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"世界の野球"インドネシア野球「教育としての野球-インドネシア野球キャラバン」

2018年7月20日

文・写真=野中寿人

 一昨年より、日本の株式会社フュービック様と共同で開始したインドネシア野球キャラバン。
 インドネシア全土を巡回し、インドネシア人の身体構造に適した野球の動作の指導と、正しいストレッチングの指導と講習を施すこの活動も、既に首都のジャカルタ、西ジャワ州のバンドゥン、東ジャワ州のスラバヤ、中央ジャワ州のジョグジャカルタ、南スマトラ州のパレンバン、スラウェシ島のマカッサルの6都市で開催してきました。

 開催3年目となる今年は、まず5月にジャカルタに隣接するバンテン州にて第7回を開催しました。
 このバンテン州は、昨年末の国内U18州対抗戦では優勝をしており、野球の中心地であるジャカルタと近いことからも、有能な選手が多く在籍をしている地域です。また、新興住宅地として近年開発された場所でもあり、中心地域には比較的年代の若い富裕層の方々が住んでいます。
 州の面積は9,160km2(四国の半分程度)と広く、中心地の富裕層と中心地から離れた郊外の貧困層との差が顕著という特徴を持つ都市でもあります。この貧富の差は選手間に心の距離を生み、州代表チームの編成において大きな課題となっています。

 バンテン州の中心から高速道路と一般道を車で2時間30分走り、ルバックという田舎でキャラバンを開催しました。このルバックでは数年前より野球を開始しており現在約60名の選手がいます。
 ただ、その半数の選手らはルバックから更に2時間離れた村から通ってきています。選手たちの年齢は7歳~22歳で、州代表入りを果たしている選手も数名在籍しています。
 ここでは驚いたことに、幼年期の選手がグランド内のゴミを拾っていました。これまでインドネシア国内でこの様な光景は見たことがありませんでした。そしてレベルの高い選手が多く、覇気があり動きもテキパキとしていたことにも驚きました。これは現地の指導者のレベルの高さによるものだと感じています。
 ルバックの子どもたちは、資金不足からキャッチャー用具なしで試合をしていました。また、バットも数本しか無く、ある子どものバットを見るとお父さんが木を削って作ったという手作りの木のバットを使用していました。

 キャラバン終了時に、ボールに”一生懸命に練習をしてインドネシア代表ナショナルチーム入りを目指せ”とコメントを書いて、前述の手作りの木のバットを使っている7歳の子どもに渡しました。彼はルバックから2時間離れている村から通っているとのことでした。今まで、練習に来たり来なかったりしていた彼は、我々が帰った翌日から毎日グランドに来てコーチに練習を志願するようになったそうで、コーチから練習の写真やビデオが逐次送られてきています。自分も少年時代に経験があるのですが、野球指導者からのメッセージや助言は子どもたちにとって非常に重みがあり、今後の行動や思考に大きな影響を与える可能性があるのだと実感しました。

 バンテン州の中心地であるアラムストラという地域には、フローレンスという裕福な家庭の子どもたちが通う学校があります。学校の駐車場は子どもたちの送り迎えのための高級車で埋め尽くされています。
 この学校でのキャラバンでまずに驚いたことは、子どもたちが個人でヘルメット、グラブ、金属バット、スパイク、遠征バッグなどを持っており、キャッチャーをしている子どもはキャッチャー用具一式も自前で持っていたことです。そして、練習時の子どもたちの母親から、わが子に対して指示や叱咤が多く飛び交う風景が見られ、子どもたちが委縮してしまっていたことにも驚きました。
 どの地域の子どもたちも一生懸命に野球に取り組んでいますが、この様な光景を目の当たりにしたことで地域間のハード面、ソフト面それぞれの環境の差を感じました。

 バンテン州のトップチームとU18のカテゴリーチームへのキャラバンでは、インドネシア代表ナショナルチームで行っている練習メニューを紹介し、ストレッチングに関しては指導者を交えて講習を開催しました。バンテン州からは過去にU-15インドネシア代表に選出され、その後日本に野球留学した選手もいます。

 日本のアマチュア野球関係者や、インドネシア野球の発展と向上にご支援を下さっているジャカルタの日系企業の皆さま方から好評を頂いている「突撃キャラバン」は、インドネシア野球キャラバンの取り組みの一つとして一昨年から実施しています。今回は、小川が流れている公共の公園内にて開催しました。子どもたちに混ざり保護者の方々にも参加して頂き「野球ごっこ」を紹介させてもらいました。

 今回の野球キャラバンで強く感じたことは、どんなに貧しい地域でも、どんなに田舎の地域においても、しっかりとした野球は構築出来るということです。野球というスポーツが持っている教育性はインドネシアにおいて必ず浸透すると信じています。
 次世代を牽引する有能な人材の育成は「教育」にあります。その教育の1つとして野球やその他スポーツが担う役割は、今後のインドネシアにおいて非常に大きなものとなると考えています。また、そのことを裏付ける事実として、現在、多くの学校にて野球部が創設されてきています。
 インドネシアの方々には、日本から来たドクターストレッチのトレーナーの方々の講習を通じ、沢山の新たな知識を伝授していますが、トレーナーの方々にもインドネシアで沢山の事柄を感じてもらいたいと願っています。
 アジア野球途上国で初めてキャラバンを開催し、更に持続して開催をしていることは他のアジア野球途上国内でも評判になり開催の依頼が寄せられています。周囲から見れば、何気なく淡々とこの活動をしているように映っているのかもしれませんが、大きな野球団体や野球組織でもない我々が、こうした活動を実施できているのも、株式会社フュービック様のご支援の賜物だと感じています。
 次回のインドネシア野球キャラバンでは「キャンプ キャラバン」と称した新しいプログラムを取り入れる予定です。

日本人監督の挑戦
著者プロフィール
野中 寿人(のなか かずと)
1961年6月6日生。日大三高野球部在学3年の夏に西東京代表にて全国高等学校野球選手権大会に出場。
その後、日本大学体育会硬式野球部へ進学。日本大学では1年の秋から体調を壊し2年間の休部をし、現役野球人生を終える。大学卒業後は、フィリピン、サイパンなどで仕事をし2001年にインドネシアのバリ島へ移住。2004年からバリ島の子供達に野球を教え始め2005年にリトルリーグを発足。2006年にはバリ州代表監督に就任、また、クラブチームを発足。2007年にはインドネシア代表ナショナルチームの監督に就任。2007年のSEAゲームスで銅メダル、2009年のアジアカップで優勝、同年のアジア選手権大会へ出場。その後、インドネシア代表ナショナルチームの監督を辞任し、地方州底上げの為に、東ジャワ州代表監督に就任。2011年のインドネシア国体予選で準優勝、2012年のインドネシア国体前哨戦で優勝、同年のインドネシア国体決勝大会で銅メダル。そして2014年からインドネシア代表ナショナルチームの監督に復帰をし、2015年の東アジアカップで準優勝。

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