文・写真=野中寿人
前回のコラムで外国人監督は国際大会でのメダル奪取が定義付けられていると述べましたが、外国人監督として国際試合で相手国の代表チームと戦い結果を出す以前に、何点か注意をしなければならないことがあります。これも、今後、海外で野球の指導を志す方々にとって、着任される国によって内容や質の相違はあるでしょうが、やはり1つの注意事項として参考にして頂ければ幸いです。
その注意点とは「その国の野球連盟組織」「選手たち」「選手たちの父母や野球関係者」「各メディアの方々」「その国の文化や風習」「現地言語力」そして「自分自身」になります。
まず、「その国の野球連盟組織」について。
国際大会に参戦する際や、国際大会に参戦する前の強化練習の段取りの段階で、どうしても資金面の問題が出てきます。この部分は完全に監督という役職を超えてしまい「ゼネラルマネージャー」的な動きを多く含んできます。実際にスポンサー獲得についても、最前面に出て動かなくてはならない為、往々にして連盟サイドからの嫉妬を受ける対象となる場合が出てきます。
「選手たち」に対しては繊細な気配りが重要になり、今まで育ってきた環境で得てきた野球を破壊すること、すなわち、生まれてから今日まで習得してきた野球を矯正する場合において、選手たちの今までの経緯を100%破壊してしまってはいけません。これは、その選手自体の現地野球社会での存在価値をも壊すことに繋がり、この部分をカバーする細心の注意と言い回しが大切になってきます。
「選手たちの父母や野球関係者」については、選手たちの父母や野球関係者は、終日グランドに居ることが多く、選手たち同様に接して行かなくてはなりません。また、父母や野球関係者が選手たちへ与える影響はもの凄く大きいため、言動や行動において細心の注意を持って接して行くことが大切です。「監督としての資質を持っているか?」の“査定”が、グランドで毎日行われ、批評についても早いのです。
「各メディアの方々」に対しては過大報道になるようなコメントは勿論ですが、言いにくい部分を繕うコメントを述べたことで、後々に発生する勘違い報道なども多く、時として意思とは逆の報道にも発展してしまいます。記者の方たちに対しても素っ気ない対応をとることは決して良いとは受け止められず無視は出来ない存在です。そして、単語の使用方法や、単語の含みによって意味が異なるインドネシア語にも注意が必要です。何しろ、相手は、こちらが外国人という意識は持ってなく100%インドネシア語が完璧と思って接してきます。
「言語力」は上記で述べた様に、現地の各メディアからの日本語でのインタビューは基本的にはありません。万が一、通訳を介したところで、通訳に入る人間が野球を専門とした知識が無い場合には余計に厄介です。以前、「内野手」のことを「グランドの中の手」と訳されたこともあります。そして、連盟やスポーツ省などへ提示をする練習のプログラムや選手の評価表、また、各会議や提出レポートなどは全てがインドネシア語になり英語は通用しません。選手たちへのミーティング、指導をする時の会話や表現方法もインドネシア語になります。
「文化や風習」については、宗教的な部分もさることながら、その国の生い立ちから成り立っている物事への考え方、物事の言い方、言い含み方などになり、この部分は極めて奥が深いです。また、インドネシア全土がそれぞれに異なる風習や文化によって形成をされているため、全てが一辺倒ではないということも把握をしなければいけません。
そして「自分自身」とは、選手たちにしっかりとした「ポリシー」と「方向性」を提示することです。当然のこととして、選手たちや野球関係者からの質問に対しては「即答性」が試されます。「時間を下さい」や「一緒に考えて行こう」などという回答はNGとなり、外国人監督失格の烙印を押されてしまいます。加えて、自分と、選手たちや周囲の関係者との間は完璧に一線を引くこと。この部分が曖昧になると変な遠慮やしがらみを生み、決断や判断が鈍ることになります。そうならないためにも、自分の言動や行動にも気を配った姿勢が大切になるということです。
また、外国人監督であるために、思え方の相違から「板挟み」の様な状況に巻き込まれる場合もあります。これは最も危険性を含んでいて自身の信用度に関係を及ぼす原因にもなりかねませんので、くれぐれも注意をしなければならないでしょう。
以上の事柄に最善の注意をしながら強化練習を進めて行き、国際大会への参戦となります。国際大会で相手国と戦う前に出て来る厄介な事柄を、問題なく、こなせてこそ外国人監督と言えるのです。
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著者プロフィール
- 野中 寿人(のなか かずと)
- 1961年6月6日生。日大三高野球部在学3年の夏に西東京代表にて全国高等学校野球選手権大会に出場。
その後、日本大学体育会硬式野球部へ進学。日本大学では1年の秋から体調を壊し2年間の休部をし、現役野球人生を終える。大学卒業後は、フィリピン、サイパンなどで仕事をし2001年にインドネシアのバリ島へ移住。2004年からバリ島の子供達に野球を教え始め2005年にリトルリーグを発足。2006年にはバリ州代表監督に就任、また、クラブチームを発足。2007年にはインドネシア代表ナショナルチームの監督に就任。2007年のSEAゲームスで銅メダル、2009年のアジアカップで優勝、同年のアジア選手権大会へ出場。その後、インドネシア代表ナショナルチームの監督を辞任し、地方州底上げの為に、東ジャワ州代表監督に就任。2011年のインドネシア国体予選で準優勝、2012年のインドネシア国体前哨戦で優勝、同年のインドネシア国体決勝大会で銅メダル。そして2014年からインドネシア代表ナショナルチームの監督に復帰をし、2015年の東アジアカップで準優勝。
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