文=藤森健
第2回目の今回はブルガリア野球の概要(前編)をお伝えします。今後、細かい野球事情に入る前に、簡単にブルガリア野球の歴史、国内での知名度と競技人口、クラブチーム、球場と練習場所などについて知っていただけたらと思います。
ブルガリア野球の歴史
ブルガリアの野球は約100年前、20世紀初頭に地方都市ロヴェチ(Lovech)のとある高校で行われたのが初めてだったとされています。しかし、一時的なもので、その後、ブルガリアから野球は一度消滅します。
現在に繋がる野球が興ったのは1980年代初めです。その頃は同じ共産主義陣営で野球が盛んなキューバとニカラグアから多くの労働者や留学生がブルガリアに来ていました。彼らが自分達の娯楽として、道具を国内に持ち込み、公園などで楽しんでいたのがブルガリア野球の始まるきっかけになりました。
外国人のする見慣れないスポーツに興味を持つ若者達が現れ、少しずつ参加する人数が増え出します。そして、その中から大学生を中心としたチームが作られ、初めて試合が行われたのが1987年になります。
その翌年、1988年に彼らを中心として、公式にブルガリア野球連盟(Bulgarian Baseball Federation)が設立されました(この辺りのブルガリア野球黎明期の話は掘り下げると興味深いので、今後、機会を見てお伝えできればと思います)。
4年後の1992年には世界野球ソフトボール連盟(World Baseball Softball Confederation、当時は国際野球連盟:IBAF)、及び欧州野球連盟(Confederation of European Baseball、当時はCEBA)に加盟しました。
1990年代初めの代表チーム(写真提供Martin Chichov)
知名度と競技人口
サッカー、テニス、バレーボール、新体操などが主に人気の高いブルガリアですが、野球の知名度は低くありません。テレビドラマや映画などで見たことがあるという理由で、ルールは知らないがバットでボールを打つ競技くらいの認識を多くの人が持っています。
その反面、野球が国内で行われていることを知っている一般の人は少なく、その事実を知ると皆一様に驚きます。体験してみたい、観てみたいという人も多いので、野球の普及に向けて、これからの課題と関係者は自覚を持って取り組んでいます。
競技者数はその定義にもよりますが、競技者として何らかの試合や大会に参加している人数は子どもから大人まで合わせて300〜400人程度です。昔に比べて大分少なくなりました。ただし、それ以外にレクリエーションや小中学校での定期のデモンストレーション授業など、たまに野球を楽しむ、参加するという人数はその倍以上存在します。
スポーツイベントで大人気の野球体験ブース
クラブチーム
現在、ブルガリア野球連盟に登録されているチームは12チームあり、首都ソフィアに6チーム、6つの地方都市にそれぞれ1チームずつ存在します(その中で、子どものチームを持つのは7チームのみで、これは現在のブルガリア野球にとって大きな問題として関係者に認識されています)。
どのチームも非営利組織のクラブチームとしての運営形態で、企業ではなく、ボランティア(有志者)によって運営されています。そのため、運営費は個人会費や、個人あるいは企業からの寄付が主なものとなっています。クラブによっては自治体や国、そして、欧州連合のスポーツプログラムに応募したりするなどして足りない資金を補おうと試みていますが、採用されるのも容易ではありません。
以前は国からの助成金が野球連盟にあり、それがクラブチームにも分与され、運営費の大部分を占めていました。しかし、残念なことに、諸々の理由から、ここ数年は助成金自体が取り止めになっており、野球連盟、クラブの活動が制限される原因の一つとなっています。
ちなみに私自身も2013年に共同でクラブチームを設立し、運営にも携わっています。連盟に登録はしていますが、他のクラブとは異なり、大会への参加を一義的な目的としていません。子どもとその家族を主な対象として、一緒に身体を動かすことができる場所を提供することや、野球の振興を目標として活動しています。
球場と練習場所
野球専用球場はソフィアに2つ、地方都市に2つあります。専用球場と言っても日本のような大人数を収容できるような観客席があるわけではありませんが、立派なものです。特に国内リーグ22回優勝の強豪バッファローズがある地方都市ブラゴエフグラッド(Blagoevgrad)には全面天然芝の素晴らしい球場があります。
ブラゴエフグラッドのポーターフィールド球場(写真提供 ブルガリア野球連盟)
現在、ソフィアでは1つの球場で4チームが練習し、週末には国内リーグの試合に使用されています。クラブチームは曜日ごとに球場を割り振り、時には合同練習という形で共用しています。この球場は80年代初めて野球の試合が行われた場所でもあり(当時はサッカー場だった)、当時から現在まで野球のできる場所として親しまれています。
ソフィアオクトンブリ球場(写真提供 ブルガリア野球連盟)
ソフィアにあるもう一つの球場は2000年代に立派な野球専用球場としてゼロから作られました。球場は街の中心に比較的近く、その後のブルガリア野球の重要な場所となる予定でした。しかし、ここ数年、政治的なこと、金銭的なことや利権などを理由として、使用が制限されています。急に管理者が変わったり、きれいな芝のあった球場で何故か馬術の国際大会が開催され、その後使用禁止になったりと不思議なことが起きています。ブルガリアでは野球に限らずありがちな話なのですが……。
専用球場を使用していないチームは公園やサッカー場を、中にはクリケットの球場を活動の場所としているチームもあります。また、ソフィアには小学校の敷地内にあるソフトボール球場も1つあり、そこでは子どもの野球も行われています。
野球はその競技の特性上、本格的な試合、練習をするには広さや安全性などそれなりに条件の整った場所が必要です。そのため、競技がマイナーな国では場所を容易には確保できません。特に専用球場とまでなるとその設立から運営まで多大な労力がかかります。
どこでどのように試合、練習をしているのかから始まり、野球場があれば、どのようにして作られたのか、持ち主が誰なのか、管理運営はどうしているのかなどということを知ると、その国の野球事情が見えてくると思います。ブルガリアに関してもこの辺りについていつか詳しくお伝えできればと思います。
専用球場のない場所での練習風景、右奥に馬放牧中
以上、ブルガリア野球の概要(前編)でした。次回はブルガリア国内リーグやその他の大会、競技レベルについてなどブルガリア野球の概要(後編)をお伝えする予定です。
- 【第12回】2020年8月7日 「2020年シーズン開幕」
- 【第11回】2019年9月17日 「2つの国際大会」
- 【第10回】2019年6月28日 「日本からの支援」
- 【第9回】2019年4月17日 「子どもへの取り組み(後編)」
- 【第8回】2019年2月4日 「子どもへの取り組み(前編)」
- 【第7回】2018年12月18日 「2018年シーズン終了」
- 【第6回】2018年10月12日 「Baseball5 バルカンオープン」
- 【第5回】2018年7月25日 「フェデレーションズカップ予選」
- 【第4回】2018年5月21日 「ブルガリア野球と日本のつながり」
- 【第3回】2018年4月9日 「ブルガリア野球の概要(後編)」
- 【第2回】2018年3月15日 「ブルガリア野球の概要(前編)」
- 【第1回】2018年2月19日 「ブルガリア基本情報」
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