文・写真=大庭良介(JICA青年海外協力隊)
こんにちは。第三回目のコラムとなります。
前回はパラオ野球の歴史について触れました。その中で、日本の委任統治時代に野球普及が始まってから、もうすぐで100年近く経つこと。そして、歴史あるパラオ野球の人気が少しずつ影を潜めつつある現状をお伝えしました。今回のコラムでは、その原因について考えていきたいと思います。
バスケットボールの台頭
パラオのスポーツの中で確かに野球は人気スポーツの一つであると感じます。アサヒ球場には照明もスタンドもあり、野球をプレーし観戦する環境は十二分に整っています。しかし今、パラオではバスケットボールが大変人気の種目となってきています。
多くの道具の準備を必要とする野球に対して、バスケットボール一つにゴールさえあればプレーすることができるバスケットは準備をするのが面倒なパラオの人々にとっても手軽にプレーできる競技です。
また4、5か月でリーグ戦が終わる野球と違い、バスケットボールは年間を通して各種いろいろなリーグを展開しており、常に試合への出場機会があるのも大きな魅力です。それらのリーグを運営しているバスケットボール連盟が一枚岩となり、老若男女を問わず幅広い選手層がバスケットボールを楽しんでいます。そして何より、バスケットボール連盟の人達のバスケットに対する熱意が現在のパラオバスケットを盛り上げてきています。
これに加えて、天気という環境的な要因も野球からバスケットへと種目を変えていく要因の一つだと思われます。パラオは乾季と雨季の時期があり雨季の時の雨量はとても多く、乾いているグラウンドも一度の雨で水浸しになる程です。乾季中でも雨が降ることが多くグラウンドで練習ができる日が限られてきます。また、雨が続くようになってくるとどこか気持ち的にもどんよりとしてしまい、練習よりもみんなでゆっくりとしていようとなってしまうわけです。
大洋州諸国では勝ててしまう現状
パラオが所属しているオセアニア野球連盟には14の国と地域が所属しています。その中でもオセアニア野球大会が一番の大きな大会となります。しかしこの大会に14の国や地域が参加するかというとそうではなく、連盟に所属しているものの実質的な活動をしていない国や、参加したくても資金的に参加できないという国も多くあります。事実、2015年にあったU-21ワールドカップオセアニア予選も、当初パラオは出場予定でしたが、開催国サイパンに大きな台風直撃の影響で開催地がオーストラリアに変更となり、遠征費が高騰することとなり結果として参加できなくなるといった例もありました。
オセアニア野球連盟が主催する大会のほかにも、太平洋諸国の島国で行われるパシフックゲームなどがあります。いわば島国の中のオリンピックのようなもので各種競技が行われ、野球は2003年、2005年、2007年、2011年と正式種目として採用されてきました。その中でパラオは2003年銅メダル、2005年銀メダル、2007年金メダル、2011年銅メダルとすべての大会でメダルを手にし、パラオは太平洋諸国の中では野球強豪国という現状があります。(2005年はミニパシフィックゲーム)
ここにもう一つの衰退させる要因があると感じています。島嶼国の野球は、ほとんどの国が発展途上です。その中にあってパラオは野球の歴史が長く、アメリカや日本からの道具の支援や海外遠征も実施されており、それらの経験値の差から他の島国との対戦では労せずに勝ててしまう力があるのです。簡単に言うと現状に甘んじ、更なる発展を望んでない。もちろん、望んでいないことはないと思いますが、遠征等を実施して気づいている部分があるのだと思います。日本などの野球先進国と試合をしても全く歯が立たないことを。今の島地域で勝てる現状で満足していては、この先必ずほかの島国にやられる日が来ると思います。もともと、他の島嶼国の人たちは体も大きくラグビーで強い国も多いです。そのような国に負けて初めて気づくのかもしれません。
野球は国際大会で勝てるからパラオの国技なんだ、と来た当初耳にしました。確かに現状そうなのかもしれません。ですがこの先長いこと続かないだろうと感じます。バスケットではあまり他の島国に勝てない状況続きですが、いつの日か結果を出す時が来るのではないかと思います。バスケットボール連盟の関係者が一丸となって頑張る姿を、野球連盟やプレイヤーは真摯に見習い、心のどこかにある“驕り”をなくさない限り、この先のパラオ野球には発展は望めないのではないかと感じています。
次回からのコラムでは、このようなパラオ野球の現状に対して、私がどのような普及活動を実践していったか記していきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
- 【第8回】2017年9月15日 「二年間」
- 【第7回】2017年6月23日 「高知ファイティングドッグス来訪」
- 【第6回】2017年5月18日 「パラオ野球新世代へ」
- 【第5回】2017年4月6日 「少しの気付き」
- 【第4回】2017年2月25日 「グラウンドに敬意を」
- 【第3回】2017年2月6日 「野球衰退の要因」
- 【第2回】2016年12月26日 「ヤキュウの歴史」
- 【第1回】2016年11月15日 「パラオ“ヤキュウ”事情」
著者プロフィール
- 大庭 良介
- 1992年9月21日生
湘南工科大学附属高校-日本体育大学
2015年7月よりパラオオリンピック協会・パラオ野球連盟に青年海外協力隊 野球隊員として配属。委任統治していた時代に日本人が伝えたヤキュウの再復興、ヤキュウを通じた人間力の向上を目指し、多くの事を現地人、環境から学び経験している。
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