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"世界の野球"「アンダー世代を中心に世界で頭角を現すチェコ」

2015年3月3日

文=横尾弘一

 昨年11月に台湾で開催された第1回21Uワールドカップが二次リーグに入った時、現地ボランティアの間で「チェコ代表が大変らしい」という話が交わされていた。聞けば、一次リーグでイタリアとメキシコを破り、2勝3敗のAグループ3位で二次リーグ進出を果たすという歴史的快挙を成し遂げたのだが、そんな快進撃を想定していなかったのか、帰りの航空券の変更に手間取っているというのだ。そんな裏話があった二次リーグ第1戦では日本と対戦。0-15で5回コールド負けしたが、満塁での悪送球などミスをなくせば、点差ほど実力は離れていないという印象を受けた。そして、世代別の世界大会とはいえ出場11チーム中6位、しかもヨーロッパ勢ではイタリア、オランダより上位に進出したという事実は、急速に発展を続けるチェコの野球をさらに進化させるに違いないと感じた。

 ヨーロッパの他国と同じように、第一次世界大戦後に独立したチェコスロバキア共和国にも、アメリカ人によって野球が伝えられたという。ただ、民族的対立や他国の侵攻もあってスポーツが普及する土壌は作られず、第二次世界大戦後に旧ソビエト連邦の影響下で共産主義政権が確立されると、西側諸国のリーダーであるアメリカを象徴する野球は、一部の地域で娯楽程度に楽しまれるものだったという。国際野球連盟(IBAF)に残る文献によれば、1964年に首都プラハにある大学の学生たちが、ソフトボールから転換する形で結成したのが最初の野球チームだったという。彼らは1966年には一時的にヨーロッパ野球連盟に加盟し、イタリア、オランダのほかベルギーやポーランドにも遠征している。だが、その後も野球が根づくことはなかったが、1989年からのビロード革命によって共産党体制が崩壊すると、翌1990年に国内リーグのエクストラ・リーガが創設される。さらに、1993年1月のビロード離婚によってチェコ共和国とスロバキア共和国に平和的分離を果たすと、チェコ、スロバキアともに、すぐに国際野球連盟へ加盟。代表チームも編成され、欧州圏の国際大会には1990年代からエントリーしている。

 日本をはじめ、アメリカ大陸やアジア圏の野球関係者や選手たちから「チェコも野球に力を入れているのか」と認識されたのは、2005年にオランダで開催された第36回IBAFワールドカップだった。大会の開幕直前に、ヨーロッパ代表のギリシャが出場を辞退したことにより、IBAFから出場の要請を受けると快諾。日本と同じ予選リーグBグループで8戦全敗だったものの、同グループ2位のニカラグアとは0-1の接戦を演じ、アメリカにも3-7と食らいつくなど、エース級の投手が登板する試合では予想以上の健闘を見せた。この事実上の世界デビュー以降、チェコは積極的に国際大会へ参加するようになる。2007年8月には、中国・北京で行なわれた北京オリンピック・プレ大会で日本と対戦。カンザスシティ・ロイヤルズ傘下でプレー経験のあるパベル・ブドスキーが大場翔太(現・福岡ソフトバンク)から先制2ランを放ち、延長11回に2-3でサヨナラ負けするも、レベルアップした姿を披露した。

 さらに、2008年には第4回世界大学選手権を開催する。現在でもプラハと並んでチェコ野球のメッカとして知られるブルノを舞台に行なわれた大会には7チームが出場し、決勝ではアメリカが1-0で日本を破って優勝。ホストのチェコはリトアニアから挙げた1勝のみに終わったが、よく整備された球場にマナーのいい観客、そしてチェコのホスピタリティには称賛が集まる素晴らしい大会となった。このように、チェコの野球が着実に進化している背景には、チームの強化のみならず、球場をはじめとするインフラの整備、ユース世代の積極的な育成があると言われている。

 そうして世界の舞台での存在感を示した結果、第3回WBCから予選を導入することが内定した際には参加を認められ、2012年9月にドイツで行なわれた予選2組に、カナダ、ドイツ、イギリスとともに出場。一回戦でドイツに6回コールドで敗れると、敗者復活一回戦でもイギリスに打ち負け、WBC初勝利を手にすることはできなかった。しかし、平均年齢26歳と若いチームには、豊かな将来性を備えたタレントが揃っていた。その筆頭が、この年に来日してBCリーグの石川ミリオンスターズでプレーしていたヤクブ・スラデック内野手だ。フィラデルフィア・フィリーズ傘下でも腕を磨いた左打ちのスラッガーは、現在ではチェコ代表の四番に座り、昨年の欧州選手権でも打率.517(2位)、5本塁打(1位)、13打点(2位タイ)と目立つ成績を収めている。また、202cmと長身の右腕ミヒャエル・ソボトカ、2007年にはクリーブランド・インディアンス傘下でプレーしたマルティン・セルヴェンカ捕手は、昨年の21Uワールドカップにもオーバーエイジ枠で出場している。

 次世代を担う中にも、21Uワールドカップのイタリア戦で本塁打を放ったリカルド・サザフスキー外野手、大逆転勝ちしたメキシコ戦でリリーフ起用されたマテイ・ブラベックなど、日本でプレーしていても目立つパフォーマンスを見せてくれると思える逸材がいる。昨年は12U欧州選手権で3位、15U欧州選手権で2位、21U欧州選手権では優勝と、地道な育成と強化で各世代が台頭しているチェコでは、エクストラ・リーガがテレビ中継されているそうで、他国の関係者も「そうやって確実にファンを開拓していく努力は、リーグのレベルアップにも必ずつながるだろう」と高く評価している。今季もコトラーカ・プラハ、ドラッシ・ブルノをはじめ、プラハとブルノを中心に8チームが5回総当たりの35試合を戦うフクストラ・リーガから、どんな選手が頭角を現すのか楽しみだ。そして、チェコ出身のメジャー・リーガーは、アメリカで育ったカール・リンハルトという選手が1952年にデトロイト・タイガースでプレーしたのが草分けだが、近い将来にレギュラークラスの選手が出てきても不思議ではないだろう。また、活躍の場を日本に求める選手は現れるか。いずれにしても、チェコの野球からは目が離せない。

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