12月10日に閉幕した「第30回 BFA アジア選手権」(12月3日から台湾・台北、台中)。侍ジャパン社会人代表はトッププロ選手を擁するチャイニーズ・タイペイを2度破るなど全勝で2大会ぶり20回目の優勝を果たした。今大会の勝因を総括し、今後の同代表を展望する。
プロ選手相手に「平常心の野球」
日本の社会人野球のレベルの高さを証明する優勝だった。チャイニーズ・タイペイと韓国は約4分の3をプロ選手が占め、特にチャイニーズ・タイペイは、日本戦にそれぞれ先発した元カブスの曾仁和(台湾・楽天)と台湾シリーズMVPの徐若熙(味全)、11月のアジアプロ野球チャンピオンシップでも本塁打を放った劉基鴻(味全)らトップ選手を多く擁して、今大会がこけら落としとなった台北ドームでの優勝を狙ってきていた。
そんな強敵相手でも川口朋保監督は「自分を信じて、いつもと同じように、やるべきこと、コントロールできることをやりましょう」と平常心の大切さを繰り返し伝え、試合後には「選手たちがベストを尽くそうと最善の準備をしてくれました」と何度も口にした。
また、試合に出ている選手がカバーし合うことはもちろん、試合に出ていない選手も試合前の声出しやベンチでの声かけなどで最大限の尽力をした。
これは10月の第19回 アジア競技大会(中国・杭州/結果は3位)に出場した選手が10人いたことに加え、優勝した昨年の第4回 WBSC U-23ワールドカップの経験者が13人(両大会に出場した選手を含む)いたことも大きいだろう。主将の中村迅(NTT東日本)を中心に積極的にコミュニケーションを取る姿が頻繁に見受けられ、中村は「試合を重ねるごとにチームワークや結束力が高まったと思います」と振り返った。
最大目標に向けて求めていくこと
試合ではパワーある相手に、攻守で真っ向から立ち合った。これは10月のアジア競技大会まで約7年指揮した石井章夫前監督の方針を川口監督も踏襲した形で、投手はストレートを中心にストライク先行で強気に投げ込み、打者はバントをせず積極的に力強いスイングをし、走塁では果敢に次の塁を狙った。
こうしてチャイニーズ・タイペイや韓国の投手陣は140キロ台後半から150キロを超えるストレートを投げ込んできたが日本の打者は打ち返し、日本の投手陣は140キロ前後から140キロ中盤のストレートが主ながらチャイニーズ・タイペイを2試合で合計19回無失点(延長タイブレークの1イニングを含む)、韓国を9回2失点に抑え込んだ。
川口監督は「スピードが出れば出るほど打ちにくくはなるとは思うのですが、スピードだけではなくキレや回転数といったところは日本の投手陣の方が上回っていたと思います」と、投手力の高さを自負した。一方で安打はある程度打ちながらも、チャイニーズ・タイペイ戦を2試合で合計18回2得点(延長タイブレークの1イニングを含む)、韓国戦で8回5得点という結果を踏まえ、「150キロ以上の球を打ち返していくという課題は持ち越しになるのかなと思いました」と、川口監督はさらなる打力強化の必要性を語った。
これはこの優勝がゴールでは無く、2026年に愛知県で行われる第20回 アジア競技大会での金メダルが最大目標となるからだ。今大会で2試合とも1対0の接戦となったチャイニーズ・タイペイはもちろん、今回は若手のプロ選手と大学生というメンバー構成だった韓国も、アジア競技大会では国内トップ選手を揃えてくるだろう。
大会終了後の選手たちからも「3年後のアジア競技大会で金メダルを獲得するために」という話が多く出た。そこに向けても、日本の社会人野球の強さを示せたことは大きな自信となるだろう。大会MVPを獲得した向山基生(NTT東日本)は「僕らはプロではないですが、誇りを持ってやっている仕事なので、それをアジア選手権優勝という形で示すことができて良かったです」と胸を張った。また、ベストナイン(先発投手)を獲得し投手陣最年長の嘉陽宗一郎(トヨタ自動車)は「プロ・アマのカテゴリーは関係ないと思っています」ときっぱり話し、「チャイニーズ・タイペイの投手がすごかったので、日本人投手もストレートにこだわって、1人でも多く球の速い投手が出てくるよう課題を持って取り組んでいきたいです」と、投手陣もさらなる強化が必要だと明かした。
来年は第5回 WBSC U-23ワールドカップ(9月に中国・紹興市)での連覇と若手発掘を目指し、さらなる底上げを目指す。川口監督は今大会を「優勝という結果はもちろんですが、選手の“チャレンジする”というベースを作れたことが嬉しいです」と充実した笑顔で振り返った。トッププロ選手たちを破ってのアジア競技大会金メダル獲得という大きな挑戦に向かい、侍ジャパン社会人代表の挑戦は続く。
個人賞獲得選手コメント
向山基生(NTT東日本)
大会MVP、最多打点、ベストナイン(外野手)
「アジア競技大会が悔しい結果(銅メダル)に終わっていて、この大会で活躍したいと思っていました。積み重ねきたことの結果が出て嬉しいです。川口監督に良い評価をいただいて“攻撃的2番で行くぞ”と言われていたので、自信を持って臨むことができました」
矢野幸耶(三菱重工East)
最多得点、ベストナイン(二塁手)
「チームが優勝したことが一番で、タイトルはその後付いてきたという印象です。塁に出ることが自分の役割だと思っていました。最多得点は僕の後を打つ向山たちのおかげです」
嘉陽宗一郎(トヨタ自動車)
ベストナイン(先発投手)
「タイトルは狙っていなかったので獲ることができてラッキーでした。プロ選手たち中心の編成のチャイニーズ・タイペイや韓国に勝てたことで、今後の社会人野球のレベルアップや盛り上がりに繋がると思います」
第30回 BFA アジア選手権
大会期間
2023年12月3日~12月10日
オープニングラウンド(グループB)
12月4日(月)19:30 日本 14 - 0 パキスタン
12月5日(火)19:30 タイ 0 - 16 日本
12月6日(水)19:30 日本 9 - 1 フィリピン
※開始時刻は日本時間(台湾:時差-1時間)
スーパーラウンド
12月8日(金)19:30 チャイニーズ・タイペイ 0 - 1 日本
12月9日(土)13:30 日本 5 - 2 韓国
※開始時刻は日本時間(台湾:時差-1時間)
決勝
12月10日(日)19:30 日本 1 - 0 チャイニーズ・タイペイ
開催地
台湾(台北・台中)
出場する国と地域
グループA
チャイニーズ・タイペイ、韓国、香港、パレスチナ
グループB
日本、フィリピン、パキスタン、タイ