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"世界の野球"”アフリカからの挑戦・赤土の青春” ウガンダベースボール「ウガンダ人選手が見た日本 vol.2」

2016年12月1日

文・写真=長谷一宏(JICA青年海外協力隊・ウガンダ野球ナショナルコーチ)

 こんにちは。前回は日本で奮闘するウガンダ人野球選手カトーの様子をお伝えしました。ウガンダ野球のこれからを担う「第二世代」の選手達、今回はもう一人の派遣対象者オメリについてのお話しです。
 オメリは東京大学硬式野球部で練習を行っています。オメリは現在のウガンダで最も速い球を投げるピッチャーです。背が高く腕も長い、そして体格もがっしりしておりピッチャーに適している体格です。また、頭がよく、人の発言から意図を読むことのできるクレバーな一面も持っています。オメリと接するなかで私が気になった点は2つありました。

 1つは上手くいかないことを環境のせいにする傾向が強い点です。オメリはカトーと異なり、首都からバスで6時間ほどの地方部に住んでいます。私生活においても野球においてもウガンダでは首都と地方の格差は大きく、そのため「自分が首都に住んでいたらもっとチャンスがもらえたはずだ。」のように首都と地方を比較する発言が多くみられました。また「自分の実力は十分なのにウガンダが貧しいからチャンスがない。スカウトが自分を見に来れない。」「ウガンダは練習環境が悪くて成長ができない。」など首都と地方を対比させる際と同じくウガンダと「先進国」を対比させながら自らを語ることが多い点が印象的でした。確かに「地方」や「ウガンダ」は環境が悪いかもしれません、しかしそのなかで自分のベストを尽くすことをせず、環境のせいにし何もやらないという点が気になっていました。
 2つめは自分の実力を過大評価する傾向がある点です。アメリカのメジャーリーグ関係者や世界野球ソフトボール連盟(WBSC)の関係者が年に数回ウガンダを訪れます。その際、オメリの投球を見た彼らは決まって「凄いね!いい球を投げるね!」と直接オメリに声をかけて帰ります。「先進国」から来た彼らは「アフリカ野球」に対しイメージがあり、そのイメージよりもオメリのレベルが高いためオメリをほめます。しかし、オメリには「メジャーリーグのスカウトが凄いと言ったのだから自分はメジャーでも通用するんだ。」という意識が働き、自分の実力を過大評価しがちな面も見えました。
 派遣対象者を決める面接の際、「ウガンダ野球の問題点を解決するためにはどうすればいいと思う?」との質問に「それはわからない。とにかく早く日本で自分の実力をアピールしたい。」という発言が印象的でした。

UGBAS紹介

 今回オメリの派遣に関してはUGBAS(ウガンダ野球を支援する会)が協力をしています。UGBASは、2014年3月に東京大学の学生がJICA短期ボランティアとしてウガンダで野球指導を行ったことをきっかけに設立された、学生団体です。ウガンダでの滞在は1か月間と短かったものの、キラキラと目を輝かせながら野球を楽しんでいる子供達の活き活きとした姿、本気でプロ野球選手を目指しウガンダ野球を発展させたいという野球青年達の「夢」に触れ、「彼らの夢を自分たちの夢のように叶えたい。」という強い想いが、団体設立の動機です。当団体では、ウガンダ人自身の力で自立した野球発展ができるよう、微力ながらサポートを続けています。具体的には、学園祭やイベントを通じてウガンダコーヒーの販売を通じた資金集め、その際のウガンダ野球の展示による認知活動、道具寄付、ウガンダ現地の方との意見交換等を行っています。
 オメリの受け入れを行い、素直によかったなと思うことが多いです。毎日野球ができる環境をしっかり活かして練習に貪欲に向かう姿勢、日本で体験できる様々な新しいことに興味を持つ姿勢、何よりトライアウト受験等緊張することが多い生活にも限らずその状況を楽しんでいる彼の姿を見ていると、本当に来てくれて良かったと思うことが多いです。

野球におけるオメリの様子

 来日以降、オメリは監督さん、マネージャーさんのご厚意で、東京大学硬式野球部の中で朝から晩まで日々練習に励んでいます。東大硬式野球部の練習は、練習メニューやスケジュールがしっかりと計画・管理されているため、その念入りなスケジューリングに目を丸くしていました。キャッチボールやピッチングではキャッチャーの方から様々なアドバイスをもらったりもしているようです。練習においても手を抜くことはなく、誰もが嫌がるランニングメニューも、率先して行っているようです。
 先日、オメリは独立リーグのトライアウトを受験してきました。ピッチャーだけでも75人もの受験生がいるほど多数の方が集まったレベルの高いトライアウトでした。短い時間ではありましたが、最高球速133キロ、ボールもストライクゾーン付近に集まり悪くはない内容でした。そして無事に1次試験に合格し、次の2次試験では実戦形式で、4人のバッターと対戦。皆緊張する中で、「バッターが立つ方が楽しい」と語り全く緊張をせずワクワクしている彼の強心臓・大物ぶりには驚きましたが、前日よりも球速もコントロールも精度を増し(最高球速は136キロ、フォアボールデッドボールもありませんでした)、全員を内野ゴロに仕留めていました。
 トライアウト会場では、様々な方に話しかけられ、やはり誰もが彼のポテンシャルの高さに期待・応援の声をかけていただきました。この日のみならずこれまで色々な野球関係者の方々にも声をかけていただき、それだけの期待を背負って自分が今野球をしていることは本人が何よりも実感していると思います。

私生活における様子

 野球がない日は、日本でできることを楽しんでもらおうと色々な場所にいきました。東京の人の多さと建物の多さにはびっくりしていますが、今では一人で電車の乗り換えもできるくらいになりました。
 ご飯も好き嫌いはまったくなく、つけものも食べており、すっかり日本食も好物になっています。家では礼儀正しく、愛想もよく、かつ無理に緊張せずリラックスもしてくれるので、家族ともいい関係を築けています。
 オメリとウガンダ野球の発展について議論をすることがあります。彼自身、選手であるだけでなく、自らの村の子供達に野球を教えている立場でもあります。彼の次の世代が野球を享受できて、もっともっとウガンダ野球が発展してほしい。彼の切実な想いを知ると共に、今後も日本での経験を活かして少しでもウガンダ野球に貢献したいと語る彼の眼差しは本物でした

オメリ一問一答

日本の印象は?
――とても綺麗で、フレンドリーな人の多い国だと思います。たくさんの人が住んでいるのにもかかわらず、すべてがオーガナイズされていてびっくりしました。この滞在を通じて日本が本当に好きになり、いつか友達や家族と来たいなと素直に思えました。彼らにも日本がどんなところで日本に住む感覚がどんなものなのかを知ってほしいからです。

日本の野球の印象は?
――日本で野球がとても人気で、誰もが野球を愛していることに感動しました。プレーヤー、スポンサー、ファン等、様々な人や組織によって支えられている日本野球の根強い文化に日々驚きが隠せません。どの本屋に行っても野球の本は置いてあり、少しでも多くの人にもっと野球がうまくなって欲しいという文化の土壌を感じました。日本の野球は本当にレベルが高いです。

東大野球部の印象は?
――ここでたくさんの同年代の野球選手に出会えたことは本当に光栄でした。彼らはとてもエネルギッシュで、フレンドリーで、スポーツへの情熱やチームワークを大事にする姿勢はとても刺激的でした。OBの方がコーチや監督として指導され、細かいところまで指導を行き渡らせている姿は新鮮でした。そして、誰もが野球やチームメイトへのリスペクトを持ち、素晴らしい姿勢で野球に臨む姿に本当に感動しました。

日本人の印象は?
――比較的シャイな人がおおいですが、話しかけるとよろこんで話し返してくれてとてもいい人が多いと思います。

好きな日本食は?
――カレーライスです! あと、ラーメンや寿司も好きです。人生で生魚を食べたことなんてなかったのでとてもいい経験になりました。日本食は全部本当に美味しいです。

日本で忘れられない思い出は?(日々の野球の練習以外で)
――千葉動物園、江の島・鎌倉観光、東京ドームでプロ野球の試合を観戦したことは大きな思い出になっています。特に野球は、人生で初めてスタジアムで観戦したので、自分の人生の中で本当に忘れられない一日になりました。

ウガンダに帰ったら何を伝えたいですか?
――日本のすばらしさ、そして日本で経験してきた野球の知識・姿勢を、皆に伝えたいです。僕自身、故郷の村では子供たちの指導をしているので、彼らにとっても僕の話を聞くことで少しでもいい影響を与えることができたら嬉しいです。

何かメッセージは?
――今回の機会を作っていただき本当にありがとうございました。皆様の期待にどれだけ応えられたのか正直わかりませんが、日本での日々はあっという間にすぎるくらい楽しく充実したものになりました。日本での経験が無駄にならないよう、これからも頑張っていきたいと思います。改めて、この度は僕の人生でかけがえのない思い出を作っていただき、本当にありがとうございました。また皆様に会えることをとても楽しみにしています。

派遣受け入れ・執筆協力=日下高徳(UGBAS)

トライアウト結果

カトー、オメリ両名ともトライアウト当日では力を十分に発揮しましたが結果は不合格でした。ですが、両名とも数多くのことをこの滞在期間中に学んだことと思います。ウガンダでは他の選手達が彼らの帰国を待ち日本の話を聞くことを楽しみにしています。野球を始めて約4年でここまでのステージに辿りつき、野球に夢中になる彼らに関われることは私にとってもとても刺激的です。日本でプレーをすることを目標に今後とも頑張ってほしいと思っています。これからも応援よろしくお願いいたします。

著者プロフィール
長谷 一宏
1987年10月6日生
2014年10月より青年海外協力隊員としてウガンダ野球協会へ、選手の指導及び指導者育成のためナショナルコーチとして派遣されている。「ウガンダ野球の自立的・持続的な発展」を目標とし、各チームへの技術指導に加え、リーグ戦の運営、学校への普及などを行っている。

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