世界の野球

"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国ネパールの野球「在日ネパール人による野球体験会」

2023年6月14日

文・写真=NPO法人日本アジア球友団ラリグラス(小林洋平)

　以前にも紹介したとおり、ここ数年、ネパールでは政治的混乱やコロナ禍などで野球を含む全てのスポーツの運営が停止や停滞を余儀なくされていた。しかし、それも最近ようやく正常化の兆しを見せ、長いトンネルを抜け出そうとしている。野球に関して言えば、ネパール野球ソフトボール協会のディパック・ネウパネ氏からの報告によると、現地では長らく延期となっていたネパール野球ソフトボール協会の総会と役員選挙が6月17日、18日に行われることが発表された。総会と選挙が実施されて新体制が整えば、協会の運営も正常に行われるものと考えている。また、新体制の下では今後、全国数か所の地区で支部組織が設立され、野球の普及に務めていくとのことである。

　ネパールでの活動が停止している間、私たちも現地との連携が困難となっており、日本でも様々な活動を見合わせていた。しかし、現地の活動に正常化の見込みが立ったのを受け、日本でも私たちの新たな取り組みが動き出した。過去の記事で在日ネパール人による野球チームを結成する構想について述べたことがあるが（2022年10月7日付「在日ネパール人との連携」参照）、その準備の一環として去る5月27日に大阪で在日ネパール人のための野球体験会を開催した。この野球体験会も数年前から計画していたが、現地との連携を重視していたことから開催を見合わせていたものである。

　現在、日本在住のネパール人は約14万人を数え、大阪市にも昨年末で約6,800人のネパール人が住んでいる。彼らの中には、日本に来てから野球に興味を持った者もおり、先日ワールド・ベースボール・クラッシックが開催された際にも在日ネパール人から多くの問い合わせが私たちに寄せられた。私たちは数年前から在日ネパール人とも野球で盛り上がっていきたいと考え、ひいては在日ネパール人との協働により野球を通じてネパールの発展に繋げるべく、上述の在日ネパール人野球チーム結成構想を持っていた。また、この構想が実現すれば、例えばネパール人野球チームが日本の学生らと野球を通じて国際交流をするといった活動が日本国内でも可能となる。今回の野球体験会は、その構想実現への第一歩として、野球経験の無い在日ネパール人が野球を体験できる場を設けるために企画したものであるが、現地ネパールの停止期間中は一過性のイベントになりかねないとの懸念があった。しかし、現地が動き出したことで、私たちも開催を進めることにした。

　野球体験会の当日は主に大阪在住のネパール人ら約30人が参加した。彼らのほとんどは野球をするのが初めてで、もちろん野球道具に触ったことさえない。野球体験会では、まずグローブやバットといった道具の説明をし、その後、ボールを使った練習を行った。そして最後にはランニングゲーム（ベースランニングのリレー）で締めくくった。今回の野球体験会では、参加者に野球を楽しんでもらうことを最優先に考えて内容を決めた。野球のルールを覚えることも無論必要であろうが、それは敢えて後回しにして、今回は、投げる、捕る、打つといった野球の基本動作を体験することに注力した。

　また、会場には参加者の家族や友人のネパール人も見学に来ていて、飛び入りで練習に参加するなど、野球体験会は大盛況のうちに終了した。参加者からは、「日本に来て初めて野球を知った。テレビでルールを覚えたことで野球の楽しさが分かったが、今回初めてプレーしてみて、その思いはさらに強くなった」、「今後も野球をやりたいので、イベントを続けて欲しい。周りの仲間にも紹介していきたい」といった声があった。中には「ネパール代表選手になりたい」と夢を語る若者もいた。

　この野球体験会は今後も継続して開催していく。多くの在日ネパール人が野球の楽しさを知り、野球を始めるきっかけになればと思う。こうした活動は日本とネパールを繋げるためのひとつの手段にすぎないが、野球の仲間を増やすための取り組みでもある。今後結成される在日ネパール人の野球チームを日本とネパールの架け橋として、ネパール本国での野球の発展とともに、日本で野球を通じた国際交流の場を増やすことに繋げていく。