8月7日、野球日本代表は東京オリンピック野球競技の決勝でアメリカと対戦。息詰まる投手戦を2対0で制して、公開競技だった1984年ロサンゼルス大会以来となる金メダルを獲得した。
最後の打者をセカンドゴロに抑えると、最終回を締めた栗林良吏(広島)を中心に歓喜の輪が広がり、稲葉篤紀監督はスタッフたちと抱擁し涙を流した。
1984年ロサンゼル大会で金メダルを獲得するなど1996年アトランタ大会までは全大会でメダルを獲得してきたが、プロ選手の参加が解禁された2000年シドニー大会以降3大会のメダル獲得は2004年アテネ大会の銅メダルのみと苦しんでいた。
2008年北京大会で選手としてメダル無しに終わった悔しさを知る稲葉監督は、かねてから「オリンピックの借りはオリンピックで返したい」と、野球競技が復活した東京大会での雪辱を期していたが、その思いがついに実を結んだ。
決勝戦という大一番でも、日本の持ち味である投手力と守備力の高さを遺憾なく発揮した。
先発投手を任されたプロ2年目の森下暢仁(広島)は「試合前セレモニーのマーチングの方を見て、出演される方々も緊張しているのだろうと思うと、少し気持ちが楽になりました」と緊張をいくらかほぐすと、初回から落ち着いて緩急を自在に操る投球を見せる。
すると3回には、アメリカの先発で初回から快調に飛ばしていたマルティネス(ソフトバンク)から村上宗隆(ヤクルト)が値千金のソロ本塁打を放って先制に成功。稲葉監督は「少し重たい空気でしたが、あの一発でこちらに流れが来ました」と称えた。
この援護に森下は、さらに堂々とした投球を続け、ピンチを背負う場面もあったが5回無失点。この好投には稲葉監督も「素晴らしいですね。度胸があって想像以上の力を出してくれました」と目を細めた。
6回からは日本は継投に入り、2番手には千賀滉大(ソフトバンク)を投入。先頭のオースティン(DeNA)に見極められ四球を出すなど二者を出して苦しい投球となったが、ウェストブルックをキャッチャーファウルフライに抑えてピンチを脱した。
7回はプロ1年目の伊藤大海(日本ハム)がアレンに二塁打を打たれるなど二死三塁のピンチを招くが、アルバレスをファーストゴロに抑えてガッツポーズ。続く8回は伊藤が先頭のオースティンにレフト前安打を打たれるも、後続を岩崎優(阪神)が打ち取り無失点に抑える。
この粘り強い投手陣に打線が応えたのは8回。4回以降はマルティネスとライアンから追加点を奪えずにいたが、この回からマウンドに上がったマクガフ(ヤクルト)から山田哲人(ヤクルト)がライト前安打で出塁。坂本勇人(巨人)が初球でバントを決めチャンスを広げる。ここで吉田正尚(オリックス)がセンター前安打を放つと、相手中堅手が本塁へ悪送球。三塁を回ったところで止まっていた山田がこれを見逃さず、ヘッドスライディングで生還し、貴重なダメ押し点を奪った。
この2点のリードを、今大会2勝2セーブと活躍してきたプロ1年目の栗林が最終回を無失点に抑えて完封勝ち。全試合で8回以降に得点する勝負強い攻撃と、5試合通じて1失策(バッテリーと内野手は無失策)という堅い守備、そして経験豊富な選手と勢いある若手選手の融合による強い結束力で、日本がついにオリンピックの頂点に立ち、悲願の金メダルを獲得した。
監督・選手コメント
稲葉篤紀監督
「みんなが一生懸命ここまでやってくれた、その思いにグッときました。楽な試合は1つも無かったのですが、金メダルを獲りたいという思いが結束して、良いチームで良い試合ができました。みんなが頑張ってくれましたし、テレビの前でたくさん方に応援していただきました。サポートしていただいた方々も含めてみんなで獲った金メダルです」
甲斐拓也(ソフトバンク)
「本当に良かったです。アメリカ打線も良かったのですが、森下とは引かずにどんどん攻めていこうと話して、本当によく投げてくれました。苦しい大会でしたが、みんなでこうして喜び合うことができて本当に嬉しいです。(自身の攻守にわたる活躍について)自分のプレーというよりチームが勝てればとやってきたので、それが一番嬉しいです。(観ていただいた方へ)スポーツを通して、一生懸命な姿を見せて勇気を届けられればと思いましたし、こうして野球ができているのもたくさんの支えや協力があってのものです。本当にこの大会を通して、いろんなものを感じることができました」
坂本勇人(巨人)
「タフなゲームが続いたので優勝してホッとした気持ちが一番です。決勝戦も簡単には勝たせてくれない相手でしたが、日本の投手力と守備力でミスなく試合を運ぶことができたので、この結果になったと思います。重圧の中でみんなと戦ってきたので、みんなのホッとした顔を見て嬉しかったです。東京オリンピックが開催されると決まってから僕の1つの夢でもあったので、金メダルを獲れて感無量です。稲葉監督も試合前に緊張していましたし、最後にあれだけ喜ぶ顔を見ることができて、ここまで頑張ってきて本当に良かったと思いました。球場に来られなくても熱いエネルギーをもらっていました。これからまたプロ野球も後半戦に入るので、熱い応援をよろしくお願いします」
王貞治侍ジャパン特別顧問
「目指していた金メダルを獲れて最高です。オリンピックの金メダルというのは特別で、これまでチャレンジしながら獲れなかったものを、自国開催で獲れたのは本当にうれしい。福島からすべての試合を見てきましたが、投手力が勝因だと思います。初めて対戦する投手というのは、どうしても打ちにくいもの。少ないチャンスをものにして、しっかり抑える。今日も2対0だもんね。まずは投手を褒めたいです。前のオリンピックは長嶋さんといっぱい回りました。当時は20代。今は80代になりましたが、この年でまたオリンピックを目の前で見られて興奮しました」