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"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「世界ランキングには表れないネパール野球の現在地」

2026年10月14日

文・写真=NPO法人日本アジア球友団ラリグラス(小林 洋平)

 8月1日、千葉県成田市で第32回世界少年野球大会の開会式が行われた。参加国・地域から招かれた子どもたちの中には、2019年以来となるネパールの子どもたちの姿もあった。世界少年野球大会は、王貞治氏とハンク・アーロン氏の提唱により、野球教室やさまざまな交流活動を通じて、子どもたちの友情と親善を育んできた国際交流事業である。私自身、このコラムで2018年にネパールの子どもたちが参加した際の様子を紹介したことがある。当時も子どもたちを引率していたのが、ネパール野球ソフトボール協会(NBSA)のビピン・バジラチャルヤ氏だった。

 それから8年。今年は日本・ネパール外交関係樹立70周年という節目の年でもあり、ネパールの子どもたちが再び日本を訪れ、野球を通じて他の国や地域の子どもたちと交流する機会を得た。参加した子どもの一人は、日本での経験を振り返り、「私が通っている学校でも、野球を紹介したい」と話してくれた。その短い言葉から、今回の経験をネパールに持ち帰り、自分の身近な場所で野球を広げていきたいという思いが伝わってきた。

 2018年、2019年、そして今年もネパールの子どもたちを引率したビピン・バジラチャルヤ氏は、草の根レベルからの野球の発展に強い情熱を持ち、誠実に努力を重ねながらその役割を担ってきた。子どもたちに野球を通じた貴重な機会を届けるため、長年にわたり積み重ねてきた経験と尽力を踏まえ、今回の経験についても次のように振り返る。
「以前参加した時と同じように、今回も子どもたちが日本で多くのことを学び、さまざまな国や地域の子どもたちと交流する姿を見ることができました。この数年間でネパールの野球を取り巻く環境も変わりましたが、今回の経験をネパールに持ち帰り、これからの活動につなげていきたいと思います」

 こうした国際交流に参加する子どもたちの姿は明るい話題である一方、今回の参加だけを見て「ネパール野球が順調に発展している」と捉えることはできない。現在のネパール野球を取り巻く状況は、私がこの大会についてコラムを書いた2018年当時とは大きく異なっている。当時のネパールでは、代表チームが国際大会に出場し、国内でも全国規模の大会が開催されるなど、少しずつ活動の幅を広げていた。2018年6月に発表されたWBSC世界ランキングでは62位まで順位を上げ、2019年には、東京2020オリンピックの予選につながる大会としてスリランカで開催されたBFA西アジア野球大会にも出場した。競技環境が十分に整っていたわけではないが、国内外で経験を積みながら次の段階を目指していた時期だった。しかしその後、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行やネパール国内情勢の変化などが重なり、それまで築いてきた活動や海外との交流は大きく停滞した。国際大会への参加機会も減少し、以前のように継続して国際舞台に立つことが難しい状況が続いている。

 ネパールでは1999年から本格的な野球普及活動が始まり、四半世紀以上にわたって競技基盤づくりや国際交流が積み重ねられてきた。しかし現在は、競技人口や指導者、子どもたちが野球に触れる機会、活動を継続するための環境など、改めて向き合わなければならない課題も多い。現地の関係者と話をする中で聞かれるのが、「ゼロから再スタートする」という言葉である。

 ネパール野球ソフトボール協会のディパック・ネウパネ氏は、その意味と今後の方向性について次のように話している。
「『ゼロからもう一度始める』ということは、これまでの実績や歴史がなくなったという意味ではありません。私たちは、25年以上にわたって築いてきた経験や人とのつながり、基盤を生かしながら、次の世代のために、より強い草の根の仕組みをつくっていきたいと考えています。現在は、学校や大学を通じて野球、ソフトボール、Baseball5の普及に力を入れ、より多くの子どもたちや若者がこれらのスポーツに出会い、続けていける機会をつくろうとしています。また、私たちは現在、ネパールオリンピック委員会(NOC)の正式加盟団体となっており、NOCの協力のもと、オリンピック・ソリダリティのプログラムを活用した指導者育成や技術面の向上にも取り組んでいく予定です」

 現在のネパールには、シニアの野球代表チームとBaseball5代表チームがある。一方で、国内では野球の知名度はまだ高いとは言えず、クリケットが非常に高い人気を集めている。同じバット・アンド・ボール型のスポーツであることから、NBSAでは一部のクリケットアカデミーとの連携も模索し、野球やソフトボールをより多くの若者に紹介する可能性を探っている。

 こうした動きを見ると、現在の「再スタート」は、過去をリセットするという意味ではない。これまで築いてきたものを生かしながら、学校や大学での普及、指導者育成、Baseball5なども含め、現在のネパールに合った形で次の世代につながる基盤を改めてつくろうとしているのである。その意味で、今回の世界少年野球大会への参加も、単に久しぶりにネパールの子どもたちが日本を訪れたというだけではない。2018年に同じ大会を紹介してから8年。さまざまな出来事によって活動が停滞した今、再びネパールの子どもたちが参加したことは、外の世界とつながり、次の一歩を踏み出す一つのきっかけになったように思う。
 9月に開催された愛知・名古屋アジア競技大会では、ネパール野球は野球競技には出場しないものの、ネパールのスポーツ関係者が来日し、日本側の関係者も交えながら今後のスポーツ交流について意見を交わした。さらに12月には、日本・ネパール外交関係樹立70周年を機に、ネパールでスポーツ交流の取り組みも計画している。目指しているのは、日本からネパールへ一方的に何かを教えたり、提供したりすることではない。これまで築いてきたつながりを生かしながら、両国の関係者がそれぞれの経験や知識を持ち寄り、ともに学び、継続していくことのできる交流の形を一緒につくっていくことである。

 8月の世界少年野球大会を一つのきっかけとして、今月の日本での交流、そして12月のネパールでの取り組みへとつなぎ、2026年をネパール野球が新たな一歩を踏み出す年にしたい――そんな思いでこのコラムを書き進めていた最中の8月26日、ネパールを大規模な洪水・土石流災害が襲った。

 災害によってネパールでは甚大な被害が発生し、厳しい状況が続いている。これまで私たちが確認している範囲では、NBSAの関係者や世界少年野球大会に参加した子どもたちを含む野球関係者の無事は確認できている。一方で、多くの方々が被災し、亡くなられた方もいる。被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方々に心より哀悼の意を表したい。

 今回の災害によってネパールを取り巻く状況は大きく変わった。それでも、今月の日本での交流や12月のネパールでの取り組みに向けた準備は続いている。現地の状況と声を大切にしながら、これまで築いてきたつながりを生かし、ネパールの関係者とともに、今できることを一つひとつ積み重ねていきたい。

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