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"世界の野球" ”アフリカからの挑戦・赤土の青春” ウガンダベースボール「ウガンダ人選手が見た日本」

2016年11月4日

文・写真=長谷一宏(JICA青年海外協力隊・ウガンダ野球ナショナルコーチ)

 こんにちは。
 前回では実力はあるものの「問題児集団」とされる「第二世代」の選手達についてお伝えしました。彼らはかつて参加した国際大会でそれまで強豪とされていたサウジアラビアや南アフリカと善戦し、練習をすれば好結果がでるという成功体験を得ました。しかし一方でこれらの国よりまだまだ強い国を知らないために自分達の力は世界でも通用するという過信も生まれてしまいました。そのような経緯があり、ウガンダ野球の発展のためには選手達が「自分達の力はまだまだだな」と痛感するような大敗、失敗体験も必要なのではないかと記しました。今回はそんな第二世代の選手が日本で奮闘する様子をお届けします。

現在日本へ野球留学中のカトー選手の出発前の様子

 今秋、「ウガンダ人選手派遣プロジェクト」が立ち上がり、2人のウガンダ人選手が日本へ行くチャンスを手にしました。
 1人目はカトー・エリック選手です。8月31日より和歌山大学硬式野球部にて練習を行っています。カトーの印象は「1人で努力のできる選手」。彼より速い球を投げるピッチャーもいましたが、野球を始めてからの練習量と成長速度は一番でした。また、問題児の多い第二世代の選手のなかでも真面目で礼儀正しいことが好印象でした。
 今回の選手派遣には青年海外協力隊短期ボランティアとして半年間に渡り、ウガンダで私の活動を支えてくれた和歌山大学の学生である土井拓哉くんが協力をしてくれています。

2人で直面したウガンダ野球の課題と描いた未来

 土井が私の活動のサポートとしてウガンダに来たのは私がウガンダに来て1年が過ぎようとしていた頃でした。それまでの活動の中で得た情報を基にウガンダ野球の未来について考える日々が続いていた頃です。

「プロリーグが存在しない(野球をすることで給料をもらえる訳ではない)ウガンダ野球を国内で発展させるためにはどうすればいいのだろう」
「選手達が大人になって過去を振り返った際『野球をやっていてよかったな』と思えるようにするためにはどうすればいいのだろう」
「個人が貧しいこの国では親や地域、周囲の人の理解と協力が不可欠。周りの人々が野球選手をサポートしたくなるようにするにはどうすればいいのだろう」

 みなさんはどう思いますか?答えは人それぞれであると思います。「野球を通じて野球の技術や楽しさを伝えるだけではなく、教育的価値を提供できなくてはこの国では野球は発展しない。」というのが我々が出した結論です。

「野球を通じて人を育てる」
 それがウガンダで野球を発展させるための鍵になりました。しかし、その中で、悩みや葛藤がありました。根本的に文化が異なることです。時間を守る、何事も全力で取り組み諦めない、物を大切に扱う、周りの人のことを考える。これらは日本で常識とされていることです。これらを現地で伝える際に、「ウガンダの文化ではないから難しい。」「それはコーチが野球をしてきた環境のみでの教えだ。」と思われることもありました。“このままでは選手が就職などを機に野球を退いた際に、何も残らない。”将来ウガンダ野球がどうなるのか不安に感じました。(土井)

 その後どのような点に希望を見出し、選手派遣プログラムの実行に至ったのか。経緯の詳細は https://readyfor.jp/projects/Africa_baseballをご参照ください。

カトー選手の様子

 現在カトーは11月に行われる独立リーグのトライアウト合格に向けて日々練習に励んでいます。日本の野球レベルの高さを体験しているとともに、日本の選手の練習量には目を丸くしています。しかし、その中で「負けられない。」という気持ちを持ちながら日々食らいつき、技術の飛躍的向上を目指して現在はフォームづくりに取り組んでいます。ネットスローを中心にランニングやウエートトレーニングにも励み、今後実戦へ向け段階を上げていく予定となっています。練習では大学の選手たちとコミュニケーションを取りながら、切磋琢磨して競い合っています。
 また技術だけではなく礼儀や規律においても多くを学んでいます。練習前には大きな声で「おはようございます」、練習後には「お疲れ様です」と積極的にあいさつし、練習の準備から片付けも自分から動いくようになっています。物を大切にすることや、感謝の心、何事にも諦めない精神などを学び充実した日々を送っています。
 私生活においては、日々変わる日本食を楽しみにしています。大好物は、チキンとコロッケです。またテレビでの野球中継を食い入るように見つめ、家でも野球漬けの日々を送っています。また、毎日の学びを日記に記すことや日本語の勉強にも励み、常に向上心を持っている様子も見られます。ステイ先の家族の一員として日本の生活を楽しんで過ごしているようです。

カトー選手 一問一答

――日本の印象は?
「人々が素早い動きで働き、チームワークがしっかりとできている。また、時間は全員がしっかりと守っている」

――日本の野球の印象は?
「技術的なレベルがすごく高いとともに、練習量も多く、コーチにやらされる練習ではなく、自分たちから積極的に練習していると感じる」

――和歌山大学硬式野球部の印象は?
「個々の技術レベルが高い。個人プレーではなくチームとしてプレーし、どう勝つのかを考えることが尊重されている」

――日本に来てびっくりしたことは?
「建物や情報ネットワークの面ですべてが発展しており、驚いている。それに加え、信号などルールを日本人全員が守れることについても驚きがあった」

――日本に来て困ったことは?
「思った以上に英語を話すことができる日本人が少なく、コミュニケーションの面で困ることが多い」

――来日後嬉しかったことは?
「日本の歴史的な建造物へ観光へ行ったことや、知り合いの方や応援してくださる方に会えたこと」

――自分の問題点はどこか?
「ピッチングでの下半身の使い方と全身の筋肉と関節を柔らかくしなければならない。それができると自然と技術レベルも向上すると思う」

――ウガンダ野球の問題点はどこだと思うか?
「コーチが技術的なことを教えるスキルがなく、ただ打って――走って――捕って――投げてだけなので、そこが問題である。また選手たちは試合前やイベントごとの前だけ練習し、継続性を持って練習することができない」

――今の生活で工夫していることはあるか
「日本人と同じように行動することを心掛けている。例えば、あいさつをしっかり行うことや、ゴミをポイ捨てしないことなど。また日本語を使ってのコミュニケーションも大切にしている」

――ウガンダでもまねしたほうががいいと思うことは?
「ウガンダ全体として時間を守ることは真似をすべきである。野球では、プレー中に声を出しコミュニケーションを多くとることや、道具の扱い方――ケアの仕方を真似させたい」

――ウガンダに帰ってどういうことを他の選手に伝えたいか。
「まずは今自分が学んでいる投手のスキルを伝え、投手の指導をしたい。その後、野手の守備や打撃についても教えたいと思う」

カトー選手コメント

 初めまして。カトー・エリックです。今回のプロジェクトにご協力いただいた皆様ありがとうございます。この派遣プロジェクトはウガンダ全体のためになると思っています。ウガンダ野球を発展させていくことはもとより、技術の向上や礼儀、規律などウガンダ人全員にも学ぶべき日本文化があると感じています。時間を守ることや他人と協力したり、あいさつなどでコミュニケーションを取ることなどとても大切だと思います。これからトライアウトに向けて頑張ります。応援よろしくお願いします。

 多くの不安のなか、日本でプレーをしたオケロ選手がウガンダでコーチを務めるチームを見た際に希望を感じましたね。あいさつができる、道具を大切に扱う、他人と協力できる、そして何より全員が心から野球を楽しみながら成長している。その時強く思ったのです。日本人ではなくウガンダ人が主体となり、教育的価値を持ったスポーツとしてウガンダで野球を広めることが可能であると。また、日本というレベルの高い場所でプレーをすることは、ウガンダ人選手にとっての夢であり、モチベーションの向上をも見込めるとも思いました。そのような意味で本プログラムは有意味であると思っています。(土井)

 今回のプログラムが日本、ウガンダ双方にとって有意義なものとなり、多くの方々に楽しんでもらえるものになるよう関係者一同全力を尽くします。次回はもう一人の派遣対象者オメリの物語です。ぜひご期待ください。

執筆協力=土井拓哉(和歌山大学)

著者プロフィール
長谷 一宏
1987年10月6日生
2014年10月より青年海外協力隊員としてウガンダ野球協会へ、選手の指導及び指導者育成のためナショナルコーチとして派遣されている。「ウガンダ野球の自立的・持続的な発展」を目標とし、各チームへの技術指導に加え、リーグ戦の運営、学校への普及などを行っている。

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