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"世界の野球"日本人指導者の挑戦 香港野球代表「真の強さに向かって」

2017年11月24日

文・写真=色川冬馬

 2017年5月18日、順位を決定する最終戦、香港代表の相手は山東というチームで今大会出場チーム中では最も素人に近いチームだった。この試合に勝てば7位負ければ8位と、香港野球協会としては4年後の大会へ向けて、何位でフィニッシュするかは重要な順位決定戦だった。とはいっても、既に目標にしていた決勝進出を逃した選手たちにとっては、再びメンタリティを戦いモードに準備することは難しい。また、香港代表の最年長選手ジェイソンが今大会を最後に引退表明しており、彼を送り出そうというお祭りの様な雰囲気もあった。言い換えると、真剣さに欠けている様に私は感じていた。

 先発投手のアンソニーは、ウォーミングアップからお喋りが止まらず、私の目には完全に緊張感に欠けているように見えた。私はしびれをきらし、本人へ注意をしたが、私の気持ちが届いていないのは明らかだった。案の定、初回からアンソニーの制球は乱れ、エラーに連携ミスが続き、初回にまさかの3失点。チームの雰囲気・士気は下がり、嫌な空気が流れた。一方で、チーム全体の為を考えれば、何事もなく“何となく勝ってしまう”よりメリハリがあって良いなと私は思っていた。

 私は、この様なチーム状況においても安定した成績を残し続ける外野手3人組を呼び、チームとしての方向性を再確認した。チーム全体の雰囲気がここまで落ちると、全体のミーティングの中で喝を入れても無意味なときがある。私は、チーム全体への指示を減らし、チームの中心選手が、行動(態度・振る舞い)でチームを引っぱれる様に促していった。

 その後、期待に応えてくれた選手達の活躍もあり、打線が奮起し5回で25点を挙げた。また、アンソニーに変わって登板した16歳のジョーダンが試合の流れを作り、17歳のマイケルへ良い流れで継投し、試合の流れを作ってくれた。ジョーダンは、来年の春より日本の高校に入学し、日本の高校野球へ挑戦する香港野球界の「期待の星」だ。是非、覚えておいて欲しい。香港国内では、向かうとこ敵なしでやってきた16歳が、全く違う言語、文化、そして日本人の野球に対する価値観の違いに揉まれ成長する姿が個人的には楽しみだ。苦しいことも沢山あるだろうが、まずは自分の決めた道を全うして欲しいと願う。この場を借りてエールを送りたい。頑張れジョーダン!!

 試合の後半は、影で今大会チームの為に頑張ってくれた立役者たちが試合を盛り上げた。私は試合経験が少ない選手達へ「果敢に攻めるチャレンジ」を求めた。私が目指した方向性を深く理解したチームの中心選手達が後押しをし、香港チームらしさを取り戻していった。前へ歩むスピードはゆっくりではあるが、香港野球代表団がチームとしての成長する姿が1試合に凝縮された時間だった。

著者プロフィール
色川冬馬(いろかわ とうま)
2015年2月にイスラマバード(パキスタン)で行われた西アジア野球選手権にイラン野球代表監督として、チームを2位へと導く。同大会後、パキスタン代表監督に就任。2015年9月に台湾で行われた「第27回 BFA アジア選手権」では、監督としてパキスタン代表を率いた。

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