文・写真=野中寿人
野球先進諸国である日本の指導者や、他国の指導者が、インドネシアをはじめとする野球途上諸国において、その国の選手の「野球動作」を見た時に、必ず口にされる言葉があります。
それは、野球動作が「間違っている」という言葉です。 そして、この言葉をもととし、実際に指導を行った場合、必ず、行うアクションは選手個々への野球動作の「矯正」になります。しかも、その大半が、異国で、その国独自の選手を育成するのではなく、日本人選手を育成したがるというニュアンスを含んでいるのも多いものです。また、この野球動作の「矯正」には、対象とする選手の年齢層は関係が無ないのも特徴にあげられ、代表チームの選手たちへの「矯正」をも矯正の範疇になります。
更に、次に口にする言葉としては、現地人指導者に対して、今までの指導における「間違った指導」という話へも、往々にして、発展して行くことが多いのが事実なのです。
では最初に、選手達への「矯正」について述べてみます。インドネシアでの代表チームに所属する選手の構成年齢は、18歳から35歳という年齢層になります。以前にも記載しましたが、彼らは代表チーム入りをすることで給与を得て生活をしています(国からの資金投下される国際大会において)。そして、当然ですが、ある程度、年齢の行っている選手達への「矯正」は身体上にも無理があります。仮に、無理やり「矯正」をさせたとして、その「矯正」の成果が出ず、代表チームから外された場合、その選手にとっての生活基盤の崩壊を招くことになり、野球どころの話ではなくなってしまいます。
志向性の高い選手は、自身の中で「どこが違うのだろう」「どうしたら出来る様になるのだろう」と、日本の選手との相違を日々探っています。そんな中で、コミュニケーションを計りながら、野球動作上の欠けている部分を、選手自身に分かってもらうことが大切になります。しかし、その後は、身体構造を壊す様な、危険な範囲までの「矯正」はさせてはいけません。今後、現役を終えて、現地人指導者となって行く上で、正しいとされる野球動作は教え、覚えてもらわなくてはいけませんが、この理解と、指導者から選手への、また、選手が自身への強制的な「矯正」の実行は別問題なのです。
その一方で、身体動作上の筋力動作に柔軟性のある、いわゆる、まだ、動作が固まってなく、応用度の許容が範囲内である幼年層の選手達への「矯正」はしっかりと行わなくてはいけません。国際レベルでも通用する選手の輩出へむけて、この年代は非常に大きな可能性を持っていましょう。しかし、やはり異国においては、日本人選手と同じような育成方法は当てはまりません。これは家系のルーツにおける混血の度合いなどにも大きく関係しているからです。
次に、現地の指導者についての説明をしてみますと、彼ら指導者は、野球ではなく、ソフトボールの選手だったという背景が往々にしてあります。(この項では、あえてインドネシア流ソフトボールとだけ記しておきます)。そして、彼らが選手として指導を受けてきた時代には、野球を行う上での、的確な動作の教えを受けてきていないという問題があります。従って、彼らが野球を指導するにあたって、正しいとされる野球動作を教えることは困難なのです。「教えたい」「教えなければいけない」だけれども、指導者自身が教わっていきていない未知の部分になるという訳です。
いずれにせよ、野球途上諸国の選手達や指導者達に対して「間違っている」という簡単な表現で全てを決め付けず、その国の野球に関する歴史上の背景や経緯を考慮して対応をすることが好ましいと判断します。
仮に「間違っている」との概念だけで、無理やり「矯正」を施した場合、彼らがインドネシアという国に生まれ、今日まで習得してきた野球、また、現在のインドネシア国内でのステータス等の全てを破壊してしまうことを意味します。これは最も注意すべき点であると同時に、以上のことは、野球途上諸国における、野球普及活動上の指導における「1つの教訓」であると判断を致します。
インドネシア野球は、何が的確とされる野球動作なのかが分からずに、手探りで、試行錯誤しながら進んで来ました。それが、インドネシア人の身体構造と合っていなかったがゆえに、世界レベルの選手が誕生出来ずにいます。しかし、現状、選手の中、若い指導者の中には、その原因の何たるかについては、既に分かっているのです。分かっているが年齢などにより身体上の矯正がままならならず、悩み、苦しんでいるという状況です。
元来、身体能力が高いインドネシア人です。世界人口第4位、国民総数約2億5000万人強の中には、数年後には、凄い選手になる可能性を持った選手が必ずいるはずです。数年後、数十年後には、インドネシアをはじめとし、他のアジア野球後進諸国の多くの選手達が、日本国内でプレーする時代が到来すると思います。
- インドネシア野球「アジア競技大会 大会に向けての準備状況」
- インドネシア野球「教育としての野球-インドネシア野球キャラバン」
- インドネシア野球「インドネシア代表チームの編成、及び、最新のグラウンド状況」
- インドネシア野球「アジア競技大会への準備」
- インドネシア野球「東京都高野連様との提携」
- インドネシア野球「第13回 BICレッドソックス深谷組カップ」
- インドネシア野球「野球キャラバン ジョグジャカルタ編」
- インドネシア野球「インドネシア女子硬式野球始動~オーストラリアへ!」
- インドネシア野球「日本の各野球組織、団体との提携へ」
- インドネシア野球「野球キャラバン スラウェシ島マカッサル編」
- インドネシア野球「インドネシア野球の方向性 野球動作の統一」
- インドネシア野球「子供たちに未来を!2017野球キャラバン」
- インドネシア野球「高度な野球環境との同化」」
- インドネシア野球「卒業旅行と野球 バリ島」
- インドネシア野球「インドネシア アマチュア野球連盟人事改正(リーダーと組織)」
- インドネシア野球「2017インドネシア代表チームの運営」
- インドネシア野球「2017年インドネシア野球向上各プログラム」
- インドネシア野球「2017年 インドネシア代表ナショナルチーム展望」
- インドネシア野球「“野球国力”ランキング査定システムがもたらす野球衰退」
- インドネシア野球「国際大会開催不能による野球衰退の実情」
- インドネシア野球「非行麻薬防止 突撃キャラバン」
- インドネシア野球「Fu×Bic 野球キャラバン ジャカルタ編」
- インドネシア野球「野球教室とストレッチ講習」
- インドネシア野球「大会結果とセレクション結果」
- インドネシア野球「国内クラブチーム大会 Vol.4 (大会の主旨)」
- インドネシア野球「国内クラブチーム大会 Vol.3 (日イ友好 国際親善)」
- インドネシア野球「国内クラブチーム大会 Vol.2 (付加価値の提供)」
- インドネシア野球「国内クラブチーム大会開催 (インドネシア代表チーム選手セレクション)」
- インドネシア野球「ワールド・ベースボール・クラシック 予選について」
- インドネシア野球「第19回 インドネシア国民体育大会 総評」
- インドネシア野球「第19回 インドネシア国民体育大会 開催」
- インドネシア野球「Fu×Bic 野球キャラバン スラバヤ編」
- インドネシア野球「第11回 BFA U-18 アジア選手権 Vol.5~ストレッチングトレーナの導入~」
- インドネシア野球「第11回 BFA U-18アジア選手権 Vol.4」
- インドネシア野球「第11回 BFA U-18アジア選手権 Vol.3」
- インドネシア野球「第11回 BFA U-18アジア選手権 Vol.2」
- インドネシア野球「第11回 BFA U-18アジア選手権 Vol.1」
- インドネシア野球「U18 インドネシア代表強化練習 ~台湾へ」
- インドネシア野球「第11回 BFA U-18 アジア選手権大会 参加」
- インドネシア野球「深谷組硬式野球部 野球研修を終えて」
- インドネシア野球「Fu×Bic 野球キャラバン バンドゥン~後編~」
- インドネシア野球「Fu×Bic 野球キャラバン バンドゥン~前編~」
- インドネシア野球「日本プロ野球名球会野球教室」
- インドネシア野球「野球キャラバン スタート」
- インドネシア代表「2016年 アジア競技大会強化プロジェクト開始」
- 「社会人野球への挑戦」
- 「ソフトボールとの関係」
- 「野球動作〜異国で日本人選手の育成はいらない」
- 「泥水を飲み続けて修正へ導く」
- 「ライセンス制度の導入」
- 「現地人指導者の権威と権力」
- 「野球をどの様にして国内の学校に広めるか」
- 「インドネシア野球向上と発展プロジェクト」
- 「外国人監督として注意しなければならないこと」
- 「インドネシア代表 外国人監督としての宿命と任務」
- アジア選手権「第27回 BFAアジア選手権 インドネシア代表 総評(後編)」
- アジア選手権「第27回 BFAアジア選手権 インドネシア代表 総評(前編)」
- アジア選手権「第27回BFAアジア選手権 中国代表戦」
- アジア選手権「第27回BFAアジア選手権 特別な2つの国歌」
- アジア選手権「第27回BFAアジア選手権 パキスタン代表への挑戦」
- アジア選手権「一難去らずにまた一難、第27回アジア選手権大会へ向けて」
- アジア選手権「インドネシア人の体について探求する」
- アジア選手権「インドネシア代表ナショナルチームの選手選考」
- アジア選手権「スポンサー獲得とインドネシアからの教示」
- アジア選手権「インドネシア、国際大会への参戦」
著者プロフィール
- 野中 寿人(のなか かずと)
- 1961年6月6日生。日大三高野球部在学3年の夏に西東京代表にて全国高等学校野球選手権大会に出場。
その後、日本大学体育会硬式野球部へ進学。日本大学では1年の秋から体調を壊し2年間の休部をし、現役野球人生を終える。大学卒業後は、フィリピン、サイパンなどで仕事をし2001年にインドネシアのバリ島へ移住。2004年からバリ島の子供達に野球を教え始め2005年にリトルリーグを発足。2006年にはバリ州代表監督に就任、また、クラブチームを発足。2007年にはインドネシア代表ナショナルチームの監督に就任。2007年のSEAゲームスで銅メダル、2009年のアジアカップで優勝、同年のアジア選手権大会へ出場。その後、インドネシア代表ナショナルチームの監督を辞任し、地方州底上げの為に、東ジャワ州代表監督に就任。2011年のインドネシア国体予選で準優勝、2012年のインドネシア国体前哨戦で優勝、同年のインドネシア国体決勝大会で銅メダル。そして2014年からインドネシア代表ナショナルチームの監督に復帰をし、2015年の東アジアカップで準優勝。
- 世界の野球 可能性を秘めたコロンビア野球
- 世界の野球 力戦奮闘ブラジル野球!~日系移民が紡いできた夢~
- 世界の野球 東欧ブルガリア -野球事情とその展望-
- 世界の野球 ヒマラヤを北に臨む国 ネパールの野球
- 世界の野球 清水直行 ニュージーランド野球の世界挑戦記
- 世界の野球 アジア選手権 日本人監督の挑戦 インドネシア編
- 世界の野球 アジア選手権 日本人監督の挑戦 パキスタン編
- 世界の野球 アジア選手権 日本人監督の挑戦 番外編 タイ野球の歩み
- 世界の野球 日本人指導者の挑戦 香港野球編
- 世界の野球 フランス通信~フランス野球・ソフトボール連盟より~
- 世界の野球 南の楽園フィジーのHAPPYベースボール通信
- 世界の野球 "アフリカからの挑戦・赤土の青春" ウガンダベースボール
- 世界の野球 パラオ共和国 よみがえれ南洋の「ヤキュウ」魂
- 世界の野球 アフリカ球児の熱い青春!タンザニア野球“KOSHIEN”への道"
- 世界の野球 受け継がれるSri Lanka野球の物語~光り輝くスリランカ野球の夢~
- 世界の野球 セルビア野球の挑戦と葛藤 バルカン・ベースボール事情あれこれ
- 世界の野球 ケニア野球、一歩一歩 元独立リーガー日本人青年監督の奮闘!
- 世界の野球 欧州の野球事情
新着記事
ジャパン 関連記事
世界の野球 関連記事
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「カラダを動かす楽しさを伝えよう!」2024年11月25日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「ネパール野球25周年日本ネパールスポーツ交流プログラム2024-2025」2024年9月2日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「学校スポーツ連盟との協定」2024年4月12日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「1st National Baseball5 Championship 2024」2024年1月15日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「目指せ!体験から広がる笑顔の輪」2023年11月28日 |