文=藤森健
4月末に首都ソフィアで、バルカンチャピオンシップ(Balkan Championship)が開催されました。大会は前回も触れましたが、周辺国が集まり、親睦を深めること、そして、地域野球の振興を目的として国代表チームが戦うものです。今回は参加国がセルビア、ギリシャ、ルーマニアと多くはありませんでしたが、ブルガリアの優勝をもって盛況のうちに無事終了しました。
この大会の様子は世界野球ソフトボール連盟(WBSC)のサイトを始め、ヨーロッパの野球サイトなどでも取り上げられ、ブルガリア、そしてバルカン地域の野球の取り組みを紹介する良い機会にもなりました。
開会式には日本大使館、キューバ大使館、欧州野球連盟(CEB)からのゲスト、閉会式にはWBSCの会長に来賓としてお越しいただくなど、ここ最近にないブルガリア野球・ソフトボール各連盟の働きに嬉しい驚きを感じました。
まだまだ発展途上のバルカン地域の野球ですが、今回の様に周辺諸国が協力し合い、共に発展することを期待したいものです。
バルカンチャンピオンシップ優勝(写真提供:Борис Мутафчиев)
さて、今回は「ブルガリア野球と日本のつながり」というテーマでお伝えします。
ブルガリア野球を語るとき、日本とのつながりは無視できない特別なものがあります。日本側から言うのは少し差し出がましいかもしれませんが、当国野球の歴史において、長きに渡り日本人が身近に関わり、公私ともに交流をして来た事実があります。
特に1994年から2007年の間には国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊事業より、ボランティアが野球連盟に派遣されていたので、この期間の双方の交流は着目すべきものがあります。この13年間、ブルガリア野球の草分け期から発展期にかけて、総勢9人に及ぶ日本人がそれぞれ、その時の状況、野球連盟の要請、個人の裁量によって様々な活動をしていました。
例えば、私の場合はブルガリアの欧州連合加盟を控え、協力隊事業の撤退が既に決まっていた2004年から2007年までの3年間の活動期間でした。この時期のブルガリア野球は既にほぼ形のできていた状態で、連盟からの要請は「青少年への普及活動と競技力の向上」というのが主なものでした。また、それと併せて、「事業撤退後も、それまでの活動を現地人のみで継続させるには」ということを自身の課題として活動していました。
クラブチームの指導者と学校訪問(筆者撮影)
具体的には、学校訪問や地方での野球教室、スポーツイベントでのデモンストレーション、そして家族も参加できる子どもの大会などの企画や実施、そしてそのマニュアル作り、他にも子ども向けの教科書作成などがありました。また、普段の練習や試合における技術指導、競技への取り組み姿勢の啓蒙(道具の扱いや環境整備含む)も大切な活動でした。どの活動も原則的に現地の連盟関係者やクラブチームの指導者の主体性に基づき、それを補助する形で行い、常に彼らと一緒に行動していました。
活動の内容に違いこそあれ、13年の間、このようにブルガリア野球に日本人が入り込み、普段の練習や試合から、何か特別なイベントに至るまで、共に協力して活動する状況が続いていました。ですので、連盟関係者や指導者だけでなく、野球に関わるブルガリア人にとって日本(人)はとても身近な存在だったと言えます。また、僭越かもしれませんが、技術や心構えはもちろんのこと、それ以外にも良い刺激を現地の子どもや野球関係者に与えられたと思います。
実際に、長く野球に関わっている20歳以上の関係者と話すと、日本人指導者との思い出を楽しそうに語ってくれます。中には指を折りながら、マサ、ヒデ、リュウタ、レイシ、タカシ……と歴代の日本人指導者の名前を次々に挙げ、彼らとのエピソードを教えてくれる者もいます。
ブルガリア野球と日本人の交流はこれに留まりません。青年海外協力隊の関係者(事務所、日本語教師などの他の職種のボランティアの方々)、在留邦人、そして在ブルガリア日本大使館の方々にも様々な形でご支援をいただいたり、イベントに参加してもらうなどしてきました。かつてブルガリアの代表チームがまだそれほど実力がなかった頃、在留邦人の混合チームと真剣な試合をしたということを聞いたこともありますし、ブルガリアと日本の連合チームとアメリカ大使館チームの親善ソフトボール大会を開催したことなど、良い思い出がたくさんあります。
そして、日本の一般の方からご寄付いただいた道具をJICAのプログラムやNGO、公益法人などを通して受け取らせていただいたことも一度や二度ではありません(今年も公益財団法人全日本軟式野球連盟様から貴重な道具のご支援をいただきました。日本からの援助は約10年ぶりでした)。
2018年4月 道具の寄付に喜ぶ子どもたち(写真提供:ブルガリア野球連盟)
経済的にそこまで豊かではないブルガリアですので、当然、自助努力はしていますが、道具の問題は現在に至るまで常に深刻なものです。日本からの道具の援助がどれだけ喜ばれ、この国の野球の発展に寄与してきたか、またそれをブルガリア関係者がどの様に受け止め、いかに友好関係を発展させてきたことは想像に難くありません。
2011年、ブルガリア関係者の気持ちの一端を感じ取ることができる出来事がありました。東北大震災の折に彼らからお見舞いの言葉をたくさんもらったこともそうですが、それだけでなく、被災地の子ども達に道具を贈りたいと相談を受けました。
その要旨は「これまでに日本からの多大な支援を受けてきた。それに対して感謝の気持ちを持っている。震災の報道を目にし、今こそ、日本に何かがしたい。今、被災地では野球どころではないことは十分理解しているが、こんな時だからこそ、子どもに野球をしてもらいたい。適当な贈り先はないか。」というようなものでした。
その後、彼らは実際にチャリティーイベントを行い、義援金を集め、そして、被災地のとある学童野球リーグに寄付をしてくれました。
2011年震災後のチャリティーイベント(写真提供:ブルガリア野球連盟)
この出来事は長い時間をかけてお互いに信頼関係を育み、友好関係を発展させてきたから、と言えるものの顕著な例だと思います。例えば、私が昨年の欧州野球選手権予選で代表監督になったのも、これまでのブルガリア野球と日本のつながりがあったからこそ実現したことです。
また、ブルガリア人の日本に対する態度はブルガリアで起こった事だけによるものではありません。日本野球の文化や歴史、MLBでの日本人選手の活躍、そしてワールド・ベースボール・クラシックなどの国際大会での健闘なども、彼らの態度に良い影響を与えている事も知っていただければと思います。
ブルガリア野球はまだまだ課題が多く、ここ数年は子どもの参加者数が減るなど低迷気味です。そんな時こそ、再度、日本との強いつながりを認識し、上手に活用することで、競技力向上だけではなく、ブルガリア野球の振興とこれまで以上の両者の友好関係を築いて行けるように、現地の関係者と共に努めて行きたいと考えています。この連載もその1つと考えているので、今後ともご興味を持っていただけると嬉しく思います。
- 【第12回】2020年8月7日 「2020年シーズン開幕」
- 【第11回】2019年9月17日 「2つの国際大会」
- 【第10回】2019年6月28日 「日本からの支援」
- 【第9回】2019年4月17日 「子どもへの取り組み(後編)」
- 【第8回】2019年2月4日 「子どもへの取り組み(前編)」
- 【第7回】2018年12月18日 「2018年シーズン終了」
- 【第6回】2018年10月12日 「Baseball5 バルカンオープン」
- 【第5回】2018年7月25日 「フェデレーションズカップ予選」
- 【第4回】2018年5月21日 「ブルガリア野球と日本のつながり」
- 【第3回】2018年4月9日 「ブルガリア野球の概要(後編)」
- 【第2回】2018年3月15日 「ブルガリア野球の概要(前編)」
- 【第1回】2018年2月19日 「ブルガリア基本情報」
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