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"世界の野球"「スポーツ大国ドイツが見せる野球の発展」

2015年3月2日

文=横尾弘一

 ドイツのスポーツと言えば、昨年のFIFAワールドカップで4回目の優勝を果たしたサッカーをはじめ、モータースポーツ、テニス、自転車、体操……ウインター・スポーツ全般でも世界のトップクラスに入るなど、多くの競技で素晴らしいアスリートを輩出している。そうした中で、残念ながら野球はマイナーな存在だ。それでも、エドウィン・ジャクソン投手(シカゴ・カブス)、ジェフ・ベイカー内野手(マイアミ・マーリンズ)らメジャー・リーグ(MLB)で活躍するドイツ出身選手もおり、少し遡ればマイク・ブロワーズ内野手が1999年に阪神でプレーしている。また、ロン・ガーデンハイアーは昨年までミネソタ・ツインズで監督を務めた。彼らの共通点は、ドイツのアメリカ軍基地で生まれ、アメリカへ移住したということ。ドイツの野球の歴史も、アメリカとの関係なくしては語れないのだ。

 イギリスのクリケットを原型としたドイツ式野球“シュラークバル”が1890年代に生まれ、ここから野球に移行したという説もあるが、やはり第一次、第二次世界大戦を通じてアメリカの影響を受けたというのが、ドイツ野球の原点と考えていいだろう。実際、ドイツのアメリカ軍基地で勤務するアメリカ人が、ドイツ野球の発展には大きく貢献しているという。

 第二次世界大戦後、東西に分裂した西ドイツで普及した野球は、欧州選手権でも1955年の第2回大会で3位、1957年の第4回大会では準優勝と、ヨーロッパでは強豪の一角を占める。1971年の第12回欧州選手権でも3位に食い込むと、翌1972年には第20回アマチュア野球世界選手権大会に出場する。ちなみに、この大会には日本も初めて代表チームを送り込んでおり、世界大会での歩みは日本とともに始まったことになる。そして、1973年にはドイツで初めて野球専用のスタジアムが建設され、こけら落しの試合には社会人で編成された日本代表が招待されている。この頃に主力選手としてプレーしたクラウス・ヘルミッヒは、リカルド・カーマス西ドイツ野球連盟会長とともにアメリカや日本とも上手く連携を取り、ドイツの野球を世界のトップクラスに成長させようと腐心した。

 1984年には、国内リーグを整備する形でブンデス・リーガを創設。現在、1部2地区(北部、南部)に15チーム、2部2地区に14チームが加盟するリーグは、4月から7月の週末にホーム&アウェイ2回総当たりのリーグ戦を実施している。リーグを代表するのは、ドイツ南東部レーゲンスブルクに位置し、2012年WBC予選の舞台にもなったドイツ屈指の野球場アーミン・ウルフ・アレーナを本拠地にするバッハビンダー・レギオネーレだ。強打の三塁手ルドウィグ・グラサー、攻守にまとまりのある遊撃手マット・バンスら代表経験も豊富な20代後半の旬な選手が中心となり、19歳の長身左腕ウォルフギャング・レイターも頭角を現すなど、ファンの大声援も受けて目立つ実績を残している。また、レンタカー会社バッハビンダー・アウトファーミートゥンがスポンサーとなり、球団が公式戦のインターネット中継を行なうなど人気に加えて財政面でも安定しており、下部組織にも多くの選手が登録されている。そのレギオネーレと南部地区でライバル関係にあるのが、1988年に創設されたマインツ・アスレチックスだ。欧州代表の一員として来日するヤンニクラス・シュトックリンがエース格に成長し、攻守に粘り強い戦いを展開する。また、北部地区ではゾーリンゲン・アリゲーターズが高い実力を誇る。コントロールに優れた左腕アンドレ・ヒューズ、俊足好打の外野手モリッツ・ブットゲライトと、代表経験もある30歳コンビが牽引するチームは、昨年のヨーロピアン・カップに出場。リーグ戦でイタリアのネットゥーノBCに7回コールド勝ちしたものの、仕事の予定がある選手が大会途中で離脱したため、そこから連敗してしまった。24歳のマーカス・シュトライゼクら着実な成長を見せる選手もいるが、レギュラーと控え選手の実力差が大きく、劣勢になると火に油を注ぐような投手しか出てこない。そんな中で、普段はユースチームで活動している15歳のジャスティン・ボールマンが豊かな将来性で注目を集めた。この大会後、8月にはメキシコで開催された第2回15Uワールドカップにドイツ代表で出場。一次ラウンドでは日本戦にリリーフ登板するなど、世界の舞台を経験しながら着実に成長している。

「18歳になったら、MLBの欧州トライアウトを受けるつもりなんだ」
 そう目を輝かせるボールマンらユース世代は、各クラブの下部組織において、しっかりとしたプログラムの下で育成されており、MLBとの協力関係もあってアメリカでプレーする選手は増えそうだ。そんな彼らのアイドルは、シンシナティ・レッズのドナルド・ルーツだ。15歳で野球をはじめ、MLBヨーロッパ・アカデミーを経て2007年にレッズと契約した左打ちの外野手は、ルーキー級から一歩ずつステップアップし、2013年にはメジャーへ昇格。昨年までの2年間で62試合に出場しており、今後の飛躍も期待されている。

 そうして中・長期的視野でユース世代を育て、ブンデス・リーガを充実させた先に、ドイツ代表の躍進もあるのだろう。2007年の北京オリンピック世界最終予選では出場8チーム中6位で、2009年の第38回IBAFワールドカップ一次リーグでは中国にコールド勝ち。少しずつ存在感を示してきたところで、第3回WBCの予選に出場することができた。ドイツ出身のマイナー・リーガーも加わったチームは、チェコとイギリスをコールドで退けたが、カナダには圧倒されて大舞台に駒を進めることはできなかった。だが、昨年の欧州選手権での戦いぶりを見れば、選手層が厚くなってくればイタリアやオランダとも互角に戦える日はそう遠くないと思える。体格的にがっしりしたタイプも多く、意外に器用さも見せるドイツの選手たちが、10年後にどんなプレーを見せてくれるか注目してみたい。

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