日本野球を支える小・中学生の指導者(特に軟式野球)を対象に、野球指導の技術的知識や、けが防止、体づくりなどをテーマに侍ジャパン経験者が基礎的レベルを指導。さらなる競技人口の維持・拡大をサポートするために立ち上げられた侍ジャパン「野球指導者スキルアップ講習会」。2014年12月の関西から北海道・新潟・沖縄・山形・徳島、山口と巡っての第8回開催は2月4日(土)三重県四日市市にある「四日市ドーム」。朝10時までにはこれまでの開催において最大規模となる186名が集った。
午前中に行われた座学ではまず中村和史氏(医師/日本体育協会認定スポーツ医)が、「小・中学生の体の特徴とけが予防」というテーマで講演。最初に中村氏は生死にかかわる脳震盪、心身振盪、熱中症について、死亡例があること伝えながらそのリスクを説明。また、小中学生における投球障害は投球フォームの改善や、痛みが感じる前に、利き腕の肘の関節が硬かったり、曲げることができない場合はすぐに病院で受診することが深刻化にさせないための防止策だと語った。
続いては青山晴子氏(株式会社明治 スポーツ栄養アドバイザー/2016年侍ジャパンU-15担当)が登壇。「野球選手の栄養と食事」の講演で、青山氏はパフォーマンスアップにおいて、食事面は基礎・基本となり「午後の実技では元プロの方々の素晴らしい指導をいただき、子供たちに実践すると思いますが、その技術も、しっかりとした食事量や栄養バランスを摂らなければ伸ばすことができません」と断言。参加者に「炭水化物、脂質、たんぱく質、ミネラル、ビタミン」の5大栄養素に乳製品を加えた栄養フルコース型の食事を実践することを勧めつつ、「時間がなくて、弁当が作れず、コンビニの弁当を買うときでも、野菜や乳製品、果物を一緒に買うことでバランスが取れるので、ぜひ意識してほしい」とアドバイスを送っていた。
昼食休憩を挟んで午後からは引き続きドームでの実技指導へ。指導者陣は、参加者が主に指導する小学生へ伝わるように、今まで培った技術をかみ砕いて解説した。
最初の走塁指導では、仁志敏久氏(侍ジャパントップチーム内野守備・走塁コーチ/侍ジャパンU-12代表監督)が登場。仁志氏は駆け抜け時の注意点やオーバーランのコツ、リード時のコツを解説。続いて仁志氏はキャッチボールの指導、捕球時の姿勢や、捕球してからすぐに送球に移行できるよう、左足の運び方も解説した。
その後は、参加者は4つのグループに分かれて各ポジションで指導を受けた。
投手を担当したのは鹿取義隆氏(侍ジャパンテクニカルディレクター/侍ジャパンU-15代表監督)と薮田安彦氏(2006WBC日本代表)である。鹿取氏は、ボールの握り、足上げ、テークバック、リリース、フィニッシュと一連の流れを解説。薮田氏はこのフォームの基本をベースに「特に小中学生にみられる動作で、グラブを持った腕を使えず、投げる腕の力だけで投げてしまう選手が非常に多い。たとえば右投手の場合は左腕を捕手方向へ真っすぐ伸ばして、胸へ抱え込む動作をしっかりとやらせることを伝えてください」とアドバイスを送った。
捕手を担当したのは里崎智也氏(2006WBC日本代表/北京五輪日本代表)。「捕球するときに人差し指を12時に向けるイメージで捕球してください。そうすると360度にミットを動かせるので、内側でも外側でも逆球に対応ができます」とキャッチングのコツを分かりやすく説明。また、スローイングでも左腕の使い方が「キー」と語った。
内野手は仁志氏が指導。まず「キャッチボールの際に教えた『捕る瞬間に左足をすぐに運んで送球に移行する動作』はそのまま内野守備につながっています。なので、ボールを転がしますので、その意識でやってみてください」と参加者を呼んでボールを転がし、難なく捕球するのを確認すると、次に「守備は簡単にできる動作をやることが大事で、難しくやろうとするとうまくなりません。送球も、捕球もキャッチボールから磨いていってください。小学生には捕る形を教える必要は全くないと思っています」と、改めてキャッチボールの重要性を説いた。
外野手は多村仁志氏(2006WBC日本代表)が指導。多村氏は小中学生向けに「ボールを捕りにいくのではなく、包み込むイメージで捕球するように指導してください。捕りにいくイメージでやるとガバッといくので優しい捕り方にならず捕球ミスにつながりますが、包み込みなさいというと子供たちは最初からグラブを添えていて、グラブを柔らかく使えるので、捕球がしやすくなります」と分かりやすく外野手捕球の基本を話した。
最後は全員が集まり、多村氏が講師になっての打撃指導。多村氏は自らスイングを行い、レベルスイングの定義や、現役時代に行っていたタイミングの取り方、上半身、下半身の使い方などを解説。また参加者にティーバッティングを打たせて、打撃指導を行った。
こうして6時間余りの講義は充実の内容で終了。講義ごとにメモを取り、講師たちに質疑応答を投げかける指導者たちも大勢いるなど、将来の野球人口拡大とレベルアップへ向けた「野球指導者スキルアップ講習会」は、回を重ねることにその意義は深まっている。こうした侍ジャパンの地道な活動が、日本の野球国力底上げの一助となる。