文・写真=NPO法人日本アジア球友団ラリグラス(小林 洋平)
去る3月8日に台湾の台中インターコンチネンタル野球場を皮切りに開幕したワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、日本の優勝で幕を閉じた。大会期間中は日本国内も大いに盛り上がり、私も強化試合や1次ラウンドを観戦した。私はアジア野球連盟に加盟している各国との繋がりもあり、アジアから参加している国々を応援していた。そして、本戦には日本、台湾、韓国、中国が参加。その他にもWBSCの世界ランキングでアジア5位のパキスタンが昨年9月30日からパナマで行われた予選に出場したが、アルゼンチン、ニカラグアに敗れて涙を呑んだ。
今大会を見て、野球を取り巻く環境は国によって大きく異なるが、選手たちは野球が好きでプレーしている気持ちだけは全世界共通だと感じた。その中で、大谷翔平選手が中国戦後に「中国も素晴らしい野球をやっていて、本当に中盤は分からなかったゲームだと思うので、全員で勝つことができて素晴らしいゲームだったと思う」と対戦国をリスペクトする姿に感銘を受けた。また、チェコも今大会の話題になったチームの一つであろう。チェコにはプロリーグが無く、多くの選手は野球以外の本業を持ちながら代表チームに参加しているそうである。世界的に見れば、ほとんどの国がそういう状況なのであろう。
ネパールでは高校を卒業したら国外に出稼ぎに行く者も多く、そのタイミングで野球をやめていく者を私は多数見てきた。国外に出るネパール人の中には、留学生を含め、日本に来る者も多い。ネパールの元代表選手のうち何人かも日本に住んでいる。彼らに聞くと、「日本では野球人気がすごすぎてびっくりしている。大谷翔平選手や村上宗隆選手の名前はよく耳にしていた。日本代表は本当に素晴らしいチームだと思う。観ていて自分もプレーしたくなった。ネパールもいつの日か野球で盛り上がりたい」と話している。過去のコラムでも紹介しているとおり、在日のネパール人は急増しており、私たちが活動を始めた1999年当時と比べて40倍近くにも増えた。都内は約2万7千人(2022年10月現在)で、公立の小学校にも多くのネパール人が学んでいる。こういった状況の中、ネパールの人たちが日本社会を支える存在になりつつあり、日本で野球をプレーする子どもたちもいる。
ネパール本国の野球環境は恵まれていない。しかし、それは指導者や関わる人次第で大きく変化する。練習方法はもちろんだが、考え方、子供たちとの向き合い方によって環境面のマイナスをカバーすることができる。それは2014年に元ネパール代表チーム主将で関西独立リーグでもプレーしたイッソー・タパ(以下、イッソー)がネパールの子どもたちを率いて来日した際に日本のチームと試合して勝利したことがあったことからも立証できる。イッソーは言う。「できないと考えていたら何もできない。できると思って夢を描きながら未来を切り開いていかなければならない。国を巻き込んで良いものを創っていきたい」。また、ウォルト・ディズニーの言葉に「If you can dream it,you can do it.(夢見ることができれば、それは実現できる。)」という言葉があるが、本当にそのとおりである。どうありたいのかだけを強く持ち続けて行動することにより、道は切り開くことができるはずである。
さて、今回のWBCの最後はダルビッシュ有投手、大谷翔平投手のリレーで日本が優勝を決めた。ダルビッシュ有投手といえば、イッソーが日本でプレーしていたときに「ネパールのダルビッシュ」とも呼ばれていたことがあったのを思い出す。これに関してイッソーは「自分が初めて日本に来たとき、ダルビッシュが誰だか分からなかった。しかし今は、ダルビッシュ投手のリーダーシップを尊敬しており、そう呼ばれていたことを光栄に思っている」と話している。
一方、大谷選手は優勝決定後のインタビューで「日本だけじゃなくて、韓国もそうですし、台湾、中国もその他の国ももっともっと野球を大好きになってもらえるように、その一歩として優勝できたことが良かったと思うし、そうなってくれることを願っている」と述べている。多くの国で野球が好きな人を増やすことはWBC開催意義のひとつでもあり、大谷選手の言葉からもその意義を実現できたことを感じ取ることができた。世界を代表する選手からこういう言葉が聞け、大谷選手は本当に素晴らしい人格者だと思った。
野球は世界を結ぶスポーツであると今回のWBCで改めて感じることができた。参加国だけが盛り上がるのではなく、野球の魅力をどんどん途上国にも発信し続け、ともに歩んでいくことが何よりも大切だとも感じた。実際、今回のWBCの期間中もネパール人から多くの問い合わせが寄せられた。ネパールもそのうち日系人であるラーズ・ヌートバー選手のような選手がたくさん出てくるかもしれない。現地は多くの問題を抱えているが、野球で世界の人々を繋ぐ夢は膨らんでいく。
- 2024年9月2日「ネパール野球25周年日本ネパールスポーツ交流プログラム2024-2025」
- 2024年4月12日「学校スポーツ連盟との協定」
- 2024年1月15日「1st National Baseball5 Championship 2024」
- 2023年11月28日「目指せ!体験から広がる笑顔の輪」
- 2023年10月2日「福島県×ネパール シャクナゲ交流」
- 2023年8月30日「ネパール最古参選手」
- 2023年7月14日「ネパール野球ソフトボール協会の新体制発足」
- 2023年6月14日「在日ネパール人による野球体験会」
- 2023年3月27日「WORLD BASEBALL CLASSIC™ 2023」
- 2023年3月1日「ONE WORLD」
- 2022年12月28日「アジア野球連盟審判講習会」
- 2022年10月7日「在日ネパール人との連携」
- 2022年7月20日「第4回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2022年4月15日「主体的な活動」
- 2022年2月14日「ピンチはチャンス」
- 2021年12月22日「ネパール・ベースボール・フェスティバル」
- 2021年11月9日「行動」
- 2021年8月30日「世界への普及を目指して」
- 2021年7月15日「キャッチボールクラシックオンライン国際交流大会プレ大会2021」
- 2021年4月26日「原点に戻る」
- 2021年3月22日「協働」
- 2020年12月25日「迫られる変革」
- 2020年10月1日「WEB野球教室」
- 2020年7月20日「変わるもの、変わらないもの」
- 2020年5月14日「世界がひとつになって逆境を乗り越える」
- 2020年3月2日「ネパール観光年2020」
- 2019年12月25日「ワールドマスターズゲームズ2021関西」
- 2019年12月10日「第3回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2019年11月8日「ネパールへの直行便」
- 2019年9月19日「第14回BFA西アジア野球大会2019」
- 2019年7月2日「政府機関とのつながり」
- 2019年5月22日「第2回ネパール全国野球大会2019」
- 2019年5月4日「北海道ベースボールリーグ」
- 2019年4月15日「国際大会へ、ネパールを応援する人々」
- 2019年3月18日「侍ジャパンシリーズ2019 日本対メキシコ」
- 2019年3月1日「アジア野球連盟総会」
- 2019年2月13日「国際交流活動との出会い」
- 2019年1月9日「野球を通じた国際理解」
- 2018年11月5日「グラウンド開所式」
- 2018年10月26日「ネパールのソフトボール」
- 2018年9月5日「第28回世界少年野球大会」
- 2018年8月3日「楽天イーグルスとの対戦」
- 2018年7月31日「ネパールでのグラウンド建設」
- 2018年7月2日「東京オリンピックへの道のり」
- 2018年5月8日「PRESIDENTIAL CUP」
- 2018年4月16日「新たなネパール代表チームの選考」
- 2018年4月2日「日本の大学生との野球交流」
- 2018年2月5日「パキスタン野球連盟カワール・シャー会長を偲ぶ」
- 2017年12月27日「ネパール野球ソフトボール協会の奮闘」
- 2017年12月6日「ネパール野球ソフトボール協会の来日」
- 2017年11月29日「南アジア交流野球教室」
- 2017年10月31日「第2回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2017年10月10日「ネパール代表選手の日本での活動」
- 2017年9月22日「ネパール代表選手、ゼロロクブルズで学ぶ」
- 2017年8月21日「北海道での挑戦始まる」
- 2017年7月25日「スポーツ庁長官感謝状」
- 2017年6月23日「スポーツで広げる友好の輪」
- 2017年6月7日「北海道での挑戦」
- 2017年4月18日「第13回BFA西アジア野球大会2017 vol.2」
- 2017年4月4日「第13回BFA西アジア野球大会2017 vol.1」
- 2017年2月14日「世界最下位からの挑戦」
- 2017年2月9日「代表強化合宿」
- 2017年2月3日「ネパール人コーチの来日」
- 2017年1月10日「ネパール代表チーム」
- 2016年12月28日「もうひとつのWBC」
- 2016年12月16日「ネパールU15野球大会」
- 2016年11月25日「NHKの新番組『世界はTokyoをめざす』」
- 2016年10月7日「ネパール野球とオリンピック」
- 2016年10月4日「ネパールの雨季」
- 2016年8月22日「東北楽天イーグルスのネパール支援」
- 2016年6月13日「日本に住むネパール人への野球普及」
- 2016年5月19日「被災地の野球事務所に見た信念」
- 2016年5月2日「ネパール復興支援野球大会」
- 2016年4月4日「野球途上国 共通の課題」
- 2016年3月17日「ネパールから日本へ」
- 2016年3月14日「さらなる野球普及へ」
- 2016年2月10日【西アジアの野球ネパール編】〜野球普及への葛藤と模索〜
- 2016年2月9日【西アジアの野球ネパール編】〜野球を拡める課題と苦労〜
- 2016年2月2日「動き出した時間」
- 2016年1月7日「復興支援野球大会の延期」
- 2015年10月15日 「野球指導員、ネパールでの活動」
- 2015年8月21日 「ネパール野球の有望株」
- 2015年6月2日 「希望から絶望へ」
- 2015年4月20日 「ネパール野球の現状」
- 世界の野球 可能性を秘めたコロンビア野球
- 世界の野球 力戦奮闘ブラジル野球!~日系移民が紡いできた夢~
- 世界の野球 東欧ブルガリア -野球事情とその展望-
- 世界の野球 ヒマラヤを北に臨む国 ネパールの野球
- 世界の野球 清水直行 ニュージーランド野球の世界挑戦記
- 世界の野球 アジア選手権 日本人監督の挑戦 インドネシア編
- 世界の野球 アジア選手権 日本人監督の挑戦 パキスタン編
- 世界の野球 アジア選手権 日本人監督の挑戦 番外編 タイ野球の歩み
- 世界の野球 日本人指導者の挑戦 香港野球編
- 世界の野球 フランス通信~フランス野球・ソフトボール連盟より~
- 世界の野球 南の楽園フィジーのHAPPYベースボール通信
- 世界の野球 "アフリカからの挑戦・赤土の青春" ウガンダベースボール
- 世界の野球 パラオ共和国 よみがえれ南洋の「ヤキュウ」魂
- 世界の野球 アフリカ球児の熱い青春!タンザニア野球“KOSHIEN”への道"
- 世界の野球 受け継がれるSri Lanka野球の物語~光り輝くスリランカ野球の夢~
- 世界の野球 セルビア野球の挑戦と葛藤 バルカン・ベースボール事情あれこれ
- 世界の野球 ケニア野球、一歩一歩 元独立リーガー日本人青年監督の奮闘!
- 世界の野球 欧州の野球事情
新着記事
ジャパン 関連記事
世界の野球 関連記事
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「ネパール野球25周年日本ネパールスポーツ交流プログラム2024-2025」2024年9月2日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「学校スポーツ連盟との協定」2024年4月12日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「1st National Baseball5 Championship 2024」2024年1月15日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「目指せ!体験から広がる笑顔の輪」2023年11月28日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球 「福島県×ネパール シャクナゲ交流」2023年10月2日 |