文・写真=野中寿人
前項までに記した国際大会開催についての問題はあるにせよ、インドネシアとしては、東アジアカップ、アジア選手権大会という2つの国際大会への参加に向けて、2017年のインドネシア代表チームの運営に際する、資金獲得が大きなポイントとなってきます。
既にお話をした様に、2018年のアジア競技大会参加に向けた国(スポーツ省)からの資金援助については、メダルの獲得が現実的でないことから2017年内での援助は見込めず、2018年のアジア競技大会開催数か月前からの援助が予測されますゆえに、どうしても2017年については、国以外からの資金獲得が必要となってしまいます。インドネシアアマチュア野球連盟も、3月以降から新人事体制が発足しますが、運営能力が現段階では見えないのが正直な見解となります。
従って2015年、2016年と、お力添えを受け賜っている国内の日系企業を中心とした、スポンサーに頼るしかないのが実情です。
実際に、2015年と2016年の2年間は、この国内の日系企業を中心とした協賛支援にて代表チームを運営してきており、数回の国際大会への参加、また、野球の普及・発展における各プログラムを遂行してきました。国及びインドネシアアマチュア野球連盟からの支援金は、そのうちのごく数パーセントという微々たるものでしかありません。
1つの国の代表チームを安定的に運営することは容易なことではありません。その手順も、チーム編成における選手招集交通費、選手の拘束における生活保障としての給与、強化練習における選手やコーチの宿泊代や食事代、グランド使用代、野球用具や物資代、練習用や試合用のユニフォーム代、大会開催地往復の航空券代、その他の雑費等、これらを、協賛支援を頂いた企業や個人からの入金状況と照らし合わせながら、チーム編成のスケジュールを決定して行きます。
協賛資金の獲得に際して、2015年から今日まで、約300社の企業を個別訪問させて頂きましたが、やはり、話の第1歩として、インドネシア代表チームはインドネシア所有の団体であり、日本の所有する団体ではないということが焦点になります。これは非常に大きな意味を持ち、“何故 他国の団体に日系企業が賛同をし、援助をしなければならないのか?“という疑問が発生し、面談希望の連絡を差し上げても、返信のレスポンスを頂けなかったり、また返信を頂いても、この段階で断られたり、面談をさせて頂いても結果的に支援を頂けなかったりと、各企業の代表者や社長の価値観や社内規定から、支援の基準をクリアーできるかどうかは定かではないのです。
また、インドネシア国内での簡易決裁という側面からも、1法人1口、約5万円しかお願いをしておらず、この額面が、インドネシア代表チームを稼働させるにあたり、必要とされる金額に対して、何社の企業を訪問すれば、目標とする金額に到達できるのかが明確になります。であるがゆえに、何百社もの企業を個別訪問するのです。
確かに、この様な動きは、1つの解釈として、日本人が代表監督を務めているからインドネシアと日本との間での架け橋の中において可能なものであって、仮に、インドネシア人が代表監督であった場合には、全くこの様な動きは無理なことでもあります。今後、どのような形で、この支援の基盤をインドネシア野球を牽引するインドネシア人へ残していくかについても大きな課題となってきます。また、他の野球途上国と比較をして、インドネシアは日系企業の進出が多く、この様な動きが可能であると言っても過言ではないでしょう。
では、この場をお借りして、皆様方にインドネシア代表チームを国際大会に参加させる為に必要な概算費用についてお話させて頂きます。
冒頭に記しました、チーム編成から国際大会への参加(渡航)までを、仮に1か月間と捉えた場合、必要とされる額面は、約5百万円になります。仮に、事前にさらに1か月間の強化練習を行うとした場合、3百万円の必要経費がプラス計上されます。この様な経費上の数字からも、東アジアカップや、アジア選手権大会への参加にあたっての強化練習期間は、どうしても1か月が妥当な期間となってしまうのが本音です。
野球先進国の様に、年間を通して野球を行っている状況で、代表選手を集めて、1か月間のチーム編成をするのとは異なり、野球途上国のインドネシアは、年間を通して野球/練習を行う環境がなく、いきなり選手を集めて1か月間のチーム編成で国際大会へ参加をし、成果を出さなければなりません。
代表選手に至っては、既に就職をしている者は休職、または早退の許可を、勤め先の会社へ嘆願したり、大学生や高校生の場合には、休学を申請し、強化練習に参加します。しかし、全ての選手が、会社や学校から、このような待遇を受けることは不可能であり、この為、強化練習も、平日は、夕方6時から夜10時の時間帯を全体練習として当て込こみ、臨機応変の対応をしながら国際大会へ備えます。加えて、国際大会での成果に対する報奨金もゼロに等しい状況であることも事実です。
次に、各企業訪問について。企業訪問をさせて頂く為のアポイントを取らせて頂く上で、各企業の代表者/社長への連絡するルートを確保するのが1番の難関となります。在日本国大使館や日本企業のコミュニティーである日本人会、各日系工業団地や自治会、現地の各商工会議所などへ、ご協力を仰ぎながらプレゼンテーションのアポイント取りをして行きます。
訪問においては、ジャカルタの大渋滞という交通事情から、1日の訪問を3社とし、近郊の各日系工業団地を移動訪問する際のみ4社として、訪問の約束時間を厳守することが重要です。通常30分で到着する場所なのに2時間以上かかったり、ジャカルタ郊外にある70キロも離れた日系工業団地へ出向く際の所要時間が全く見えなかったり、加えて、ドライバーは使わず自分で車を運転することからも、常に携帯電話のマップ情報は欠かせず、日々時間と闘っている状況になります。
また、支援を頂いた企業や個人には、定期的にメールにて活動内容を報告させて頂き、最も重大とする、収支会計の報告については、第三者機関である日系の監査法人から監査報告書を発行して頂き、不透明な金銭の使用がないことに努めております。
年度の終了時には、参加した国際大会での試合の全データ、支援金獲得のデータ、監査報告書、物資や用具の在庫リスト等を、レポートとして1冊のファイルに纏め、支援を頂いた、全てのドネーション、スポンサーへお渡しをして確認をして頂きます。
支援を受けるに際しての信念は、1回だけの支援ではなく、しっかりとした内容で活動をしているという形を、我々が作ること、そして、そのことを見て頂き、次年度もお付き合いを頂ける様な関係を構築しなければいけないということです。
このインドネシア野球の支援金獲得の動きの基礎は、江本孟氏(エモやん)と、山崎拓氏(元副総理)のお力添えによって、2008年より開始をしました。当時、日系大手企業数社から開始したドネーション、スポンサーの企業も、現在では100社前後を数えるにまで広がり、また、個人についても75名前後の方々が、インドネシア代表チームにお力添えをして下さっております。
2017年については、まだ、広告宣伝還元の部分で弱い、現地企業の支援を多く獲得し、インドネシア国所有の団体として、正常な形に移行をして行く動きを、一丸となって進めて行かなくてはなりません。また、現地企業のスポンサー獲得に向けて、野球自体のステータスを上げる動きも進めて行かなくてはなりません。
今年度も、企業、また各工業団地や各会主催による各種のセミナー、ゴルフコンペ会場に出向き、支援嘆願のプレゼンテーションをする覚悟です。
野球途上国が、国や政府以外から、支援を受け賜り、どのようにして、代表チームを運営させているのか?稼働させて行くのか?また、その内容と実態を、インドネシアを例にして記させて頂きました。野球途上国を、いかにして野球先進国に近づける試みの1例として、その実情を知って頂けたら本望であります。
また、現在アジア野球途上諸国のうち9ヶ国に、日本人指導者が各国に適応する形で、各々の使命により、野球の発展と向上に努めています。しかし、我々だけの力量では、野球先進国へ引き上げることには非常に困難であるのも事実です。そして、限られた国だけが突起して向上するのでは意味がありません。全てのアジア野球途上諸国の向上を目標としなければいけません。我々は、その目標に向かい、アジア野球途上諸国に携わる日本人指導者間の連携を密にすると共に、日本の方々からも、ご協力を受け賜りたく、何卒、宜しく、お願い申し上げます。
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著者プロフィール
- 野中 寿人(のなか かずと)
- 1961年6月6日生。日大三高野球部在学3年の夏に西東京代表にて全国高等学校野球選手権大会に出場。
その後、日本大学体育会硬式野球部へ進学。日本大学では1年の秋から体調を壊し2年間の休部をし、現役野球人生を終える。大学卒業後は、フィリピン、サイパンなどで仕事をし2001年にインドネシアのバリ島へ移住。2004年からバリ島の子供達に野球を教え始め2005年にリトルリーグを発足。2006年にはバリ州代表監督に就任、また、クラブチームを発足。2007年にはインドネシア代表ナショナルチームの監督に就任。2007年のSEAゲームスで銅メダル、2009年のアジアカップで優勝、同年のアジア選手権大会へ出場。その後、インドネシア代表ナショナルチームの監督を辞任し、地方州底上げの為に、東ジャワ州代表監督に就任。2011年のインドネシア国体予選で準優勝、2012年のインドネシア国体前哨戦で優勝、同年のインドネシア国体決勝大会で銅メダル。そして2014年からインドネシア代表ナショナルチームの監督に復帰をし、2015年の東アジアカップで準優勝。
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