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"世界の野球"日本人指導者の挑戦 香港野球代表「歓喜の香港野球!の一方で・・」

2017年11月8日

文・写真=色川冬馬

 2017年5月15日、予選リーグ最終戦は遼寧という20代前半の若い選手が中心のチームだった。野球のスタイルは日本的で、香港代表の指導陣も「なぜジャパニーズスタイルなのだ」と口々に話していた。理由を聞くタイミングを逃し、私にもわからなかった。両チームとも全敗で迎えた最終戦、香港代表の先発投手は河南戦と同様にサムが登板した。

 初回、香港代表のリードオフマンであり、今大会も安定して成績を残し続けている中心選手のケンが、センターフライを後逸し、遼寧に先制点を許した。普段であれば、試合が崩れていく流れではあったが、先発投手のサムが持ち直し完璧な投球を続けた。その後、7回を終わって1-1と今大会初のロースコアで緊迫した試合になっていた。8回表、香港代表は今大会で引退を決めているチーム最年長がバットを折りながらも、センター前へ根性のヒットを放ち、遂に試合をリードした。その裏、さすがに疲れをみせ始めたサムだったが、味方のナイスプレイに助けられ何とかゼロに抑えた。最終回の攻撃、明らかに疲れをみせていた相手投手を攻め、香港野球らしく打って2点をあげた。

 そして迎えた最終回、サムは1アウトを取り四球でランナーを出したとこで降板した。変わった投手がアウトを一つ取ったところで、再び投手を変え、1つずつアウトを重ねる予定だった。しかし、その次に変わった投手が長打を打たれ2点を返され4-3、なおもランナー2塁にいる状況だった。この日最高の盛り上がりを見せる遼寧サイドに、祈るように戦況を見守る香港ベンチ。最後は、3人目の投手アンソニーがキャッチャーフライに仕留め、遂にゲームセット。

 我慢を強いられた戦いを制し、今大会勝利の歓喜に溢れる香港代表。一方、遼寧チームは絶対に負けてはいけない香港相手に負けたことに肩を落とし、試合後、私は相手監督に握手を拒まれたほどだった。香港代表は予選リーグで初勝利をおさめ、1勝3敗ではあるがセカンドラウンド進出を決めた。自力での決勝進出はなくなったが、セカンドラウンドで2連勝すれば、相手の結果次第では決勝ラウンドへ進出する僅かな可能性があった。再びチーム一丸となり、息を吹き返したように見えた香港代表の選手たちだった。

 しかし、その日の午後、思わぬところでトラブルが起きた。香港代表団の団長が「おれは選手たちをショッピングモールへ連れていきリラックスさせたいのに、日本人監督はそれを許さない」と香港野球協会の会長以下幹部役員が所属するSNSグループへ意味深長な投稿をしたのだ。野球の途上国では、代表団の団長が野球を知らないことも多く、野球以外の場面でチームの方向性を乱すことがよくある。今大会期間中も、団長は試合前に相手チームと集合写真を撮ろうとしたり、試合中に野球のルールを執拗に尋ねながらベンチで食事を始めたりと、野球が知らないが故に選手たちを惑わす不思議な行動が多かった。とは言え、団長としてチームへ貢献しようという行動であり、悪気がないことは理解していたので、私たちも言及することはしなかった。また、総体的には、チームの為に自分の立場で仕事をこなす団長へ感謝をしていた。そんな中で、突如私に対する差別的な意味を含めたかの投稿に、私もコーチも驚いた。団長に伝わっていなかった様だが、「ショッピングモールへ行かず、次戦の準備をする」というのは、選手たちの判断だった。私としては、選手たちの自発的な意見を尊重したつもりであったが、団長からすれば「監督が私の行為を拒否している」と感じていたようだ。

 何れにせよ、状況を把握し得ない協会幹部が所属するグループ上で、こうした唐突な行動は、大きな誤解を拡げ兼ねない。私はSNS上で説明を加えた上で、団長とも顔を合わせて和解しようよしたが、自身が中国で行っているビジネスも兼ねて来ている為、宿舎で会うことは出来なかった。

 歓喜の香港野球の一方で、途上国の代表団では、こうしたトラブルも起こりうる。複雑な状況を理解し、チームへ悪影響を与えることなく解決することも、野球の途上国監督には求められる。

著者プロフィール
色川冬馬(いろかわ とうま)
2015年2月にイスラマバード(パキスタン)で行われた西アジア野球選手権にイラン野球代表監督として、チームを2位へと導く。同大会後、パキスタン代表監督に就任。2015年9月に台湾で行われた「第27回 BFA アジア選手権」では、監督としてパキスタン代表を率いた。

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