文・写真=NPO法人ネパール野球ラリグラスの会(小林 洋平)
前回のコラムでも触れたように、世界では野球はまだまだ普及しておらず、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)がベースボール5の普及を進めるなど、野球普及のために様々な取り組みがなされている。そして、こうした野球普及に取り組むため、世界各地で多くの人が活動している。しかしながら、日本においても、こういった人々の活動の状況は一般にはなかなか伝わってこないのが現状である。ましてや野球が盛んではない国では、野球のことが報道されたとしてもそのニュースに関心のない方々が圧倒的に多い。だが「伝える」ことを止めることは競技の衰退にもつながる行為であり、仲間や競技人口を増やし発展させていくためには、野球の魅力を伝え続けるしかない。
また先日、ネパールにおいては、ネパール野球ソフトボール協会のディパック・ネウパネ事務局長が現地の放送局OEPLのテレビ番組「Sports Hour」に出演し、ネパール野球について30分間の特集が放映された。ネパールで野球がこのような形で番組に取り上げられる機会はあまり無いので、ネパール国内に野球を知ってもらうための貴重な機会となった。ディパック・ネウパネ事務局長も「この番組を観て野球に興味を持ってくれて、野球に関わる人が増えてくれると嬉しい」と述べている。
ところで、ネパールはこの時期、大きなお祭りが続いた。ネパールは6月から9月までが雨季で、雨季が明けた後に来るこのお祭りの時期は休みが続き、現地では人々の仕事も停滞しがちになる。具体的にお祭りを紹介すると、まず10月には、ネパール最大のお祭りで、女神ドゥルガーが人々を苦しめていた魔物に勝利したことを祝うヒンズー教のお祭り「ダサイン」が15日間に渡って行われる。そして、11月にはダサインと並ぶ重要なお祭りである「ティハール」が行われる。ティハールは、富や繁栄、収穫などを祝うヒンズー教のお祭りである。ティハールでは、富と繁栄を司る女神であるラクシュミーを家に迎えて祈りを捧げるために街が花や明かりで美しく飾り付けられることから「光の祭り」とも呼ばれている。また、これらのお祭りの時期には、現地の野球チームによっては「ダサイン・カップ」や「ティハール・カップ」と名付け、試合やイベントを行うところもある。そして今年は、関西独立リーグの06ブルズの元投手で、日本で私たちと共に活動しているイッソー・タパ氏もティハールの時期に合わせて久しぶりにネパールに里帰りした。イッソー・タパ氏は「コロナの影響で、ネパールに帰りたくても帰れなかったが、やっと帰ることができた。久しぶりに家族や友人、野球仲間と会え、ネパールでティハールを過ごすことができて嬉しい。野球もしばらく活動が止まっていたが、ネパールの仲間たちとまた盛り上げて、野球を通じて成長していきたい」と話している。
ネパール野球の活動を進めていくためには、冒頭でも紹介したとおり、情報発信も重要な要素のひとつである。私たちのネパール野球の活動は、野球を通してネパールの人たちと交流したいとの想いから始まったし、日本とネパールの友好を促進するという目的もある。そういう意味で、野球の情報はもちろん大切であるが、例えばダサインやティハールのようなネパールの文化や人々の生活といった情報を伝えるのも重要であると考えている。野球をきっかけにネパールに興味を持った人が、ネパールについて理解を深めることでネパールとの友好促進につながれば嬉しい限りである。
さて、ダサインやティハールで盛り上がったネパールであるが、年内には野球大会の開催も検討されており、12月には、以前のコラム(2021年7月15日付「キャッチボールクラシックオンライン国際交流大会プレ大会2021」)で紹介したようにネパールも出場するキャッチボールクラシックの本大会が予定されている。コロナ禍もあってしばらく活動が停滞していたネパール野球ではあるが、コロナ禍も徐々に落ち着きつつあり、現地では以前のように野球ができることを心待ちにしている選手も多い。
しかし、私たちやネパール野球ソフトボール協会では以前の状況に戻すことを「目標」とはしておらず、活動を前進させていきたいという想いでいっぱいである。そのためにも具体的にどのような形で野球を発展させていくのか、ありたい姿から現状を把握し、その差を埋めるための計画作り、逆算して物事を進めていける体制を作っていきたい。ビジョンを明確にし、強い信念を持ってぶれずに努力を続ければ、必ず道は開けると信じている。
- 2024年9月2日「ネパール野球25周年日本ネパールスポーツ交流プログラム2024-2025」
- 2024年4月12日「学校スポーツ連盟との協定」
- 2024年1月15日「1st National Baseball5 Championship 2024」
- 2023年11月28日「目指せ!体験から広がる笑顔の輪」
- 2023年10月2日「福島県×ネパール シャクナゲ交流」
- 2023年8月30日「ネパール最古参選手」
- 2023年7月14日「ネパール野球ソフトボール協会の新体制発足」
- 2023年6月14日「在日ネパール人による野球体験会」
- 2023年3月27日「WORLD BASEBALL CLASSIC™ 2023」
- 2023年3月1日「ONE WORLD」
- 2022年12月28日「アジア野球連盟審判講習会」
- 2022年10月7日「在日ネパール人との連携」
- 2022年7月20日「第4回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2022年4月15日「主体的な活動」
- 2022年2月14日「ピンチはチャンス」
- 2021年12月22日「ネパール・ベースボール・フェスティバル」
- 2021年11月9日「行動」
- 2021年8月30日「世界への普及を目指して」
- 2021年7月15日「キャッチボールクラシックオンライン国際交流大会プレ大会2021」
- 2021年4月26日「原点に戻る」
- 2021年3月22日「協働」
- 2020年12月25日「迫られる変革」
- 2020年10月1日「WEB野球教室」
- 2020年7月20日「変わるもの、変わらないもの」
- 2020年5月14日「世界がひとつになって逆境を乗り越える」
- 2020年3月2日「ネパール観光年2020」
- 2019年12月25日「ワールドマスターズゲームズ2021関西」
- 2019年12月10日「第3回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2019年11月8日「ネパールへの直行便」
- 2019年9月19日「第14回BFA西アジア野球大会2019」
- 2019年7月2日「政府機関とのつながり」
- 2019年5月22日「第2回ネパール全国野球大会2019」
- 2019年5月4日「北海道ベースボールリーグ」
- 2019年4月15日「国際大会へ、ネパールを応援する人々」
- 2019年3月18日「侍ジャパンシリーズ2019 日本対メキシコ」
- 2019年3月1日「アジア野球連盟総会」
- 2019年2月13日「国際交流活動との出会い」
- 2019年1月9日「野球を通じた国際理解」
- 2018年11月5日「グラウンド開所式」
- 2018年10月26日「ネパールのソフトボール」
- 2018年9月5日「第28回世界少年野球大会」
- 2018年8月3日「楽天イーグルスとの対戦」
- 2018年7月31日「ネパールでのグラウンド建設」
- 2018年7月2日「東京オリンピックへの道のり」
- 2018年5月8日「PRESIDENTIAL CUP」
- 2018年4月16日「新たなネパール代表チームの選考」
- 2018年4月2日「日本の大学生との野球交流」
- 2018年2月5日「パキスタン野球連盟カワール・シャー会長を偲ぶ」
- 2017年12月27日「ネパール野球ソフトボール協会の奮闘」
- 2017年12月6日「ネパール野球ソフトボール協会の来日」
- 2017年11月29日「南アジア交流野球教室」
- 2017年10月31日「第2回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2017年10月10日「ネパール代表選手の日本での活動」
- 2017年9月22日「ネパール代表選手、ゼロロクブルズで学ぶ」
- 2017年8月21日「北海道での挑戦始まる」
- 2017年7月25日「スポーツ庁長官感謝状」
- 2017年6月23日「スポーツで広げる友好の輪」
- 2017年6月7日「北海道での挑戦」
- 2017年4月18日「第13回BFA西アジア野球大会2017 vol.2」
- 2017年4月4日「第13回BFA西アジア野球大会2017 vol.1」
- 2017年2月14日「世界最下位からの挑戦」
- 2017年2月9日「代表強化合宿」
- 2017年2月3日「ネパール人コーチの来日」
- 2017年1月10日「ネパール代表チーム」
- 2016年12月28日「もうひとつのWBC」
- 2016年12月16日「ネパールU15野球大会」
- 2016年11月25日「NHKの新番組『世界はTokyoをめざす』」
- 2016年10月7日「ネパール野球とオリンピック」
- 2016年10月4日「ネパールの雨季」
- 2016年8月22日「東北楽天イーグルスのネパール支援」
- 2016年6月13日「日本に住むネパール人への野球普及」
- 2016年5月19日「被災地の野球事務所に見た信念」
- 2016年5月2日「ネパール復興支援野球大会」
- 2016年4月4日「野球途上国 共通の課題」
- 2016年3月17日「ネパールから日本へ」
- 2016年3月14日「さらなる野球普及へ」
- 2016年2月10日【西アジアの野球ネパール編】〜野球普及への葛藤と模索〜
- 2016年2月9日【西アジアの野球ネパール編】〜野球を拡める課題と苦労〜
- 2016年2月2日「動き出した時間」
- 2016年1月7日「復興支援野球大会の延期」
- 2015年10月15日 「野球指導員、ネパールでの活動」
- 2015年8月21日 「ネパール野球の有望株」
- 2015年6月2日 「希望から絶望へ」
- 2015年4月20日 「ネパール野球の現状」
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