文・写真=野中 寿人
2018年のアジア競技大会に向けて、インドネシア野球向上プログラムの一環として開始した、日本の社会人野球チームである深谷組硬式野球部への野球研修。先月の22日に、無事に90日間の日本滞在期間を終えたインドネシア代表ナショナルチーム所属の2名の選手がインドネシアに帰国しました。
社会人野球の公式大会への参加は出来ませんでしたが、毎回のオープン戦、そして、沖縄スプリングキャンプへの参加等を通じて、インドネシア選手の野球研修としては、今までに類のない、大変、意味の深い体験と勉強の機会になったと思います。
また、今回、深谷組硬式野球部へお世話になった2名のインドネシア代表ナショナルチーム所属の選手は、次期エース候補の投手と、次期主将候補の選手であり、日本滞在中の野球に対する姿勢、日常生活における態度等、人格的にも保証の出来る人材です。野球研修で日本に滞在をし、その意義や内容を、インドネシアに持ち帰り、役に立てるような方向性でなければいけませんし、そのことが出来る人材を日本へ送り込むことによって、野球研修の意味が生かされるものです。
どんなに技術があっても、含みの部分や、人間的な部分に欠如がある選手は日本での野球研修はさせません。この意味は、選手自身の人生において、就職や人生設計にも大きな影響を及ぼします。ただ、野球だけ上手くなれば良いとか、チームが国際大会で良い成績を収めれば良いという様な小さな考えでは、野球途上国でマイナーとされている野球という競技の発展はありえません。
加えて、インドネシアなどの野球途上国の選手や指導者たちは、1人の指導者から教えを受ける傾向も非常に強いものです。自分はこの部分にも大きな疑問を感じています。つまり、1人の指導者から育成を受けて成長するということは、指導を施す者以上の技量を備えられない、また、備えるのに非常に多くの時間を費やす傾向が強くなります。
指導者として選手や次期指導者への育成を施し成長を望む場合、選手や次期指導者には、現状の指導者以上のものを備えてもらわなければ、指導者にとっての、偽りや守りの育成で終わってしまいます。あくまでも指導を施す者からの指導は、指導を受ける者にとって、1つの土台や引き出しに過ぎないということであり、その土台や引き出しが、多ければ多いほど良いのは当たり前であり、成長における偏りの傾向も減少すると言うことです。
指導を受ける者の独自性を「混合」させながら育成を施すことが最大のポイントであり、この「混合」が、やがて新しい「創造性」を生むことになります。育成とは間違っても自分の後釜を育てることではありません。今の代を乗り越えて、次の代に通用する選手や次期指導者を育てることです。自分に都合の良い利己主義の育成では、次の代への連動もないし、継承の伝統も、育成による変化さえもあり得ません。育成による変化は、対象とする選手や次期指導者はもとより、その組織や関連する範囲までをも変化させるものではないでしょうか?この様な考えからも、日本の異なる指導者から、多種多様な野球研修を受けさせたいと強く思っています。
そして、今回の様な、中長期間の日本滞在での野球研修という形は、本国において継続した練習がままならないゆえ、選手個々の、そして次期指導者のレベル向上において、アジア野球途上国の野球向上には絶対に不可欠な形であると考えます。今後、野球研修を受けていただける日本の団体・組織・企業が多くなってくる事を強く望みます。現地での数日間の野球指導や野球教室も大変重要なことですが、それ以上に、ハイレベルな周囲環境の中に身を置いた野球研修の方が、成果と持続性が高いと考えます。
この場をお借りし、日本滞在時での寮費・食費・各移動費等の負担を賄って頂く形にて野球研修を受けて頂いた深谷組硬式野球部には、心より感謝と御礼を申し上げます。尚、来年度の野球研修における深谷組硬式野球部セレクションは今年の11月末にジャカルタにて開催をする予定です。
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著者プロフィール
- 野中 寿人(のなか かずと)
- 1961年6月6日生。日大三高野球部在学3年の夏に西東京代表にて全国高等学校野球選手権大会に出場。
その後、日本大学体育会硬式野球部へ進学。日本大学では1年の秋から体調を壊し2年間の休部をし、現役野球人生を終える。大学卒業後は、フィリピン、サイパンなどで仕事をし2001年にインドネシアのバリ島へ移住。2004年からバリ島の子供達に野球を教え始め2005年にリトルリーグを発足。2006年にはバリ州代表監督に就任、また、クラブチームを発足。2007年にはインドネシア代表ナショナルチームの監督に就任。2007年のSEAゲームスで銅メダル、2009年のアジアカップで優勝、同年のアジア選手権大会へ出場。その後、インドネシア代表ナショナルチームの監督を辞任し、地方州底上げの為に、東ジャワ州代表監督に就任。2011年のインドネシア国体予選で準優勝、2012年のインドネシア国体前哨戦で優勝、同年のインドネシア国体決勝大会で銅メダル。そして2014年からインドネシア代表ナショナルチームの監督に復帰をし、2015年の東アジアカップで準優勝。
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