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"世界の野球"パラオ共和国 よみがえれ南洋の「ヤキュウ」魂「パラオ野球新世代へ」

2017年5月18日

文・写真=大庭良介(JICA青年海外協力隊)

 パラオ野球に二つのリーグが存在していることは、前回のコラムでもお伝えしました。この二つのリーグはどちらも大人が行うリーグで、子供達は対象とされていません。パラオ野球連盟にもリトルリーグやシニアリーグは存在するものの形骸化されており実質的なリーグの運営はされておらず、若い世代が試合に触れることができる機会といえば小学校対抗のソフトボール大会や体育の授業で行う試合のみとなっています。このような若い世代が野球に触れる機会が減ってきていることも、野球人気のかげりの一因と言えます。

 若者達に野球の楽しさを実感してもらいたいと思い、ガルベエズ(Ngerbeched)という地域の15歳から20歳くらいの若者を中心としたチームを作り、大人のリーグであるPML(パラオメジャーリーグ)に参加することを計画し、そのチームのコーチを務めさせていただきました。初めて野球をする子もいて、最初の練習では、ボールの握り方も知らなければ、もちろん道具やグランドを大切にするという発想もありません。今までパラオで指導してきた中でも一番技術レベルが低かったように記憶しています。
 しかし、確かに彼等の技術レベルは低かったですが、素直さについては今までで一番あり、野球を楽しむことができるチームでした。彼らと共に練習をしていく中で、彼等の姿が野球をし始めた小学生の頃の自分と重なり合い、自分自身が野球を始めた理由である「野球が大好きだ!」という事を思い出させてくれました。日本ではどこか、「練習いやだな。雨降らないかな」等とか思っていたこともありましたが、今思うとなんと勿体ないことを考えていたのかと悔やまれます。

 ガルベエズチームの中でも、特に成長が著しいイバス(Ivakes)という選手がいます。彼は現在17歳で、野球を始めたのは小学校の頃。しかし、リトルリーグの試合がなくなると同時に練習を止めてしまいました。久々に野球をできるのが嬉しいのか、積極的に練習に取り組みますし、何より負けず嫌いで自分に厳しくできる選手です。「良介、これはどうやるんだ?」「どうやったらもっとうまくなるんだ?」「練習後これから走るぞ」と今までパラオで聞いたこともなかったフレーズがどんどん出てきます。
 そして、彼が上手になることで周りにも良い影響が生まれ始めました。他の選手も彼を真似し始めましたし、彼が私の通訳となって仲間達にパラオ語で説明することにより、私の意図が選手達により分かりやすく伝わるようになりました。将来的に彼のような影響力のある選手が正しい基本的な知識を身に付けパラオ野球界を引っ張っていってほしいと思います。こうして少しずつ良い循環が生まれたことにより、ガルベエズの選手達は最初に比べると見違える程に上達しました。

 第四回のコラムで記したグランド整備についても良い循環が生まれていきました。これまでの私は、意味や理由を説明したうえで半分強制的にグランド整備をさせていました。整備をしていくうちに、グランド整備の有る無しの違いなどに気付き、自ずと習慣化していくだろうと思ったからです。しかし、信頼関係を得ないままに半強制的に整備させていたことで、彼等にとってグランド整備は労働となっていたように思います。
 しかし、ガルベエズの選手達は、今では私が言うよりも前にトンボを手に取りすることが多くなりました。なんで整備するの?と聞いたら「きれいな状態で練習したいから」また「良介の言うことだからうまくなるんだろ」と。こんな言葉は今までパラオで聞いたことありませんでした。単純に彼らが素直だから、言われたことに従っているだけなのかもしれませんが、彼らの発言は、自らトンボを手に取る中での発言でした。それを耳にした時、互いに少しは信頼関係を築けたのかなとも感じました。

 大人のチームに対して勝利することは容易ではありませんし、練習でできたことが試合ではうまくいかないこともしばしばです。しかし、彼らは練習で教わったことを実現させようと何度も挑戦しますし、ずっと指導し続けている道具、グランドを大切にという事も忠実に守ろうとしてくれます。他の大人のチームがバットやヘルメットを投げていくなか、手渡しで尚且つ走ってバットを取りにいきます。もちろん試合後の整備も欠かしません。これらの行動の一つ一つを見るたびに、とても嬉しくなります。指導を忠実に守っていることにではなく、道具やグランドを大切にしようとする姿勢が伝わってくることに嬉しくなりました。彼らの中で今までになかった感覚が少しずつではあるけれど芽生え始めているのではないかなと感じました。

 全てのチームがガルベエズの様に道具やグランドを大切にしようとしているわけではありません。しかし若い彼らが、将来のパラオ野球の中心となり、習慣として道具やグランド整備を大切にすることが当たり前となる日がくれば、パラオ野球は再び輝きを取り戻すと思います。そのような日が訪れることを、地道な活動を続けながら心待ちにしたいと考えています。

著者プロフィール
大庭 良介
1992年9月21日生
湘南工科大学附属高校-日本体育大学
2015年7月よりパラオオリンピック協会・パラオ野球連盟に青年海外協力隊 野球隊員として配属。委任統治していた時代に日本人が伝えたヤキュウの再復興、ヤキュウを通じた人間力の向上を目指し、多くの事を現地人、環境から学び経験している。

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