文・写真=野中寿人
9月17日よりインドネシア国内で国民体育大会が開催されました。野球競技については、9月19日より1週間、各州対抗によって試合が行われます。この項では、国内最大のイベントであるインドネシア国民体育大会についての説明と試合展望を記させて頂きます。
インドネシア国民体育大会は国内ではPONと呼ばれており、正式名称はPekan Olahraga Nationalと言い、PONは、この略語として知られ親しまれています。PONはインドネシアで4年毎に開催される州対抗の一大複合スポーツの競技大会であり、開催年の前年にインドネシア国民体育大会/PONに出場する州や選手を選考する予選大会が開催されます。また、出場可能な年齢も定められており、野球競技については、30歳以下と定められているのも特徴的です(他の競技種目では23歳以下の場合もあります)。いうなれば、この大会は日本の国民体育大会に相当すると捉えて頂ければと思います。
次に、インドネシアの国民体育大会であるPONの歴史について、日本の読者の方々にご説明をさせて頂きます。インドネシアスポーツ協会は、1938年にサッカー協会を含む各競技協会を統括する機関としてジャカルタで設立されました。日本軍統治下の1942年から1945年までのスポーツ活動は、体育の練習活動として行われていましたが、1945年にインドネシア独立宣言が発布されると、スポーツ活動の運営は国家が統括するようになり、1946年1月に中部ジャワ州のソロ市で会議が開催され、正式にインドネシアスポーツ委員会が立ち上げられたのです。この期間は、現在、国内のスポーツ大会を統括するKONIという機関の前身になり、現在に至るまで、インドネシアスポーツ委員会 (現KONI)は、国内のスポーツ競技大会を全て統括する機関とし機能しています。
1948年当時のインドネシアは、独立宣言はしましたが、独立戦争の最終局面中でもあり、この為正式な独立を果たしておらず、国際オリンピック委員会にも加盟していない状態でした。このこともあり、同年にロンドンで開催されたオリンピックに参加することが出来ず、ロンドンオリンピックに参加できなかったことに関して、中部ジャワ州のソロ市で緊急会議が開催されました。この会議において、国内で体育大会を開催することを決定したのです。そして、第1回大会として1948年9月8日から9月12日までソロ市のスラカルタ地区で記念すべき、インドネシア国民体育大会/PONが開催されたという、非常に歴史のある大会となります。
今年、第19回大会を迎えたインドネシア国民体育大会/PONは、9月17日から9月29日まで開催され、大会競技種目は44種目、総選手数は9300人以上。州対抗による国内最大の総合スポーツ競技大会として、西ジャワ州内のバンドゥン市をメインに、同州内のチリボン市、インドラマユ市、そして他の都市で競技種目毎に試合会場を分散する形にて開催。9月17日にバンドゥン市のメイン競技場で行われた盛大な開幕式典にはジョコウィ大統領もご出席をされ、大会開幕を宣言されインドネシア国民体育大会/PONが開幕しました。
野球競技については、昨年の予選大会で既に上位8州の州代表チームに絞られており、上位からランキング順にジャカルタ特別州、ランプン州、東ジャワ州、東カリマンタン州、バンテン州、ジョグジャカルタ特別州、西ジャワ州、バリ州以上8州の代表チームが、今年のインドネシア国民体育大会/PON に参加します。また、インドネシア代表チームのメンバー選考は、この各州の代表チームから選出されますが、今大会でも、30歳以下の選手について、選手個々の成績が査定され、インドネシア代表チームのチーム編成に反映されます。
今年のインドネシア国民体育大会/PONでの成績予想では、前回大会までと同じく、インドネシア代表チーム所属のメンバーが80%以上を占める、ジャカルタ特別州が抜き出ており、優勝候補の筆頭です。次が、やはりインドネシア代表チーム所属メンバーを多く擁するランプン州となります。この2チームに次いで3位入賞については、西ジャワ州や東ジャワ州、そして、東カリマンタン州が争う図式となり、いずれも、過去、現在と、インドネシア代表チームへの選手選考に大きく関わっている州が有力になります。
このコラムをご愛読されておられる読者の方々は、既にご存知と思いますが、昨年のTOPチームのアジア選手権大会、また、先のU-18アジア選手権への参加において、レギュラー選手全員が参加出来ない非常事態に陥ったり、国内ベストメンバーでの編成が不可能だったりと、その原因はこの国民体育大会/PONの予選大会と、今回、開幕した、本大会によるものです。
その原因ですが、選手たちは国の代表選手である前に各州の支部に登録・所属をしています。このインドネシア国民体育大会/PONへの参加については、それぞれの州からの予算で強化練習が実施され、同時に各選手への給与や交通費に至る費用、加えて大会前の海外遠征などの経費一切が選手個々とチームへ支給されます。また、このインドネシア国民体育大会/PONで上位3位までの順位を獲得した場合、州ごとに額面の異なりはありますが、まず、州内でインドネシア国民体育大会/PON参加における、野球競技に関する予算の確保に大きな影響を及ぼし、そして、選手や首脳陣には報奨金が支給されます。因みに、この報奨金の額面は優勝の場合には、1個人で120万円以上という高額な額になり、野球が人生の選択肢に乗らないインドネシアンにとって、選手たちも、首脳陣たちも、個々の生活設計を、このインドネシア国民体育大会/PONで立てている者も多く、この様な政治的背景から国際大会よりインドネシア国民体育大会/PONの方が勝るのが、現状のインドネシア野球界の現実なのです。
以前、この現象を逆手に取って選手強化を試みる方法も考えましたが、どの州の強化練習の内容を見てもレベルが低く、選手個々のスキル向上にまでは難しいのが実情です。しかも、インドネシア国民体育大会/PONが終了した後、つまり、3年後の予選大会前の強化練習期間に相当する4ケ月から1ケ月を逆算したとして、結果的に、2年間半の期間は、州の代表チームの活動も停止してしまいます。
ともあれ、今年のインドネシア国民大会/PONにおいて、2018年のアジア競技大会に向けて、30歳以下の新人発掘に至る成果を、各州の代表チームに期待したいと思います。
2012年の前大会では、東ジャワ州代表チームの監督としてこのインドネシア国民体育大会/PONに、外国人として初めて参加をさせて頂いた思い出がありますが、開幕式典の入場行進では、スタンド満員のお客さんからの大声援や、式典でのレーザービームによる光のショータイムなど、国際大会とは異なった、一種独特の雰囲気があり、壮大な空間の中にいる感覚だったことを覚えています。ただ、各州における資金などにおける問題もあり、次回コラムでは大会の結果と合わせて記させて頂きたいと思います。
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著者プロフィール
- 野中 寿人(のなか かずと)
- 1961年6月6日生。日大三高野球部在学3年の夏に西東京代表にて全国高等学校野球選手権大会に出場。
その後、日本大学体育会硬式野球部へ進学。日本大学では1年の秋から体調を壊し2年間の休部をし、現役野球人生を終える。大学卒業後は、フィリピン、サイパンなどで仕事をし2001年にインドネシアのバリ島へ移住。2004年からバリ島の子供達に野球を教え始め2005年にリトルリーグを発足。2006年にはバリ州代表監督に就任、また、クラブチームを発足。2007年にはインドネシア代表ナショナルチームの監督に就任。2007年のSEAゲームスで銅メダル、2009年のアジアカップで優勝、同年のアジア選手権大会へ出場。その後、インドネシア代表ナショナルチームの監督を辞任し、地方州底上げの為に、東ジャワ州代表監督に就任。2011年のインドネシア国体予選で準優勝、2012年のインドネシア国体前哨戦で優勝、同年のインドネシア国体決勝大会で銅メダル。そして2014年からインドネシア代表ナショナルチームの監督に復帰をし、2015年の東アジアカップで準優勝。
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