文・写真=野中寿人
2003年前後のインドネシア代表ナショナルチームに、当時MAX136キロを投げる、弱冠20歳の有能なピッチャーが在籍していました。国際大会において、東南アジア王者のフィリピン代表にも投げ勝っている実績も残っています。
後に、アジア野球後進国を代表する投手として頭角を現す、タイ代表の白倉キャサダー投手、フィリピン代表のダーウィン・デラ・カルサダ投手、そして、パキスタン代表のイーサン・ウラー投手らが出現する以前の時代であり、アジア野球後進諸国全体の期待を担う選手であったことは間違いありません。物事には、もしかしたらという言葉は適応できませんが、弱冠20歳という年齢からも、日本でもプレーが出来た可能性を期待させる素質を持ち備えた選手だったことは確かです。
しかし、当時のインドネシアには的確な指導力とメンテナンス力を持ち合わせていなかったために、この有望な選手を潰してしまったという、非常に残念な事例があります。当然のこととして認識上の見解から指導者への責任も問われません。まさしく、国家財産の消滅です。
素質のある選手、天性的能力を備えた選手が現れても、現在のインドネシア国内では、現地人監督の力量の問題から育成が難しく、その為にも、前々項で記した様な、現地人監督育成の為の日本や海外での「修行プログラム」が必要になります。また、この現地人監督育成のプログラムに関連した重要な実行事項として、国内において、監督としてのランクを定める「コーチライセンス」の導入が挙げられます。
この「コーチライセンス」は、各ランクによって、国の代表チーム、州の代表チーム、クラブチーム、リトルリーグ、ポニーリーグなどの、ビッグ、シニア、ジュニア、メジャー、マイナー、Tボールへの分類、そして、大学、高校、中学、小学校、幼稚園といった各学校などの「指導可能な範囲」を明確に確定させるものです。
監督としての実績と、毎年の進級試験の導入による、ランク昇進制度を設けることによって、監督としての指導の質の向上と維持をさせて行くもので、定期的に、継続をして、日本や海外でのコーチ修行をも含むプログラムになります。
シートノックも満足に打てないようでは監督の任務は務まりません。また加えて、野球理論、戦略、バイオメカニズム、コンディショニング、メンテナンスといった全般的な修行を経て、選手への誤指導による、身体破壊の責任問題をも強く認識をさせます。
このコーチライセンス制度を持って、インドネシア野球全体としての、指導上の理論の同類性を持たせ、冒頭に述べた選手以外にも、有能な選手を潰してしまうケースが多く起こっている現状の悲劇を、出来るだけ早急な対応にて、避けなければいけません。その為にも、この「コーチライセンス」の導入実施が必要なのです。
2007年の代表監督就任時に、当時のインドネシアアマチュア野球連盟に、この「コーチライセンス」のシステム導入を嘆願しましたが、実行までには至らず、昨年、ようやっと形を得ました。しかし、残念なことに、形を得たままで終わっており、是非、この機会に、この「コーチライセンス」を、充実した内容に移行させるべく実行させたいと思っています。
更にもう1つ、この「コーチライセンス」のシステムに則り、「審判ライセンス」の導入も非常に大切になってきます。各機関の主催する審判講習会へ参加をし「参加終了証明書」を取得することも重要ですが、これだけでは真の質の向上はあり得ません。スリランカ出身のスジーワさんが最も良い実例で、審判として日本の大会(甲子園大会を含む)で、そして、アジア圏の国際大会で素晴らしいご活躍をされておられます。
インドネシアの審判としては、現在、2009年のアジアカップ大会で最優秀審判賞を受賞された、ジャイン氏という方1人のみが、アジア圏のアジアカップ大会やアジア選手権大会で審判を務められていますが、国内で審判をしている若い者達にも、国際大会で審判が務められる様な質を持たせるために、日本や海外などで審判の修行をさせるプログラムが必要であり、国内でランクを定め、上記の「コーチライセンス」同様に「審判ライセンス」なるものを発給して、各大会の統轄範囲を明確化させて強化して行かなくてはいけません。
尚、この「審判ライセンス」も、昨年、形を得ましたが実行されていない状態であり「コーチランセンス」と合わせて、施していきたいと思っております。
- インドネシア野球「アジア競技大会 大会に向けての準備状況」
- インドネシア野球「教育としての野球-インドネシア野球キャラバン」
- インドネシア野球「インドネシア代表チームの編成、及び、最新のグラウンド状況」
- インドネシア野球「アジア競技大会への準備」
- インドネシア野球「東京都高野連様との提携」
- インドネシア野球「第13回 BICレッドソックス深谷組カップ」
- インドネシア野球「野球キャラバン ジョグジャカルタ編」
- インドネシア野球「インドネシア女子硬式野球始動~オーストラリアへ!」
- インドネシア野球「日本の各野球組織、団体との提携へ」
- インドネシア野球「野球キャラバン スラウェシ島マカッサル編」
- インドネシア野球「インドネシア野球の方向性 野球動作の統一」
- インドネシア野球「子供たちに未来を!2017野球キャラバン」
- インドネシア野球「高度な野球環境との同化」」
- インドネシア野球「卒業旅行と野球 バリ島」
- インドネシア野球「インドネシア アマチュア野球連盟人事改正(リーダーと組織)」
- インドネシア野球「2017インドネシア代表チームの運営」
- インドネシア野球「2017年インドネシア野球向上各プログラム」
- インドネシア野球「2017年 インドネシア代表ナショナルチーム展望」
- インドネシア野球「“野球国力”ランキング査定システムがもたらす野球衰退」
- インドネシア野球「国際大会開催不能による野球衰退の実情」
- インドネシア野球「非行麻薬防止 突撃キャラバン」
- インドネシア野球「Fu×Bic 野球キャラバン ジャカルタ編」
- インドネシア野球「野球教室とストレッチ講習」
- インドネシア野球「大会結果とセレクション結果」
- インドネシア野球「国内クラブチーム大会 Vol.4 (大会の主旨)」
- インドネシア野球「国内クラブチーム大会 Vol.3 (日イ友好 国際親善)」
- インドネシア野球「国内クラブチーム大会 Vol.2 (付加価値の提供)」
- インドネシア野球「国内クラブチーム大会開催 (インドネシア代表チーム選手セレクション)」
- インドネシア野球「ワールド・ベースボール・クラシック 予選について」
- インドネシア野球「第19回 インドネシア国民体育大会 総評」
- インドネシア野球「第19回 インドネシア国民体育大会 開催」
- インドネシア野球「Fu×Bic 野球キャラバン スラバヤ編」
- インドネシア野球「第11回 BFA U-18 アジア選手権 Vol.5~ストレッチングトレーナの導入~」
- インドネシア野球「第11回 BFA U-18アジア選手権 Vol.4」
- インドネシア野球「第11回 BFA U-18アジア選手権 Vol.3」
- インドネシア野球「第11回 BFA U-18アジア選手権 Vol.2」
- インドネシア野球「第11回 BFA U-18アジア選手権 Vol.1」
- インドネシア野球「U18 インドネシア代表強化練習 ~台湾へ」
- インドネシア野球「第11回 BFA U-18 アジア選手権大会 参加」
- インドネシア野球「深谷組硬式野球部 野球研修を終えて」
- インドネシア野球「Fu×Bic 野球キャラバン バンドゥン~後編~」
- インドネシア野球「Fu×Bic 野球キャラバン バンドゥン~前編~」
- インドネシア野球「日本プロ野球名球会野球教室」
- インドネシア野球「野球キャラバン スタート」
- インドネシア代表「2016年 アジア競技大会強化プロジェクト開始」
- 「社会人野球への挑戦」
- 「ソフトボールとの関係」
- 「野球動作〜異国で日本人選手の育成はいらない」
- 「泥水を飲み続けて修正へ導く」
- 「ライセンス制度の導入」
- 「現地人指導者の権威と権力」
- 「野球をどの様にして国内の学校に広めるか」
- 「インドネシア野球向上と発展プロジェクト」
- 「外国人監督として注意しなければならないこと」
- 「インドネシア代表 外国人監督としての宿命と任務」
- アジア選手権「第27回 BFAアジア選手権 インドネシア代表 総評(後編)」
- アジア選手権「第27回 BFAアジア選手権 インドネシア代表 総評(前編)」
- アジア選手権「第27回BFAアジア選手権 中国代表戦」
- アジア選手権「第27回BFAアジア選手権 特別な2つの国歌」
- アジア選手権「第27回BFAアジア選手権 パキスタン代表への挑戦」
- アジア選手権「一難去らずにまた一難、第27回アジア選手権大会へ向けて」
- アジア選手権「インドネシア人の体について探求する」
- アジア選手権「インドネシア代表ナショナルチームの選手選考」
- アジア選手権「スポンサー獲得とインドネシアからの教示」
- アジア選手権「インドネシア、国際大会への参戦」
著者プロフィール
- 野中 寿人(のなか かずと)
- 1961年6月6日生。日大三高野球部在学3年の夏に西東京代表にて全国高等学校野球選手権大会に出場。
その後、日本大学体育会硬式野球部へ進学。日本大学では1年の秋から体調を壊し2年間の休部をし、現役野球人生を終える。大学卒業後は、フィリピン、サイパンなどで仕事をし2001年にインドネシアのバリ島へ移住。2004年からバリ島の子供達に野球を教え始め2005年にリトルリーグを発足。2006年にはバリ州代表監督に就任、また、クラブチームを発足。2007年にはインドネシア代表ナショナルチームの監督に就任。2007年のSEAゲームスで銅メダル、2009年のアジアカップで優勝、同年のアジア選手権大会へ出場。その後、インドネシア代表ナショナルチームの監督を辞任し、地方州底上げの為に、東ジャワ州代表監督に就任。2011年のインドネシア国体予選で準優勝、2012年のインドネシア国体前哨戦で優勝、同年のインドネシア国体決勝大会で銅メダル。そして2014年からインドネシア代表ナショナルチームの監督に復帰をし、2015年の東アジアカップで準優勝。
- 世界の野球 可能性を秘めたコロンビア野球
- 世界の野球 力戦奮闘ブラジル野球!~日系移民が紡いできた夢~
- 世界の野球 東欧ブルガリア -野球事情とその展望-
- 世界の野球 ヒマラヤを北に臨む国 ネパールの野球
- 世界の野球 清水直行 ニュージーランド野球の世界挑戦記
- 世界の野球 アジア選手権 日本人監督の挑戦 インドネシア編
- 世界の野球 アジア選手権 日本人監督の挑戦 パキスタン編
- 世界の野球 アジア選手権 日本人監督の挑戦 番外編 タイ野球の歩み
- 世界の野球 日本人指導者の挑戦 香港野球編
- 世界の野球 フランス通信~フランス野球・ソフトボール連盟より~
- 世界の野球 南の楽園フィジーのHAPPYベースボール通信
- 世界の野球 "アフリカからの挑戦・赤土の青春" ウガンダベースボール
- 世界の野球 パラオ共和国 よみがえれ南洋の「ヤキュウ」魂
- 世界の野球 アフリカ球児の熱い青春!タンザニア野球“KOSHIEN”への道"
- 世界の野球 受け継がれるSri Lanka野球の物語~光り輝くスリランカ野球の夢~
- 世界の野球 セルビア野球の挑戦と葛藤 バルカン・ベースボール事情あれこれ
- 世界の野球 ケニア野球、一歩一歩 元独立リーガー日本人青年監督の奮闘!
- 世界の野球 欧州の野球事情
新着記事
ジャパン 関連記事
世界の野球 関連記事
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「ネパール野球25周年日本ネパールスポーツ交流プログラム2024-2025」2024年9月2日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「学校スポーツ連盟との協定」2024年4月12日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「1st National Baseball5 Championship 2024」2024年1月15日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「目指せ!体験から広がる笑顔の輪」2023年11月28日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球 「福島県×ネパール シャクナゲ交流」2023年10月2日 |