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試合レポート

侍ジャパン社会人代表、全勝優勝で2大会ぶりのアジアチャンピオンに輝く

2017年10月8日

 侍ジャパン社会人代表が田嶋大樹(JR東日本)、チャイニーズ・タイペイは呂彦青(ルー・イェンチン=国立台湾体育運動大)と、21歳の左腕エースがアジア王座をかけて先発で投げ合う。立ち上がりは、ともに2三振とショートゴロの3者凡退だったが、先にチャンスを作ったのはチャイニーズ・タイペイだった。2回表に四球と捕逸の無死二塁から、スラッガーの陳偉志(チェン・ウェイチー=台湾電力)は中飛に打ち取るも、載如量(タイ・ジューリャン=台湾電力)には三遊間を割られて一、三塁となる。だが、このピンチに田嶋は今季の成長ぶりを発揮する。

「奪三振が多ければ注目はされますが、投球数も多くなって完投や連投が難しくなる。だから、内野ゴロを打たせるピッチングを追求してきました」

 その通りに黄佳瑋(ホアン・チアウェイ=合作金庫)にセカンドゴロを打たせて併殺に仕留める。だが、3回表にも四球、二盗、内野安打で一死一、三塁とされ、さらに四球で満塁の場面では、三番の林加祐(リン・チアユー=合作金庫)にゴロを打たせたものの、強い打球が二遊間を抜けるかと思われた。すると、二塁ベースのやや左で藤岡裕大(トヨタ自動車)が飛び込んで捕球し、そのまま6-4-3の併殺に。このビッグプレーで先制点を与えなかったことが、試合の流れに大きく影響したと言っていい。

 侍ジャパン社会人代表の打線は、5人の左打者が一巡目はすべて三振するなど、呂彦青を攻略するのは難しいかと思われた。それでも、4回裏一死から藤岡がチーム初安打をレフト前に弾き返すと二盗を決め、機動力でチャイニーズ・タイペイのバッテリーにプレッシャーをかけていく。

 そして、この試合でもワンチャンスに集中力を見せる。5回裏、石井章夫監督が先頭の伊礼 翼(王子)に代打・若林晃弘(JX-ENEOS)を送ると、低目のボールをよく見極めて四球で出塁。犠打で二進し、二死後に田中俊太(日立製作所)の中前安打で先制のホームを駆け抜ける。さらに、田中がすかさず二盗すると、捕手の悪送球で三塁まで進み、直後に暴投で2点目。そうして気落ちした呂彦青に、北村祥治(トヨタ自動車)がレフトへのソロ本塁打を浴びせる。これでチャイニーズ・タイペイが浮足立つと、藤岡の二塁打と笹川晃平(東京ガス)の四球で一、二塁とし、菅野剛士(日立製作所)のフライをセンターが落球する間に2点を追加。一気に5点をリードして試合のペースを握った。

 6回から侍ジャパン社会人代表は継投に打って出る。6回を任された渡邉啓太(NTT東日本)が先頭に安打と二盗を許し、プロ経験のある四番・林瀚(リン・ハン=合作金庫)の二塁打で1点を返された時はヒヤッとさせられた。だが、その裏に無死三塁から代打・渡邉貴美男(JX-ENEOS)の中犠飛で1点を取り返すと、7、8回は左腕の平尾奎太(Honda鈴鹿)がテンポよく抑え、いよいよ最終回を迎える。

 石井監督は、この大会で11回無失点と大活躍の谷川昌希をマウンドに送る。先頭に安打を許すも併殺に仕留めて二死。最後は、サードゴロを若林が落ち着いてさばき、侍ジャパン社会人代表は2大会ぶり19回目のアジア王座を手にした。谷川がマウンド中央で両手を高く突き上げると、ダグアウトから選手が次々に飛び出し、ペットボトルのウォーター・シャワーを浴びせる。「この勝利を来年のアジア競技大会にもつなげよう」と、選手たちは笑顔で雄叫びを上げた。

 振り返れば、今春に就任した石井監督は、これまでの侍ジャパン社会人代表の戦いを分析した上でこう語った。
「プロが入ったり、体格では上回る韓国やチャイニーズ・タイペイを相手に、日本らしい堅実な攻撃をしていても勝機は広げられないかもしれません。思い切ってヒットエンドランをかけたり、機動力を駆使するような攻め方も試していこうと考えています」
 選考合宿ではそれを実践したが、はじめは選手たちが戸惑うシーンも見られた。
「足を使った攻撃もできれば理想的ですが、パワーやスピードで勝る相手を倒すなら、コツコツとバントでチャンスを作り続けたほうが得点につながるのでは……」
 そうした選手の声を聞くと、アジア王座を奪還するためのチーム像が、絵に描いた餅になりはしないかと心配になったこともある。ただ、選手が絞り込まれるにつれ、機動力を使えるチームの輪郭が浮き上がり、実際にアジア選手権が開幕するとほぼ完成していた。選考合宿から一貫していた意識づけが生きたのだ。実際、この大会で走者が企てたスチールは、すべてサインではなく選手自身の判断によるものだったという。

 そして、石井監督が標榜した通り、この大会は機動力の差が勝敗を分ける結果となった。また、国際大会ではコンディションや巡り合せによって、十分に持てる力を発揮できない選手、いわゆる“消えてしまう選手”がどうしても出るものだ。ところが、今回は24名すべてが何らかの形でチームに貢献した。石井監督の分析力、戦術に見合った選手を集め、適材適所で起用した采配など、今回の勝利はチーム作りの段階からの積み上げが的確だったのだと感じている。

 侍ジャパン社会人代表は、来年8月にインドネシア・ジャカルタで開催される第18回アジア競技大会での金メダルを最終目標に、今後も選手の育成・強化を続ける。その途上にあったアジア選手権で最高の成果を上げられたことは、社会人選手たちのモチベーションにもなるはずだ。

「この大会で優勝して、ドラフト指名される選手も増えちゃうのかなぁ」

 若林重喜コーチの呟きが、嬉しくも悩みどころにはなるのだが……。

第28回 BFA アジア選手権

大会概要 出場選手一覧

大会期間

2017年10月2日~8日

予選ラウンド
10月2日(月)13:00 日本 30 - 0 香港
10月3日(火)13:00 パキスタン 1 - 13 日本
※開始時刻は日本時間(台湾:時差-1時間)

スーパーラウンド
10月6日(金)13:00 日本 3 - 0 韓国
10月7日(土)19:00 日本 10 - 0 チャイニーズ・タイペイ

決勝戦
10月8日(日)19:00 日本 6 - 1 チャイニーズ・タイペイ

開催地

台湾

出場国

グループA
韓国、チャイニーズ・タイペイ、フィリピン、スリランカ

グループB
日本、パキスタン、香港

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