文・写真=野中寿人
国際大会開催や、インドネシア代表ナショナルチームの統括組織であるインドネシアアマチュア野球連盟の人事改正と運営方法、アジア競技大会開催に向けたグランドの全面改装による、インドネシア代表チームが使用する練習場所の問題など、現状、チーム稼働において、多くの不安とマイナス要因を抱えているインドネシア野球ですが、全ての状況を受け入れ、選手やチームにモチベーションを提供して、向上に向けて進んで行かなくてはいけません。
その為のプロジェクトとして、選手個々の国外への野球修行を遂行していくわけですが、まず、この部分の選手人選については、昨年末の国内クラブチーム大会にて選択を終えています。しかし、現状の東アジアカップ大会開催未定ということが、国外野球修行に選ばれた選手たちへ、多少なりとも、影響を与えることも隠せません。今後、各選手と、個々の人生設計と現状の野球事情を照らし合わせた、個人面談が必要になると考えます。
この様な選手たちの精神状態を見据えながらも、2018年のアジア競技大会に向けた選手強化はしていかなくてはなりません。そのプログラムとして、3月末に、インドネシア代表トップチーム所属の選手を深谷組硬式野球部へ渡航させます。そして、8月には日本大学準硬式野球部、帝京大学準硬式野球部へ選手を渡航させ、同じく、駿河台大学硬式野球部へ、選手とコーチを派遣し、野球修行を決行します。
深谷組硬式野球部への野球研修については、昨年同様に、3か月を1サイクルとして選手を渡航させますが、今年度については、昨年度より1回多い、2回の野球研修渡航を考えております。実際、昨年渡航修行をした選手の成果として、実技は勿論のことですが、試合中の全ての細かい動きが、野球選手として良い方向に変貌をしました。これは、レベルの高い日本人の選手の中で、同調化した動きを、習得した結果が鮮明に表れています。渡航修行による野球全般に対する繊細な部分への、気づきであり、今年度渡航修行する選手たちにも、大きな期待を抱いております。
また、今年度より開始する日本大学準硬式野球部と帝京大学準硬式野球部への野球研修は、秋季キャンプの時期に数週間、選手を渡航させる計画です。更に、駿河台大学硬式野球部については、8月の秋季リーグ戦開始前のキャンプと、各練習試合の時期に、1か月間の野球研修にて選手とコーチを渡航させる段取りでいます。
続いて、東都準硬式野球連盟選抜チームを交えた、国際親善交流試合も、国内クラブチーム大会と併用して、11月中旬から末に開催をします。今年度は、早い時期より大会を国内に宣伝をし、11月の大会での試合中継等をメディア機関に発信する計画でおります。他のアジア野球途上国からも数チームを招聘して、一層の国際交流とアジア野球途上国の底上げを、リンク性を持って推進していく形を構築したいと思います。
その他、私の母校である日大三高への合同練習への参加や、日本の独立リーグへの合同練習参加、またトライアウトなどを仕込み、インドネシア国内では、社会人野球チームの設立をも視野に入れて、選手たちに、野球を行う上での、多くの付加価値の提供を実行して行きます。
更に、昨年度より開始をしました、インドネシア国内全土を巡回する、野球キャラバンについて話しますと、本年度も継続して年3回の野球キャラバンを基本として開催します。現在、野球キャラバンの開催依頼が来ている地域は、スマトラ島のパレンバン州とランプン州、スラウェシ島のマナド州、そして、バリ州のデンパサール市となり、今年度の第1回目として(昨年度から都合4回目)、5月にスマトラ島のパレンバン州で野球キャラバンを開催します。
今年度の各開催都市を、簡単にご説明すると、パレンバン州については、2011年に東南アジア競技大会が開催された場所で、国際規格を満たした野球場を備えています。また、2018年のアジア競技大会でも、主催地であるジャカルタと併用した開催地でもあり、野球人口も青年期を中心に増加の兆しもあり、今後の期待が大きい地域です。
また、ランプン州に至っては、インドネシア国体の準優勝州であり、国内クラブチーム大会においても、優勝、もしくは、準優勝を獲得している実力の高い地域となります。今年度の野球修行プログラムでも、数名の選手が日本へ渡航をします。
また、バリ州については、昨年のインドネシア国体で5位入賞を果たしており、実力が年々と向上してきている地域です。次回のインドネシア国体では、さらなる飛躍が期待されています。
そして、マナド州はフィリピンのミンダナオ島の南に位置し、スラウェシ島の1番北に位置する場所です。このスラウェシ島は、古くからソフトボールが行われてきた地域でもあり、マナド州も、その影響を受けてきた場所です。野球については、今年の野球キャラバン開催の後に、本格的に発足をして行くことになりますが、やはり、古くからのソフトボールという基盤があるだけに、野球の普及は早いと考えます。
また、野球キャラバンの内容について、昨年度と同様に、その地域の州代表チームやクラブチーム、学校訪問、孤児院や貧困階級の子供たちへ野球とストレッチを紹介していきますが、今年度の特徴としては、昨年度よりも“社会的な野球の立ち位置“という側面を全面に押し出すことです。
この野球の立ち位置とは、インドネシアで抱える大きな社会問題である、幼年期から青年期にかけての成長段階の経緯で多発している、麻薬や犯罪という問題に対し、その減少と撲滅のスローガンを、野球キャラバンの中に色濃く取り込みながら、各機関へ、積極的にアプローチをして行くものです。
要は、野球を単なるスポーツ競技の1つでは無く、野球の指導内に含む人間教育というものを、社会現象に取り込み、国内にアプローチを推し進め、野球が社会貢献を担う1つの行動要因となる、新しい切り口を持たせることによって、国内での野球の受け入れに対する基盤を確立することです。
特に、インドネシアにおける文化や風習にとって、野球を広め、発展させることは、現状、スポーツそのものの価値観が社会的に低いゆえに、野球の発展や向上に多くの障害を招きます。であれば、スポーツそのものの視点を変えた施策が必要と考え、幼年期から青年期では親の意向による部分が大半を占めることからも、各宗教と異なる部分での、モラルや物事への捉え方、対応といったことを、野球を介して、その習得を提供することを狙います。この施策を進める上においては、野球による各特待制度への連動性を持たせるものです。
そして、この最大の根元となる要素は、インドネシア人の気質の復興、すなわち、インドネシアの国の歴史上、350年以上もの間、植民地統治下に置かれていたという経緯があります。その統治時代の中で、失われたアイデンティティの復興があるのです。
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著者プロフィール
- 野中 寿人(のなか かずと)
- 1961年6月6日生。日大三高野球部在学3年の夏に西東京代表にて全国高等学校野球選手権大会に出場。
その後、日本大学体育会硬式野球部へ進学。日本大学では1年の秋から体調を壊し2年間の休部をし、現役野球人生を終える。大学卒業後は、フィリピン、サイパンなどで仕事をし2001年にインドネシアのバリ島へ移住。2004年からバリ島の子供達に野球を教え始め2005年にリトルリーグを発足。2006年にはバリ州代表監督に就任、また、クラブチームを発足。2007年にはインドネシア代表ナショナルチームの監督に就任。2007年のSEAゲームスで銅メダル、2009年のアジアカップで優勝、同年のアジア選手権大会へ出場。その後、インドネシア代表ナショナルチームの監督を辞任し、地方州底上げの為に、東ジャワ州代表監督に就任。2011年のインドネシア国体予選で準優勝、2012年のインドネシア国体前哨戦で優勝、同年のインドネシア国体決勝大会で銅メダル。そして2014年からインドネシア代表ナショナルチームの監督に復帰をし、2015年の東アジアカップで準優勝。
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