文=藤森健
はじめまして。東欧ブルガリアにて現地の野球に携わっています藤森健と申します。国際ランキング48位(2018年2月現在)、今年で野球連盟創設30周年を迎えるブルガリアから、この国の野球事情や20年以上に渡る日本とのつながりなどをこの場をお借りしてレポートさせていただきます。
私は2004年に独立行政法人国際協力機構 (JICA) が実施する海外ボランティア派遣制度である青年海外協力隊に参加し、ブルガリア野球連盟(Bulgarian Baseball Federation)に派遣されました。それ以来、縁があって現在までブルガリア野球との関係が続いています。昨年、2017年には期間限定ではありますが、代表チームの監督として、セルビアで行われた欧州野球選手権大会Bプール(European Championship Seniors B-pool)に参加しました。
ブルガリナショナルチームと筆者(写真提供Danail Trenav)
まずは今後この国の野球事情にご興味を持っていただくため、ブルガリアという国の基本情報を簡単にお伝えします。これまでの自分の経験では日本人に「ブルガリアについて知っていることは」と質問すると「ヨーグルト!それ以外は…」と大抵なります。ですので、これを機会に、他のことも知っていただき、ブルガリアとブルガリア野球にご関心を寄せていただければ嬉しく思います。
ブルガリアは欧州の南東部、バルカン半島の東部に位置する国です。北はドナウ川を挟みルーマニア、東は黒海に面し、南はトルコとギリシャ、そして西はマケドニアとセルビアと国境を接しています。
ブルガリアと周辺国の地図(地図データ©2018 Google, ORION-ME, ZENRIN)
地図(図1)を見ていただければ分かりますが、ブルガリアはこの地理的な理由から古代より欧州とアジア、中近東を結ぶ要所とし栄えてきました。また、14世紀から500年間程、オスマン帝国の支配下にあった歴史もあり、ブルガリアの文化はバラエティ豊かな独特のものを持っています。
自然条件も、国土の約3割を占める山岳地帯、肥沃な土壌、豊富な水、四季のある気候など非常に恵まれています。そのため、農業国として発展し、世界的にワインやバラの産地として知られています。また、欧州では夏の黒海沿岸のリゾート、冬の山岳地帯のスキーリゾートが有名で、多くの観光客が訪れています。
首都はソフィア。国の西端に位置します。国の人口は約712.8万人、広さは日本の3割程度で、本州の半分程の面積に、埼玉県と同じ位の人が住んでいることになります。これは欧州連合(EU)加盟国の中でも人口密度が低い方です。
国民はスラブ系のブルガリア人が約8割、トルコ系が約1割、ロマ人が残りの半分います。先にも触れましたが、地理的条件を理由にアジア、欧州、中近東のいろいろな人種が混じり合い、美男美女が多いとも言われています。
ちなみに日本でブルガリア人として有名なのは大相撲の鳴子親方(元大関琴欧洲)、1994年サッカーワールドカップで得点王になり、柏レイソルでも活躍したストイチコフがいます。最近ではテニスで男子シングルス世界ランキング3位(2018年2月現在)のグリゴール・ディミトロフが世界的に有名なブルガリア人です。
公用語はブルガリア語でセルビア語、クロアチア語などに近い南スラブ系、ロシア語の親戚とも大きな枠では言えます。文字は"R"を反対にした"Я"や、顔文字で使われる"Д"などがあり、日本ではロシアの文字として知られるキリル文字を使用しています。キリル文字を発明したのはブルガリア人なので、国としてとても誇りを持っています。ちなみに野球は"Бейзбол"「ベイズボル」、日本は"Япония"「ヤポーニヤ」と書き、発音します。
ブルガリア国内リーグ(Bulgarian Baseball League)のロゴ (キリル文字)
忘れてはならないのは、ブルガリアはかつては社会主義の国として知られていたことです。1946年から1989年までソ連の衛星国として、共産党による一党独裁国家だった歴史があります。ソ連の崩壊に伴い1991年に民主化しました。わずか30年前のことです。その後、2007年より欧州連合の加盟国となり、現在に至りますが、インフラ、人々の生活、習慣や考え方など、未だに様々な面でその頃の影響を見ることができます。
社会主義時代のパレード様子(写真©Lostbulgaria.com)
野球も例外ではありません。機会を見て詳しく説明できればと考えていますが、この国で野球が始まったのは1980年代、まだ社会主義時代のことです。その頃、共産主義陣営であったキューバやニカラグアなどとの国と国との関係の中にブルガリア野球黎明期の歴史があります。共産党政権崩壊と民主化、それに伴う経済危機、そして欧州連合への加盟など国の歴史的に大きな出来事がここ30年ほどの間、ブルガリア野球連盟創設後に起こりました。ブルガリア野球の歴史、そして、良いとは言えない現状にも少なからずこれらの影響があると言えます。
最後にブルガリア人は嬉しいことに、非常に親日的です。野球関係者はこちらが驚くほど日本のファンで、一般の方々も日本に対して良い印象を持っていてくれていると強く感じます。数日前にもたまたまタクシーに乗る機会があり、運転手と話をしました。自分の出身が日本と分かると、親日であること、そして日本の素晴らしさを熱く語ってくれました。ちなみに、その時、ブルガリアに野球があることを知っているかと質問したのですが、聞いたこともないと驚いていました。ブルガリアでの現地野球の知名度はまだまだ低いようです。
以上、簡単ですが、ブルガリアの基本情報をお伝えしました。ヨーグルト以外にもブルガリアの事を少しは知っていただけたでしょうか。当然、他にもたくさんこの国の魅力や興味深いところがあります。次回からは野球事情がメインですが、それらと合わせて皆さんにお伝えできればと考えています。
- 【第12回】2020年8月7日 「2020年シーズン開幕」
- 【第11回】2019年9月17日 「2つの国際大会」
- 【第10回】2019年6月28日 「日本からの支援」
- 【第9回】2019年4月17日 「子どもへの取り組み(後編)」
- 【第8回】2019年2月4日 「子どもへの取り組み(前編)」
- 【第7回】2018年12月18日 「2018年シーズン終了」
- 【第6回】2018年10月12日 「Baseball5 バルカンオープン」
- 【第5回】2018年7月25日 「フェデレーションズカップ予選」
- 【第4回】2018年5月21日 「ブルガリア野球と日本のつながり」
- 【第3回】2018年4月9日 「ブルガリア野球の概要(後編)」
- 【第2回】2018年3月15日 「ブルガリア野球の概要(前編)」
- 【第1回】2018年2月19日 「ブルガリア基本情報」
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