文・写真=長尾耕輔(JICA青年海外協力隊)
"一枚岩"
1枚の板のように平らで大きな岩。
また、そのように、チームや組織などがしっかりとまとまっていることのたとえ。
それぞれの"思惑"や"プライド"、みんな同じ方向に向かって進んでいるはずなのに、いろんな感情が錯誤し、話がなかなか前に進まず、もどかしい。皆さんにも、そんな経験はないだろうか。
今、タンザニアでは、国内最大の野球大会「タンザニア"KOSHIEN"」開催まで、残り1ヶ月を切り、急ピッチで大会準備を進めています。
日程等のスケジュール調整、試合会場の確保、各チームの宿舎など、やるべきことは一見シンプルで簡単にさえ思えますが、なかなか"一筋縄"にはいきません。
"異国の地"だから?そう考えるのは簡単ですが、それだけが理由では無いように私は感じます。
人種、国籍を超え、たくさんの方々が関わっているからこそ、その分だけ溢れる、それぞれの"考え"や"想い"。
今回は、大会準備に焦点を当てながら、タンザニア野球を見ていこうと思います。
タンザニア"KOSHIEN"
第二回の記事「俺たちの"KOSHIEN"」でもお伝えしましたが、タンザニアでは毎年12月に国内全土から野球チームが集まり、大会を開催しています。セカンダリースクール(日本の中学2年生~高校2年生)の生徒を中心に、昨年は8チームが参加しました。(1チーム、人数不足のため実質7チーム)。今年は現時点で最大12チームの参加を予定し、第5回目の開催となります(12月1日~3日で開催予定)。
大会当日までは、何が起こるか分かりませんが、現時点で、過去最大の参加選手・チーム数での開催を予定し、これまでタンザニア野球を支え、推し進めてきた、たくさんの方々あってのこの結果だと強く感じています。
また、この1年間、タンザニア人も日本人も、それぞれが各地で、そして、国内外で行ってきた活動が結果として現れたことも素直に嬉しく思います。
その"責任"と"誇り"を胸に、この大会が、子どもたちをさらに大きく成長させられる場所にできるよう、最高の大会を目指し、現地の方々とともに最後の最後まで、しっかりと準備を進めていきます。
大会準備のポイント
今回、大会を開催するにあたり、TaBSA(タンザニア野球・ソフトボール連盟)や現地の日本人とともに、大会運営費や日程等のスケジュール調整などの準備を進めてきました。
大まかな流れとしては、①大会運営費の確保と並行して、②日程調整 ③試合会場 ④宿泊先 を確定させていき、⑤各学校への参加呼びかけ&返答確認 ⑥大会スケジュールの詳細決定 ⑦備品(テント、机イス等)のようになっています。この中で幾つかキーポイントとなってくるところを説明していきます。
①大会運営費
タンザニアに限らずですが、"お金"の問題は避けては通れません。自分たちだけで大会の運営費を捻出する力やシステムはまだなく、また、"野球"の認知度が低いので、国内でスポンサーを見つけることも簡単ではありません。しかし、「援助慣れ」という言葉があるように、いつまでも日本からの支援を当てにしていては、本当の意味での"自立"はできません。"自立"に向けて、現地の方々がどれだけ本気になれるか、逆に言えば、我々がどれだけ現地の方々を本気にさせられるかが鍵となります。
②日程調整
毎年、揉めるのがこの"日程調整"です。タンザニアのセカンダリースクール(日本の中学2年生~高校2年生)では、11月末から12月1週目にかけて学期末テストがあり、12月2週目前後から約1ヶ月の休暇には入ります。そこで、学業に支障なく、より多くの子どもたちが大会に参加できるよう、休暇に入るタイミングに合わせて、野球大会を開催する必要があります。(家が遠方で学校寮に住んでいる生徒も多いため、休暇に入ってすぐの開催でないと、学期修了後は寮に住み続けることができず、実家などに帰ってしまうという理由もあります。)しかし、この国内大会と同じような日程で国際大会(東アフリカ大会)が開催されることが多く、どちらの大会を優先するのか、また、どちらも参加するのかなどの議論が毎年平行線をたどります。
⑤各学校への参加呼びかけ&返答・状況確認
ここに関しては、運営側としても、各地域や学校としても、早いことに越したことはありません。参加呼びかけに加え、返答・状況確認を大会まで続けて行うことにより、運営側としては、参加チーム数の予想が立てられるメリットがあり、参加する側にとっても、移動費等の準備期間が長くなることや(大会運営費に移動費は含まれておらず、各地域・学校からの移動費はそれぞれの学校や生徒の負担となっています。)、上の機関からの呼びかけにより、スムーズに話が進むというメリットがあります。
⑥大会スケジュールの詳細決定
限られた日数の中で、どのように試合を組んでいくのか。また、宿泊先や食事、移動バス等の関係で全チームが大会最終日まで残らなくてはならないため、初日に負けてしまったチームへの対応をどうするのかなども含め、起こりうる様々な事柄に備え、準備する必要があります。
+α:試合ルール
世界の野球事情を参考に、タンザニアの野球大会では幾つかのルール制限(盗塁なし、牽制なし、リードの大きさ制限など)を用いて大会での試合を行っています。過去の大会で、通常ルールのもと試合を行い、収拾がつかなくなってしまった反省を踏まえた上で、子どもたちに野球の基礎である「投げる・打つ・捕る」といった動作に集中、全力で挑ませ、タンザニア野球のレベルをよりよく向上・発展させる意図もあります。
大会開催への道のり
「今年もまたか…。」
毎年、毎年繰り返される同じ過ち。そんな状況を打開すべく、昨年の反省を踏まえ、今年の大会準備を進めてきました。
①大会運営費
「この1年が本当の勝負だぞ!!」昨年末、これまで続いてきた日本からの資金面での支援の打ち切りが決まり、今まで以上に現実味を帯びてきた資金面への危機感。TaBSA(タンザニア野球・ソフトボール連盟)がどれだけ本気になって、この1年をどう活動するのか。楽しみでもあり、不安でもありました。
結果としては、日本からの資金提供が決まり、少しホッとしてはいます。ただ、スポンサーになって頂ける可能性の高い話を簡単にふいにしてしまったり、なかなか自分から積極的に行動できなかったりと、現地の方が"本気"で、死に物狂いで活動していたのかという部分に関しては、正直、疑問が残ってしまいました。サポート体制も含めて、もう少し改善が必要です。ただ、早い段階で大会運営費を確保できたので、その他の準備を早めに進めることが可能となりました。
②日程調整
今年も揉めに揉めました。原因は昨年と同じ"国際大会への参加有無"。簡単にまとめると、開催日程を予定通りに"休暇に入ったすぐのタイミング"で行うのか、国際大会に出場するために開催時期を早め、"テスト期間中"に被せて行うかの2つの意見に分かれました。
前提として、国際大会に出るための資金は全くない状況。加えて、開催時期を前倒しすると、テスト期間と大会が重なるため、国内大会に出たくても出場できない選手や学校ができてしまうリスクも出てきます。双方のメリット・デメリットをまとめると、以下のようになります。
国際大会不参加:予定通りに休暇に入ってすぐの開催
(メリット)
・より多くの学校、チーム、選手が参加できる。→国内大会が充実する!
・初めての大会や試合経験、新たな仲間との出会いが、大会後のモチベーションにもつながる。→野球の継続、浸透に繋がる!
(デメリット)
・他国の野球レベルを生で感じられない。→"井の中の蛙"状態(?)
国際大会参加:開催時期を早め、テスト期間中での開催
(メリット)
・選手(特に、選ばれる可能性のある者や選ばれた者)のモチベーションが上がる。
・他国との力や姿勢の差、自分たちの実力が分かる。
(デメリット)
・国内大会に参加できる選手・チームが減ってしまう。
・参加できなかった場合、モチベーションが下がる。(特に、最近新しく始めた学校や選手たち。)
・新たに移動費等、資金を確保する必要が出てくる。
TaBSAとしては、「何としても国際大会(東アフリカ大会)へ出場し、そのために国内大会の時期を早める」という主張で、各地域・学校の指導者たちは「日程を早めるとテスト期間と被ってしまい、参加できないチームができてしまう。国内で野球チームが順調に増えているのだから、より多くの学校が出場できるようにし、国内大会を充実させるべきだ。」との主張で真っ向から対立。
タンザニア人、現地にいる日本人、日本にいるタンザニア野球関係者などでも、それぞれで意見が分かれ、議論は平行線を辿る一方でした。よりよい解決法を探り、議論を続けていきましたが、最終的には、決定権を持っているTaBSAが大多数の反対を押し切る形で、国際大会に出場する方向に決まりました。あまり、いい決着とは言えなかったように感じます。今年の国内大会、そして、国際大会がどうなるのかで来年以降の動きも変わってくるのかもしれません。
⑤各学校への参加呼びかけ&返答確認
昨年の反省を踏まえ、どこの学校が今どのような状況か、移動費の確保状況など、定期的に確認を取りながら、進めてきました。まだ、完全に現地の方だけで早め早めに行動するのは厳しく、なかなか参加呼びかけ(連盟からの正式なレター)をしてもらえなかったり、手紙を出したっきり、全く確認を取っていない学校もあり、フォローが必要でしたが、昨年に比べると、順調に進んで行ったように思います。ただ、当日までは何が起こるかわからないので、最後の最後まで見守る必要があります。
⑥大会スケジュールの詳細決定
昨年のスケジュールを参考に、開会式や閉会式も含め、現地の方が中心に話が進められました。計算間違いや時間の流れで予想の甘さがある部分は多少ありましたが、今回で5回目の大会ということもあり、慣れてきた部分もあるのかなと感じています。
準備段階での泥沼時期 「思いやり、信じ合う。」
「俺のやっていることに口を出すな。お前は学校の教師で、自分の生徒にただ野球を教えてさえいればいい。この国全体の野球を仕切っているのは、俺だ。」
これは、大会準備を進めている中、私が現地の方から言われた言葉です。言われた時はイラッとしましたが、言っていることは分からなくもありませんでした。
私自身、タンザニアへは体育の普及活動のために来ているので、学校や地域での野球指導は活動の一環として行っていて、それが全てという訳ではありません。ましてや、連盟に所属しているわけでもなく、そういう意味では、TaBSA(野球・ソフトボール連盟)からは"外部の人間"ということになります。そんな"外部の人間"にいちいち大会準備について、催促や確認の連絡をされたらたまったもんではないのかもしれません。
しかし、口では立派なことを言っても、実際は甘さだらけ、行動で示さない限り、信頼は勝ち取れません。言い出したら、キリがありませんが、今回で言えば、宿泊先や試合会場の確保、大会への参加呼びかけや状況確認などの準備で「◯◯日までにやる」と期限があっても、その期限の日には「今、やっているところ」とあれこれ言い訳。結局、1ヶ月ほど遅れても「運が悪かった」の一辺道。結局のところは"お互い様"なのでしょうか。
もしかしたら、最後の最後まで信じ切って、すべてを任せていれば、今大会が上手くいくかどうかは別とし、本人はもっと成長でき、長い目で見ればその方が良かったのかもしれません。ただ、私にはそれができませんでした。昨年の大会での自チームの敗戦から、1年間、生徒たちがこの大会に向けて頑張ってきたのを見てきて、私の中では大会を成功させたいという思いが勝りました。何が正解だったかは分かりません。でも、1つだけ言えるのは、お互いが信用し合えなければ、本当の意味での"成功"はできないということです。たとえ、大会が成功したとしても、お互いが思いやりも信用もなければ、どちらかに"複雑な感情"が芽生えてしまうことは言うまでもありません。意見をぶつけ合い、言い合ってもいいと思います。そして、大事なのはその後。ただ文句を言って終わるのではなく、お互いに歩み寄り、よい信頼関係を持つ。そうすれば、必ずいい方向に進んでいくと思います。今回の大会準備では、自分の器の小ささを痛感するとともに、信頼関係の大切さを身にしみて実感しました。
重なれ、想い。
タンザニア野球には、人種、国籍を超え、本当にたくさんの方々が関わっています。そして、その分だけ、それぞれの"考え"や"想い"があると思います。
でも、"全員に共通のはずの何か"がきっとあるはずです。それは、子どもたちの成長かもしれないし、純粋に野球を好きになってほしいという想いなのかもしれません。
今回の大会準備では、それを特に感じました。タンザニア野球がどんどん突き進んでいくためには、現地の方々だけでなく、日本人も含め、みんながもっと結束し、強くまとまる必要があります。そして、それは決して不可能ではないと思います。
普段の活動にしても、大会にしても、いったい何を目標に、何を目指して進んでいくのか。その中で、何が大事で、何を捨てなきゃいけないのか。そして、それができるのか、できないのか。もちろん、いろいろな感情やプライドだってあると思います。でも、まだもう少し、お互いに歩み寄ることができると思います。今こそ、いろんなことを超えて"一枚岩"になり、突き進んでいく時です。それぞれの考えがあっていいし、思いがあってもいい。でも、共通するものは何なのか。ここがはっきりし、全員の想いが重なった時、タンザニア野球はさらに大きく飛躍していくと思います。"重なれ、想い"タンザニア野球。
- 【第8回】2018年6月11日 「On the way to dream」
- 【第7回】2018年2月12日 「8760」
- 【第6回】2017年11月27日 「重なれ、想い。」
- 【第5回】2017年9月22日 「1歩先へ。」
- 【第4回】2017年7月21日 「現地とともにあれ。」
- 【第3回】2017年6月16日 「イロンナミカタ」
- 【第2回】2017年5月11日 「俺たちの“ KOSHIEN ”」
- 【第1回】2017年3月28日 「はじまりと今」
著者プロフィール
- 長尾 耕輔
- 1993年12月31日生
2016年6月より青年海外協力隊(体育)としてタンザニアの中等学校へ派遣され、体育教科の指導・普及のために活動を行っている。赴任先の中等学校で、体育と共に野球の指導・普及活動にも携わり、運動を通じて、子どもたちが“人として”大きく、深く、広く、成長できるよう、活動に取り組んでいる。
- 世界の野球 可能性を秘めたコロンビア野球
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