文・写真=NPO法人ネパール野球ラリグラスの会(小林 洋平)
前回の記事の最後で述べたように、ネパール野球はこれまでの活動の中で最大のピンチに直面しているのかもしれない。コロナ禍のこともあって、現地の野球関係者からは、この先続けて行けるかどうか不安の声も上がっている。
しかし、野球に限らず、新しいスポーツの普及は一朝一夕にできるものではない。日本の野球も現在の隆盛を極めるには長い年月が掛かっている。そもそも日本に野球が伝わったのは1872年のことで、開成学校(東京大学の前身)のアメリカ人教師ホーレス・ウィルソンによってもたらされたとされている。日本でも野球の普及には様々な壁があったと思われるが、現在のネパール野球の状況もその壁の一つなのかもしれない。長く続けていく間には、このような壁はいくつでも出てくるし、そのたびに壁を乗り越えるため努力しなければならない。
そして、コロナ禍の中、2020年に開催予定だった東京オリンピックも1年延期された。ご存知のように、この大会では野球が3大会ぶりに復帰する。野球の復帰が正式に決まったのは2016年のことであるが、野球の復帰に向けては、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)を中心に、世界の野球関係者が一丸となって復帰運動を展開し、私たちも微力ながら尽力してきた。オリンピックはネパール野球の活動を始めたときからの夢であったし、オリンピックへ挑戦することが近年のネパール野球の原動力となっていたことは間違いない。そして活動20周年を迎えた2019年に東京オリンピックの実質的な1次予選となる第14回BFA西アジア野球大会に出場することができた。東京オリンピックの開催に関しては様々なところで議論がなされているが、場合によっては予選も幻のものとなってしまうかもしれない。ただ、たとえそうなったとしても、東京オリンピックがひとつの具体的な目標となってネパールの人たちと「協働」が実践できたと考えれば、オリンピックは次の活動に繋がる有効なきっかけだったとも捉えられる。明確な目標設定は成長していくために必要不可欠な要素である。
ところで、ネパールの現状に目を転じると、コロナ禍で思い切って野球ができない中で、一部のチームでは子どもたちがキャッチボールで盛り上がっている。そのひとつ、バクタプルのチームの代表者であるローシャン・タパ氏は「厳しい状況だが、少しでも希望の光がある限り、活動を続けていきたい」と述べている。そもそもキャッチボールは私たちネパール野球ラリグラスの会(以下、ラリグラス)の活動の原点でもある。1999年、大学生がネパールでの海外研修中の空き時間にキャッチボールをしていると、人々が集まってきて物珍しそうにそれを見ていた。その後、それを不思議に思った学生たちが国家スポーツ評議会を訪問し当時の大臣に確認すると、ネパールには野球が全く無いという事実が伝えられたのである。キャッチボールというひょんな事がきっかけでネパールに野球が知られていないことを知り、ネパールの人々と野球で交流がしたいと考えた学生たちが野球普及活動を始めたのがラリグラスの始まりである。
ゼロから始まったネパール野球は、長年の活動の中で現地の人々による活動が増えて変化を見せるとともに、それを取り巻く社会環境も変わってきた。更に、昨年来のコロナ禍によって国内外を問わず人々の生活が様変わりたことで、活動の計画は白紙となり、この先の目標も不明確となっている。このような変化がある中で、私たちは活動の発展を図るために、法人名を4月14日から「日本アジア球友団ラリグラス」と改称し、今後はこれまでの活動を基礎としつつも、日本を含めたアジアにも広く目を向けた活動を行うこととした。改称の当日はネパールの元日であり、東京オリンピックの聖火がラリグラスの拠点である大阪市に来る日でもある。オリンピック出場は活動開始当初からの夢でもあるとともに、聖火は神々に捧げる神聖な火とされ、ネパールは神々の国と言われている。今日もネパールから子どもたちの「キャッチボール」の様子が報告されてきたが、今後も初心を忘れることなく、ひとりでも多くの同志や仲間を増やし共に活動していきたい。
- 2024年11月25日「カラダを動かす楽しさを伝えよう!」
- 2024年9月2日「ネパール野球25周年日本ネパールスポーツ交流プログラム2024-2025」
- 2024年4月12日「学校スポーツ連盟との協定」
- 2024年1月15日「1st National Baseball5 Championship 2024」
- 2023年11月28日「目指せ!体験から広がる笑顔の輪」
- 2023年10月2日「福島県×ネパール シャクナゲ交流」
- 2023年8月30日「ネパール最古参選手」
- 2023年7月14日「ネパール野球ソフトボール協会の新体制発足」
- 2023年6月14日「在日ネパール人による野球体験会」
- 2023年3月27日「WORLD BASEBALL CLASSIC™ 2023」
- 2023年3月1日「ONE WORLD」
- 2022年12月28日「アジア野球連盟審判講習会」
- 2022年10月7日「在日ネパール人との連携」
- 2022年7月20日「第4回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2022年4月15日「主体的な活動」
- 2022年2月14日「ピンチはチャンス」
- 2021年12月22日「ネパール・ベースボール・フェスティバル」
- 2021年11月9日「行動」
- 2021年8月30日「世界への普及を目指して」
- 2021年7月15日「キャッチボールクラシックオンライン国際交流大会プレ大会2021」
- 2021年4月26日「原点に戻る」
- 2021年3月22日「協働」
- 2020年12月25日「迫られる変革」
- 2020年10月1日「WEB野球教室」
- 2020年7月20日「変わるもの、変わらないもの」
- 2020年5月14日「世界がひとつになって逆境を乗り越える」
- 2020年3月2日「ネパール観光年2020」
- 2019年12月25日「ワールドマスターズゲームズ2021関西」
- 2019年12月10日「第3回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2019年11月8日「ネパールへの直行便」
- 2019年9月19日「第14回BFA西アジア野球大会2019」
- 2019年7月2日「政府機関とのつながり」
- 2019年5月22日「第2回ネパール全国野球大会2019」
- 2019年5月4日「北海道ベースボールリーグ」
- 2019年4月15日「国際大会へ、ネパールを応援する人々」
- 2019年3月18日「侍ジャパンシリーズ2019 日本対メキシコ」
- 2019年3月1日「アジア野球連盟総会」
- 2019年2月13日「国際交流活動との出会い」
- 2019年1月9日「野球を通じた国際理解」
- 2018年11月5日「グラウンド開所式」
- 2018年10月26日「ネパールのソフトボール」
- 2018年9月5日「第28回世界少年野球大会」
- 2018年8月3日「楽天イーグルスとの対戦」
- 2018年7月31日「ネパールでのグラウンド建設」
- 2018年7月2日「東京オリンピックへの道のり」
- 2018年5月8日「PRESIDENTIAL CUP」
- 2018年4月16日「新たなネパール代表チームの選考」
- 2018年4月2日「日本の大学生との野球交流」
- 2018年2月5日「パキスタン野球連盟カワール・シャー会長を偲ぶ」
- 2017年12月27日「ネパール野球ソフトボール協会の奮闘」
- 2017年12月6日「ネパール野球ソフトボール協会の来日」
- 2017年11月29日「南アジア交流野球教室」
- 2017年10月31日「第2回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2017年10月10日「ネパール代表選手の日本での活動」
- 2017年9月22日「ネパール代表選手、ゼロロクブルズで学ぶ」
- 2017年8月21日「北海道での挑戦始まる」
- 2017年7月25日「スポーツ庁長官感謝状」
- 2017年6月23日「スポーツで広げる友好の輪」
- 2017年6月7日「北海道での挑戦」
- 2017年4月18日「第13回BFA西アジア野球大会2017 vol.2」
- 2017年4月4日「第13回BFA西アジア野球大会2017 vol.1」
- 2017年2月14日「世界最下位からの挑戦」
- 2017年2月9日「代表強化合宿」
- 2017年2月3日「ネパール人コーチの来日」
- 2017年1月10日「ネパール代表チーム」
- 2016年12月28日「もうひとつのWBC」
- 2016年12月16日「ネパールU15野球大会」
- 2016年11月25日「NHKの新番組『世界はTokyoをめざす』」
- 2016年10月7日「ネパール野球とオリンピック」
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- 2016年8月22日「東北楽天イーグルスのネパール支援」
- 2016年6月13日「日本に住むネパール人への野球普及」
- 2016年5月19日「被災地の野球事務所に見た信念」
- 2016年5月2日「ネパール復興支援野球大会」
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- 2015年10月15日 「野球指導員、ネパールでの活動」
- 2015年8月21日 「ネパール野球の有望株」
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