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"世界の野球"日本人指導者の挑戦「香港代表強化合宿三日目」

2017年1月17日

文・写真=色川冬馬

 合宿三日目、私たちの対戦相手は初戦のチーム同様に台湾高校野球界にてトップ4に入る三民高だった。
 相手の先発投手は高校生ながら最高145キロを投げる超高校級の投手。香港野球代表は、いわゆる打高投低のチームで、投手陣が安定しないのが苦しい。飛び抜けて速い球を投げたり、鋭い変化球を投げ込めたりという、強い武器を持った選手が少ない。また、私自身も投手は本職ではないため、今後の香港野球強化における難題になると思われる。この日の試合結果も7対15で敗退、打って点数をとる理想な攻撃を展開できても、失点を減らせなかった。
 初回に先発投手がいきなり崩壊し、四球を重ねて6失点を喫した。その後も、毎回失点を許し、止めきることが出来ず最終的には15失点を喫した。身体も大きく、鋭いスイングをしていたが、高校生を相手に15失点は大きな課題となった。

 そうとは言え、それを一番よくわかっているのは選手達であり、私が重ねて良くないとこや課題を指摘し続けてもチームの士気は下がる。試合結果のみを見れば、初戦よりも酷い試合をしたように見えるかもしれないが、私は初日よりも良い試合だと試合中も選手を鼓舞し続けた。こんな苦しい状況にこそチームの本質が見える。連日のミーティングを通して、今の香港代表は現状を受け入れ、次に繋げるメンタリティを持ち合わせている。心の持ち方をそこへ転換させ、導いていくのが私の仕事である。
 前回のGood Loserの話と繋がり、今すぐにコントロールできない事を悲観しても前へは進めない。現状を受け入れ、向き合う事にこそ成長のチャンスがある。こんな状況であるからこそ、ある意味開き直り、より積極的に攻めて、成功体験を積む機会にしようと選手を鼓舞し続けた。

 一方で、負けている事に何も感じていなかったり、慣れてしまっていたりする選手へは、徹底して厳しく指摘した。試合を決めるのは私たち挑戦者ではない。たとえ最終的な結果がそうであっても、この経験を通して自分やチームと向き合い「気付き」を一つでも多く発見することで、次に繋がる。また、たとえワンサイドゲームであったとしても、尚も攻め続ける姿勢こそが、相手や審判への最大のリスペクトだと私は信じている。

 この試合を通して、私自身も確信を得たことが幾つかあった。先ほども述べたように、香港代表は適材適所に必要なレベルの攻撃陣を揃えている。これがどれくらいのレベルかと言うと、現状だけでも1〜5番打者であれば十分にアジア選手権でも戦えるレベルである。超高校級投手を相手にしても、屈することなくバットを振り、長打を重ねた。また、走塁の技術は別として、足の速い選手も多く、試合を通して積極的に次の塁を狙う姿勢と、それに伴う成功体験を積み重ねていけば確実にレベルアップしていくと確信できた。

 結果のみを見れば、一歩進んで二歩下がっているかもしれないが、香港野球代表は着実に成長している。

著者プロフィール
色川冬馬(いろかわ とうま)
2015年2月にイスラマバード(パキスタン)で行われた西アジア野球選手権にイラン野球代表監督として、チームを2位へと導く。同大会後、パキスタン代表監督に就任。2015年9月に台湾で行われた「第27回 BFA アジア選手権」では、監督としてパキスタン代表を率いた。

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