写真&映像=近藤玄隆、文=長尾耕輔
「来年は俺たちが勝つからな。」
こんな言葉で幕を閉じた前回大会。
決勝戦で敗れたチーム・主将が最後に残した言葉である。
1年前に感じたその想い。悔しさの先に見えた誇りとプライド。
果たして、その "想い" はこの日まで "強く" そして "色あせず" に残り続けていたのだろうか。
激闘の舞台まで待ち続けた、365日。
やっと … 、それとも、あっという間だったのか。
子どもたちにとって、いったいどれだけの時間だったのだろう。
2017年12月1日金曜日。
待ちに待った、全国大会『タンザニア "KOSHIEN"』がついに幕を開けた。
期待と不安の大会前日
過去最大の参加チーム数での開催を予定し、選手やコーチ陣の高まる期待。そんな期待とは裏腹に、昨年の痛い思い出 "ドタキャン" や "音信不通" が頭をよぎり、 "期待" とともに膨らんでいく大きな "不安" 。まさに野球のごとく "最後の最後まで何が起こるか分からない" 、そんな緊張感が会場にはありました。
しかし、そんな不安をよそに、参加チームが続々と到着。深夜着の遠方チームを除き、7チームが会場に集結し、最終打ち合わせと抽選会が行われました。話し合いのもと、昨年同様、全10チームによる「トーナメント方式(勝ち残り式)」で試合を行うことに決定。ただ、日本とは違い、初日で試合に負けてしまってもバスのチケットや宿泊所の関係で帰れないため、1日4試合ずつ進めていき、余った試合や連戦になってしまうチームの休憩時間などで負けチーム同士(もしくは、負けチームの合同チーム同士)の試合を行うことで話がまとまりました。
過去最大の参加チーム数での開催を予定し、準備を進めてきた今大会。惜しくも、1チームが移動費を確保できず不参加、もう1チームは、お金の関係で2チーム合同での参加となり、人数に限りが出てしまいました。しかし、それでも昨年から新たに2チームが増え、全10チームでの開催となりました。昨年、参加できなかったチームの2年越しの出場や、地域での野球人口が増え、同地域から2チームを引き連れての出場など、子どもたちにとっても、我々にとっても嬉しい幕開けとなりました。
参加チーム紹介
トーナメント表の上から順に、各チームを簡単に説明していきたいと思います。地図とともにご覧ください。
SANYA JUU (サンヤジュウ・セカンダリースクール)
昨年大会の覇者・サンヤジュウSS(SS: Secandary School の略。以下、SS)。アフリカ最高峰・キリマンジャロ山の麓に位置し、自然豊かな地域にあります。青年海外協力隊によって野球が始められたこの学校ですが、隊員の帰国後は指導者がいない状況が続いています。学校が県庁に掛け合い、毎年、移動費を確保するなど、熱意と理解のある先生方が揃っています。
LONDONI (ロンドーニSSとソンゲアボーイズSSの合同チーム)
タンザニア南部・ソンゲアにある2校。ここ数年、出場から遠ざかっていましたが、この地域で野球を始めた元隊員の支援で移動費を確保し、今回は2校合同チームでの参加となりました。ソンゲアからダルエスサラームまで、バスで17時間かけて今大会にやってきました。
DODOMA LIONS (ドドマ・ライオンズ)
タンザニアの首都・ドドマにあるチーム。韓国人ボランティアによって一昨年から野球が始められました。学校単位のチームではなく、ドドマに住む子どもたちで構成されたチームです。前大会では野球を始めて半年とは思えないプレーとチームのまとまりで周囲を驚かせました。
AZANIA CUBS (アザニア・カブス)
大都市・ダルエスサラームにあるアザニア SSのBチーム。野球を始めて半年から9ヶ月の1年生チームになります。8月にザンジバルで行われた大会では、2戦コールド負け。今大会での雪辱に燃えています。
MWENGE (ムウェンゲ)
アフリカの楽園・ザンジバルにあるチーム。地域で野球人口が増え、今回は2チームを引き連れての参加、そのBチームとなります。タンザニア本土から離れた島なので、フェリーで海を渡ってやってきました。本大会初出場です。
JUHUDI (ジュフディSS)
ダルエスサラームにある中等学校。アザニアSSで初期から野球に携わっていた先生が移動となり、その移動先の学校。赴任直後、先生自ら野球チームを立ち上げ、前大会から出場。今年も生徒を引き連れ、大会にやってきました。
KIBASIRA (キバシラ SS)
初代王者・キバシラSS。ダルエスサラームに位置し、タンザニア国内で始めて野球チームができた学校でもあります。学校に指導者やサポートしてくれる先生がおらず、苦しい期間が続いていますが、今年も無事に参加することができました。古豪復活を目指します。
M|KWEREKWE C(ムワナクウェレクウェ・シー)
MWENGE とともにザンジバルからやってきた M|KWEREKWE C。ザンジバルで野球に励むたくさんの選手の中から選び抜かれた代表チームです。試合後の "ダウ船踊り" は必見です。(写真・文頭3枚目)
MWANZA (ムワンザ)
アフリカ最大・ヴィクトリア湖の下に位置する、岩の街・ムワンザ。タンザニア人の熱血・女性監督が率いるこのチームは、毎年、激闘を演じ、大会を盛り上げます。ムワンザからダルエスサラームまで、バスで20時間半かけて今大会にやってきました。
AZANIA BRACKS (アザニア・ブラックス)
前回大会の準優勝校・アザニアSS。1年前の準優勝チームから上級生が抜け、新生アザニアSSの代表チームとして、優勝を狙います。2年生中心の若いチームです。
好きこそ物の上手なれ
今回で第5回目を迎えた全国大会。前回大会と比べ、明らかにレベルアップしていて、どのチームの子どもたちも、前回大会とは、見違えるほどに成長していました。
"投げる" "打つ"" "走る" "捕る" 単純に考えれば、野球は、この4つの要素で成り立っています。ボールを打って走る、ボールを捕球する、相手に向かって投げる。前回大会では、この1つ1つがなかなか上手くいかず、苦しみました。もちろん、すべてが出来なかったわけではありません。それでも、暴投をカバーした選手がまた暴投、暴投が暴投を呼び、気づけばホームラン。など、1つのアウトを取ることがとにかく遠く、1試合3、4イニングするのが精一杯といった感じでした。
そこから1年間。子どもたちの繰り広げる試合の数々は我々の予想をはるかに超えたものでした。前回大会の "ミスにつぐミス" から生まれる、終わりの見えない "点取り合戦" が嘘だったかのように、アウトを1つ1つ着実に積み重ね、イニングを刻んでいく様子。「たった1年でこれだけ成長できるのか。」と思わせるほど、どこのチームもレベルアップし、見違えるほどに成長していました。大きく、そして、たくましく成長し、この場所に帰ってきた子どもたちに素直に感心させられました。
前回よりも1つ2つステップアップした今大会。どこが勝ってもおかしくない… そんな混戦を制したのは、なんと、野球を始めてまだ1年半のチーム、 DODOMA LIONS(ドドマ・ライオンズ)でした。初戦では、経験に勝るロンドーニを寄せ付けず、2回戦では、前回大会の覇者・サンヤジュウに打ち勝ち、同日に行われた準決勝では、大会初勝利に沸く アザニア・カブスを力でねじ伏せ、最終日の決勝戦では、強豪・キバシラを投打で圧倒。見事に大会初優勝を飾りました。今大会を制したDODOMA LIONS(ドドマ・ライオンズ)は、敵チームでさえ、「ドドマ・ライオンズが優勝してよかった。」と言うほど楽しんでプレーしていて、来ている観客まで虜にするような見事なチーム。毎試合をコーチとともに一丸となって戦っていました。あっぱれです!!!
驚くほどに大きく、そして、たくましく成長した子どもたち。
" 一体、何が子どもたちを突き動かすのか "
それはきっと "好き" という気持ちなのではないでしょうか。
" 好きこそ物の上手なれ "
みなさんご存知の通り、 "どんなことであっても、好きなものに対しては熱心に努力するので、上達が早い" という意味のことわざです。確かに、"上手くなること" や "強くなること" も嬉しいし、大切なのかもしれません。でも、それよりもまず野球を "好き" になること、これが何よりも大切で、野球がこの国に広く、深く根付いていくために、この気持ちは欠かせません。これまでの "子どもたちの成長" そして、これからの "タンザニア野球の歩み" それらを支えていくのは、間違いなく "好き" という想いなんだと、強く感じました。
勝ちにこだわった1年。救われた1日。
「あれ?まだ誰かいる。」
大会2日目の夕方。片付けなどで遅くなり、帰ろうかと思った矢先、もう誰もいなくなったはずの試合後の会場から笑い声が聞こえてきました。よく見ると、ストライクをどれだけ投げれるか競争したり、1人の子がノックして、みんなでそのボールを追いかけたり、それぞれが好き好きに野球で遊んでいます。
「 コーチ !!!!」
もっと近づいて見ると自分の学校の子どもたちでした。
この日、私のチームは2チームとも敗戦し、明日の試合はありません。
子どもたちはただ楽しくてやっていたんだと思います。
でも、それが何よりも私には嬉しかったです。
1年前の決勝戦での敗戦。8月のザンジバル大会でのアザニア・カブス、2戦コールド負け。子どもたちの "悔しい" "勝ちたい" が私の気持ちにもぴったり重なりました。「今年こそは。」まさに "勝ちにこだわる" そんな1年でした。もちろん、むやみやたらに練習したわけではありません。朝の限られた時間の中で、子どもたちと一緒に考え、できる限りのことをしてきました。でも、結果はどちらも2回戦敗退。勝てる力は十分にありました。だからこそ、素直に "自分のせい" で負けたと感じました。自分の力不足が子どもたちに本当に申し訳なかったです。
そんな負けた日の夕暮れ時。
ただ純粋に野球を楽しむ子どもたちの姿がそこにはありました。
もちろん、自分の力不足が原因で負けた事実に変わりはありません。
でも、子どもたちが "勝ち" "負け" なんかよりも、ただ野球を好きになっていてくれたこと。それが何よりの救いで、何よりも嬉しかったです。
" 子どもたちに救われた "
そんな1日でした。
まとめ
8760時間。
1日24時間を365日でこれだけの数字になります。
計算は単純。でも、気持ちは、そんなに単純ではありません。
もちろん、長く感じる人もいれば、あっという間だという人もいると思います。私自身、これまでを思い返すと毎日が濃く、1年前は遠い遠い昔のようですが、過ぎてみたらあっという間。そんな感覚でした。
次の1年はどんな時間になるのだろう。
そして、365日後、どんな気持ちでその時を迎えているのだろう。きっと、そこに "正解" はありません。だからこそ、ドキドキ・ワクワクします。本当に本当に楽しみです。雪辱に燃えてもいい、勝ちにこだわってもいい。どんな時間を過ごしたとしても、間違いではありません。でも、1つだけ。子どもたちも、大人も、私自身も、今よりもっともっと野球が好きになっている、そんな "8760" 時間後でありますように。
- 【第8回】2018年6月11日 「On the way to dream」
- 【第7回】2018年2月12日 「8760」
- 【第6回】2017年11月27日 「重なれ、想い。」
- 【第5回】2017年9月22日 「1歩先へ。」
- 【第4回】2017年7月21日 「現地とともにあれ。」
- 【第3回】2017年6月16日 「イロンナミカタ」
- 【第2回】2017年5月11日 「俺たちの“ KOSHIEN ”」
- 【第1回】2017年3月28日 「はじまりと今」
著者プロフィール
- 長尾 耕輔
- 1993年12月31日生
2016年6月より青年海外協力隊(体育)としてタンザニアの中等学校へ派遣され、体育教科の指導・普及のために活動を行っている。赴任先の中等学校で、体育と共に野球の指導・普及活動にも携わり、運動を通じて、子どもたちが“人として”大きく、深く、広く、成長できるよう、活動に取り組んでいる。
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