
文・写真=NPO法人日本アジア球友団ラリグラス(小林 洋平)
これまで約25年にわたり、ネパールを中心に、学校や地域を訪ねながら野球を通じた交流を続けてきた。ネパールでは、石や砂が混じる未整地の場所をそのまま使いながら、限られた環境の中でスポーツに取り組んでいる。野球が日常的に行われているとは言い難く、大会前など限られた時期に練習が行われるケースも少なくない。そのような環境の中でも野球に関わり続けようとする人たちの姿を、これまで現場で見てきた。こうした活動を続ける中で築かれてきた人と人とのつながりが、今回のスリランカ訪問へとつながった。
スリランカを訪れるのは、2019年の西アジア大会、東京五輪一次予選以来、今回が2回目となる。前回は大会運営を中心とした滞在で、球場と宿泊先を往復する日々だった。これに対し、今回は国際審判員のスジーワ・ウィジャヤナーヤカ氏の協力のもと、ホームステイをしながら、学校や地域の人々と日常をともにする時間を持つことができた。その結果、野球をきっかけに人が集まり、自然と会話が生まれていく様子が見られ、この国においても野球が人と人をつなぐ存在であることが感じられた。

また今回の訪問は、サイクロンによる被害を受けた直後のタイミングでもあり、復興支援の意味合いも込めたものだった。訪問の約2週間前、スリランカは大きな被害を受け、12月21日から開催予定だったスリランカベースボールカーニバルU12は、来年2月への延期が決定された。さらに、教育省の判断により、学校の定期テストも中止となり、全国規模のスポーツ大会も中止や延期となるなど、子どもたちの日常にも影響が及んでいた。特に被害の大きかった北部地域では、復興に時間を要するとされ、大会への参加自体が難しい状況にあった。そのような中、生活の再建を優先せざるを得ない状況でありながらも、子どもたちが野球の時間を心待ちにしていることを、スリランカ野球連盟の関係者は語っていた。そこで今回は、カーニバルを楽しみにしていた子どもたちが多かったことを踏まえ、大会参加予定だった学校をスリランカ代表主将らと訪問し、代替的な取り組みとしてベースボールクリニックを実施した。そこで目にした光景は、これまでネパールで見てきた場面と重なるものだった。
かつて日本から寄付された野球道具は、今も丁寧に使われていた。赤土のグラウンドでは、グローブが何度も補修され、決して良い状態とは言えないものも少なくない。それでも、U12からU16までの子どもたちが一緒になり、年上の選手が年下の子に道具を回しながら練習を続けていた。この様子から、道具は個人のものではなく、皆で使うものだという意識が、ごく自然に共有されているように見えた。また、練習の最後には、全員でボールの数を確認し、見つかるまで探す姿もあった。ボールがなくなれば、次の練習ができなくなる。その現実を子どもたちは理解しており、それを行動として表していた。

さらに今回の訪問では、ANAMI Japanese Language Schoolを訪れ、日本語を学ぶ学生や教員とも交流する機会を得た。学生たちの中には、野球や日本との関わりをきっかけに、日本やスポーツに関わる仕事に関心を持つようになったと語る者もいた。競技としての野球だけでなく、交流や経験を通じて将来の選択肢を考えるようになる姿からは、スポーツが人の進路や意識に静かに影響を与えている一面がうかがえた。
また、今回の滞在中には、スジーワ・ウィジャヤナーヤカ氏から、ネパールへの思いを聞く機会があった。2016年にネパールの首都カトマンズで審判講習会を実施した際、十分な環境が整っているとは言えない中でも、現地の指導者や若者たちが真剣に学び、野球を続けようとしていた姿が、今も印象に残っているという。
スジーワ氏は次のように語る。
「成果や規模では測れないが、人とのつながりを大切にしながら積み重ねてきた時間そのものに価値がある。仕組みが整えば、必ず普及する。情勢によって変わることもあるが、諦めずに挑戦し続ける。その歩みが、これからのネパールはもちろん、アジアの野球を支えていくはずだ」
そして、2026年3月には、ワールド・ベースボール・クラシックが開幕する。世界の注目が集まる大会が控える中で、その土台には、こうした地域や学校で続けられてきた日々の積み重ねがある。華やかな舞台と、静かに続けられている現場は切り離されたものではなく、同じ野球界を支えている。その先に、さらに野球界が広がり、深まっていくことを願っている。
- 2026年3月11日「巨人キャンプの足元にある国際性」
- 2026年3月11日「別の国の現場から」
- 2025年12月11日「静かに積み上がる未来」
- 2025年10月27日「ネパールの混乱と国交70周年記念大会について」
- 2025年9月10日「在日ネパール人とのスポーツによる共創」
- 2025年7月7日「オリンピックデー」
- 2025年4月14日「目標設定。ネパール野球ソフトボール協会、大阪を走る。」
- 2025年2月19日「スポーツの役割」
- 2024年11月25日「カラダを動かす楽しさを伝えよう!」
- 2024年9月2日「ネパール野球25周年日本ネパールスポーツ交流プログラム2024-2025」
- 2024年4月12日「学校スポーツ連盟との協定」
- 2024年1月15日「1st National Baseball5 Championship 2024」
- 2023年11月28日「目指せ!体験から広がる笑顔の輪」
- 2023年10月2日「福島県×ネパール シャクナゲ交流」
- 2023年8月30日「ネパール最古参選手」
- 2023年7月14日「ネパール野球ソフトボール協会の新体制発足」
- 2023年6月14日「在日ネパール人による野球体験会」
- 2023年3月27日「WORLD BASEBALL CLASSIC™ 2023」
- 2023年3月1日「ONE WORLD」
- 2022年12月28日「アジア野球連盟審判講習会」
- 2022年10月7日「在日ネパール人との連携」
- 2022年7月20日「第4回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2022年4月15日「主体的な活動」
- 2022年2月14日「ピンチはチャンス」
- 2021年12月22日「ネパール・ベースボール・フェスティバル」
- 2021年11月9日「行動」
- 2021年8月30日「世界への普及を目指して」
- 2021年7月15日「キャッチボールクラシックオンライン国際交流大会プレ大会2021」
- 2021年4月26日「原点に戻る」
- 2021年3月22日「協働」
- 2020年12月25日「迫られる変革」
- 2020年10月1日「WEB野球教室」
- 2020年7月20日「変わるもの、変わらないもの」
- 2020年5月14日「世界がひとつになって逆境を乗り越える」
- 2020年3月2日「ネパール観光年2020」
- 2019年12月25日「ワールドマスターズゲームズ2021関西」
- 2019年12月10日「第3回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2019年11月8日「ネパールへの直行便」
- 2019年9月19日「第14回BFA西アジア野球大会2019」
- 2019年7月2日「政府機関とのつながり」
- 2019年5月22日「第2回ネパール全国野球大会2019」
- 2019年5月4日「北海道ベースボールリーグ」
- 2019年4月15日「国際大会へ、ネパールを応援する人々」
- 2019年3月18日「侍ジャパンシリーズ2019 日本対メキシコ」
- 2019年3月1日「アジア野球連盟総会」
- 2019年2月13日「国際交流活動との出会い」
- 2019年1月9日「野球を通じた国際理解」
- 2018年11月5日「グラウンド開所式」
- 2018年10月26日「ネパールのソフトボール」
- 2018年9月5日「第28回世界少年野球大会」
- 2018年8月3日「楽天イーグルスとの対戦」
- 2018年7月31日「ネパールでのグラウンド建設」
- 2018年7月2日「東京オリンピックへの道のり」
- 2018年5月8日「PRESIDENTIAL CUP」
- 2018年4月16日「新たなネパール代表チームの選考」
- 2018年4月2日「日本の大学生との野球交流」
- 2018年2月5日「パキスタン野球連盟カワール・シャー会長を偲ぶ」
- 2017年12月27日「ネパール野球ソフトボール協会の奮闘」
- 2017年12月6日「ネパール野球ソフトボール協会の来日」
- 2017年11月29日「南アジア交流野球教室」
- 2017年10月31日「第2回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2017年10月10日「ネパール代表選手の日本での活動」
- 2017年9月22日「ネパール代表選手、ゼロロクブルズで学ぶ」
- 2017年8月21日「北海道での挑戦始まる」
- 2017年7月25日「スポーツ庁長官感謝状」
- 2017年6月23日「スポーツで広げる友好の輪」
- 2017年6月7日「北海道での挑戦」
- 2017年4月18日「第13回BFA西アジア野球大会2017 vol.2」
- 2017年4月4日「第13回BFA西アジア野球大会2017 vol.1」
- 2017年2月14日「世界最下位からの挑戦」
- 2017年2月9日「代表強化合宿」
- 2017年2月3日「ネパール人コーチの来日」
- 2017年1月10日「ネパール代表チーム」
- 2016年12月28日「もうひとつのWBC」
- 2016年12月16日「ネパールU15野球大会」
- 2016年11月25日「NHKの新番組『世界はTokyoをめざす』」
- 2016年10月7日「ネパール野球とオリンピック」
- 2016年10月4日「ネパールの雨季」
- 2016年8月22日「東北楽天イーグルスのネパール支援」
- 2016年6月13日「日本に住むネパール人への野球普及」
- 2016年5月19日「被災地の野球事務所に見た信念」
- 2016年5月2日「ネパール復興支援野球大会」
- 2016年4月4日「野球途上国 共通の課題」
- 2016年3月17日「ネパールから日本へ」
- 2016年3月14日「さらなる野球普及へ」
- 2016年2月10日【西アジアの野球ネパール編】〜野球普及への葛藤と模索〜
- 2016年2月9日【西アジアの野球ネパール編】〜野球を拡める課題と苦労〜
- 2016年2月2日「動き出した時間」
- 2016年1月7日「復興支援野球大会の延期」
- 2015年10月15日 「野球指導員、ネパールでの活動」
- 2015年8月21日 「ネパール野球の有望株」
- 2015年6月2日 「希望から絶望へ」
- 2015年4月20日 「ネパール野球の現状」
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