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"世界の野球"日本人指導者の挑戦 香港野球代表「最高のスタート」

2017年10月5日

文・写真=色川冬馬

 全運会の開幕戦、香港代表の前に立ちはだかったのは元中国代表選手が率いる上海チームだった。予選はリーグ戦形式で行われ、決勝ラウンドへ進むためには中国国内リーグに所属する強豪チームのいずれかを倒す必要があった。私たちのグループには、中国では強豪の上海と天津がおり、私は本気で番狂わせを起こせると信じ、準備していた。香港代表は順調に調整を進め、試合前の雰囲気が自信に満ち溢れた良い状態だった。私は、このチーム状態に「運」を重ね、現在の実力以上の力を発揮すれば、上海を倒せる可能性があると考えていた。

 この運を呼び込む男として、香港野球初のプロ野球選手で長身サブマリンのケネスを私は指名した。彼のピッチングは指導者からすれば、未だにギャンブルみたいなもので、蓋を開けてみなければ結果がどちらに転ぶかわからない。投球フォームが安定しないことが原因で、精神的に自ら負のループにはまりやすい。とはいっても、これまで5回に1回の確率で素晴らしい投球をしていた。この素晴らしい投球がハマり、香港野球得意の先制パンチを与えることができれば先取点をとれると考えていた。

 自信と経験が足りない発展途上国の選手には、ある程度「前向きな勘違いや思い込み」が大切である。こんな前向きな気持ちが、時に本当に試合の流れを引き寄せる。実際、試合前のウォームアップ、シートノック、どれをとっても香港代表がスタジアムの雰囲気をものにしていた。観戦者からは「香港代表、本当にやってしまうかもしれないと思わせられた」と後に聞かされたほどだった。

 しかし、試合が始まると私が想像した試合運びとは反対方向へ進み、ケネス投手の悪いパターンでスタートをした。ストライクを先行できず、ランナーを出してはストライクを取りにいったボールを打たれる。初回、相手に7点を許しチームの士気が一気に失われた。とはいっても攻撃陣は好調で、130キロ前後を投げる相手投手を積極的に攻め、スリーベースヒットを打つなどし、ランナーを得点圏へ進めていた。香港国内では、130キロを投げる投手と対戦する機会はないので、打撃陣の好調さが良く分かった。

 私は反撃の糸口を探していたが、想像以上に選手たちのショックは大きかったようだ。コンスタントにヒットでランナーを出塁させるのだか、集中力をかいた走塁ミスを繰り返し、幾度となくチャンスを潰していった。「持っている力を本番で発揮できない。」香港野球の悪い癖が出た試合になった。最終的に結果は1-18、大敗だった。

 試合後、私は「プランAがダメなら、次はプランBだ。決勝ラウンド進出が絶たれた訳ではない。前を向こう」と選手へ伝えた。これまで、最高の雰囲気で準備がうまくいっていた分、香港代表選手のショックは計り知れないようにも感じた初戦だった。

著者プロフィール
色川冬馬(いろかわ とうま)
2015年2月にイスラマバード(パキスタン)で行われた西アジア野球選手権にイラン野球代表監督として、チームを2位へと導く。同大会後、パキスタン代表監督に就任。2015年9月に台湾で行われた「第27回 BFA アジア選手権」では、監督としてパキスタン代表を率いた。

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