少しへばってしまった部分もありますが、シーズンの疲れがあったと思いますし、2試合とも素晴らしい投球をしてくれました。藤平投手は8回に加え抑えをやってもらった試合もありましたが気迫あふれる投球でしたね。ピンチを招いても自分の球を信じて投げて抑えてくれました」
――野手では、一昨年のアジアプロ野球チャンピオンシップから起用していた小園海斗選手(広島)や森下翔太選手(阪神)の活躍が目立ちました。
「彼らは調子の良し悪しではなく、試合になると“好調になれる”選手なんです。不調でもそのことを忘れてボールに集中して自分のスイングができる。打てると思ったボールが来たら振りにいける。国際試合で大事な要素を持った選手です」
――小園選手については「走者を置いた際の打撃は日本一」という旨の発言をされていますが、これはどういった部分ですか?
「状況において引っ張るのか、反対方向に打つのかを決めているようですし、狙い打ちができて積極性もあって、走者が無しの状況よりも生き生きと打席に入っているような姿をレギュラーシーズンでも国際大会でも感じますね」
――リーダーシップや「無形の力」を発揮していた選手いますか?
「ある程度みんな明るい選手でしたし、戦いながらチームができていくというより今回は大会前にチームができていましたね。これはあまり無いことだと思いますし、良いチームでした。牧秀悟選手(DeNA)ら25、6歳あたりの近い世代の選手が多かったですし、ベテランも源田壮亮選手(西武)がどっしりとしていて良い緊張感を与えていました」
――来年のWBCではメジャーリーガーも加わりますが、そうしたチーム作りが理想でしょうか?
「(MLBの規約が前回大会同様なら)メジャーリーガーは大会直前にチームへ加わる選手が多いと思うので、来た時にスッと受け入れられる準備を選手・監督・コーチ・裏方のスタッフまでしていれば、良いチームになると思います」
U-15代表監督を兼任して感じたこと
――U-15代表監督としては、8月のU-15W杯で史上初の優勝を果たしました。
「中学生はまだ子どもの部分はあるので、ポテンシャルは侍ジャパンも対戦相手も高いですが、調子やパフォーマンスの浮き沈みが出たり、ストライクが急に入らなくなったりがありました。能力は素晴らしい選手たちなので、精神的に強くなればより良いですね」
――最も期待する選手はいらっしゃいますか?
「全員ですよ。これからどうなっていくかは分かりませんし、今回選ばれた選手以外がボンと頭角を現してくるのが、この世代の選手たちなので」
――U-12代表の指揮を過去2年(2022年、23年)、昨年からU-15代表を指揮して「育成年代だからこそ大切なこと」として感じたことはありますか?
「U-12とU-15の監督をやってみて感じるのは、打つ・投げる・捕るは一生懸命にやっていますし、今の子の方が昔よりも上です。ただ、野球はそれだけじゃない。こういう言い方はしたくないのですが、走塁はひと昔ふた昔前の方が遥かに上です。今回のU-15W杯でも走塁死や牽制死が多かったですし、サインを見ない選手がいたことや、リードの仕方もそうですね。あとは“ヒット一本でホームへ還ってくる”とか、試合をやる上ではそうしたことが大事になってくる場面は多々ありますから、日頃から意識して欲しいです」
――2025年のジュニア世代との関わり方はどのように考えていますか?
「今年もU-15代表の監督をやりますよ(※)。U15アジア選手権優勝(夏に台湾で開催予定)を目指します」
※2024年12月の侍ジャパン強化委員会で承認され続投が決まった
どの選手にもチャンスがある
――今年は来年のWBCに向けてどのような年にいきたいでしょうか?また、3月の「ラグザス 侍ジャパンシリーズ2025 日本 vs オランダ」(3月5、6日に京セラドーム大阪)は、どのような2試合にしていきたいですか?
「オランダとの強化試合では、プレミア12で呼びたかった選手や迷って呼ばなかった選手も見てみたいと思っています。選考はこれからなので、コーチの意見も取り入れて進めていきます。また、3月のオランダ戦に選ばれたかどうかに関係なく、どの選手にもチャンスがあるので選手一人ひとりの活躍を注目、期待しています」
――メジャーリーガーの選手たちがこのオフに次々とWBCへの出場意欲を示していますが、どのように受け止めていますか?そして、出場意欲を示した選手の中には大谷翔平選手(ドジャース)もいました。
「このオフにも数名の選手には会って、みんな意思表示をしてくれていて、とてもありがたいです。大谷選手はメジャーリーグでMVPを獲った選手ですから、もし来てくれるならチームを引っ張っていって欲しいです」
――それでは最後に今年の漢字一文字と、そこに込められた思いを教えてください。
「『新』です。新たにまた世界一に向けて挑戦したい気持ち、気持ちを新たに新鮮な気持ちでできたらと思いを込めました。あとは、さらなる新戦力の選手が出てくれば、日本の野球界にとっても良いことだと思いますので期待しています」