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"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「ネパール野球が目指した愛知・名古屋アジア大会、その先へ」

2026年10月14日

文・写真=NPO法人日本アジア球友団ラリグラス(小林 洋平)

 2016年9月25日、2026年アジア競技大会の開催地が愛知・名古屋に決まった。それから約10年。ネパール野球にとっても、この大会は遠くに見える大きな目標の一つだった。

 2017年、ネパール代表はパキスタンで開催された第13回BFA西アジア野球大会に出場した。当時、私は代表チームのヘッドコーチを務めていたが、選手や関係者とよく話していたのが「2026年の名古屋」だった。当時は、2026年大会で野球競技が実施されるかどうかさえ決まっていない。それでも、開催が決まってから準備を始めたのでは遅い。国際大会に出場し、経験を積み、選手を育て、国内で野球を続けられる環境を少しずつ整えていく。その積み重ねの先に、日本で開催されるアジア大会があればいい。そんな話をしていた。

 それからネパール代表は、西アジアを中心に国際大会への参加を重ねてきた。決して順調な道のりではない。競技人口も施設も、野球が盛んな国とは大きく異なる。それでも、一つひとつ国際試合を経験しながら、アジアの中で自分たちがどこにいるのかを確かめてきた。今回の愛知・名古屋大会に出場したパレスチナは、その歩みを考える上でも象徴的な存在だった。ネパールは2023年の西アジアカップでパレスチナと対戦し、2024年11月にドバイで行われた「Baseball United Arab Classic」でも同じグループで直接対戦している。その相手が、今回はアジア大会のグラウンドに立っていた。

 ネパール野球・ソフトボール協会(NBSA)も、愛知・名古屋大会への出場の可能性を最後まで模索してきた。ディパック・ネウパネ会長は、アジア・オリンピック評議会(OCA)の本部があるクウェートまで足を運び、関係者との協議を重ね、ネパール国内でもオリンピック委員会との連携を進めた。しかし、ネパール代表として愛知・名古屋のグラウンドに立つことはかなわなかった。それでもネウパネ会長らは、日本でアジア大会が開催されるこの機会を無駄にはしたくないと考えた。出場はかなわなくても、自分たちの目で大会を見て、これからのネパール野球につながるものを持ち帰る。その思いから、NBSAの関係者7人が来日し、ネパールオリンピック委員会のラジブ・シュレスタ事務総長も合流することになった。

 豊橋市民球場で彼らが見たのは、パレスチナ対フィリピンだった。かつて自分たちが国際大会で戦った相手がアジア大会のユニホームを着てグラウンドに立ち、その翌日には侍ジャパン社会人代表と対戦する。パレスチナが決して遠い存在ではなかったからこそ、その光景には重みがあった。ネウパネ会長にとっても、長く目標としてきた大会を実際に訪れ、これまで国際大会で戦ってきた相手がその舞台に立つ姿を見ることには特別な思いがあった。出場できなかった悔しさはもちろんある。それでも、アジア大会を遠くから眺めるだけではなく、実際にその場に立ったことで、これからネパール野球が何を積み重ねていかなければならないのかを改めて考える機会になった。

 大会開幕前には、自治体を巡ってきた聖火リレーのグランドフィナーレが名古屋市瑞穂区で行われた。「りくりゅう」こと三浦璃来さん・木原龍一さん、高橋尚子さん、侍ジャパントップチーム投手コーチの吉見一起さんら、多くのスポーツ関係者が聖火をつないだステージに、私も聖火ランナーの一人として参加した。長年一緒に活動してきたネパールの仲間たちから「ネパールを代表して頑張って走ってきて」と送り出され、彼らが長年この大会にかけてきた思いを少しでもこの聖火に託すつもりで、走った。

 今回の来日は、アジア大会の試合を見るだけの視察でもなかった。京セラドーム大阪では日本のプロ野球の球場に触れ、在日ネパール人が参加するフットサル大会では、日本で暮らす同胞ともスポーツを通じて交流した。アジア大会を入口に、競技そのものだけではなく、スポーツを支える環境や、日本とネパールの間にすでにある人のつながりにも目を向ける機会となった。

 一方で、今回の来日を考える上で避けて通れない出来事があった。8月26日にネパールを襲った大規模な洪水・土砂災害である。多くの命や暮らしが失われ、現在も現地では復旧や支援が続いている。来日計画も、この災害を受けて大きな変更を余儀なくされた。その影響は、アジア大会での行動にも表れた。本来であればNBSAのメンバーは侍ジャパン社会人代表と韓国代表による決勝を視察する予定だったが、その予定を変更し、名古屋でSport for Tomorrow(SFT)の取り組みに参加した後、大阪で開かれた「世界気候アクションin大阪」へ向かった。

 この変更について、ネウパネ会長らNBSA側からは、アジア大会の視察も大切である一方、「現地で起きていることを日本の皆さんに直接伝えることにも大きな意味がある」との考えが示された。長い時間をかけて目標としてきたアジア大会であり、その決勝を実際に見ることにも大きな意味があった。それでも、今も復旧が続く母国の状況を伝えることを選んだ。この判断には、野球だけにとどまらない、今回の来日の意味が表れていたように思う。

 そこには、今回の来日で彼らが見た「スポーツ」のもう一つの側面があったように思う。スポーツは競技の中だけで完結するものではない。安心して暮らせる地域があり、子どもたちが学校へ通い、仲間と集まり、ボールを追いかけられる日常があって初めて成り立つ。母国で大きな災害が起きている中でアジア大会を訪れたことは、ネウパネ会長にとっても、ネパール野球の未来だけでなく、その野球を支える社会や環境について考える時間になった。

 2017年にネパール代表の選手たちと描いた「2026年、名古屋でプレーする」という目標は、そのままの形では実現しなかった。しかし、ネパール野球は別の形で愛知・名古屋2026にたどり着いた。目標にたどり着く形は、10年前に想像していたものとは違った。それでも、名古屋を目指して積み重ねてきた時間がなくなったわけではない。その10年を次にどうつなげていくのか。愛知・名古屋2026は、ネパール野球にとって一つの到着点ではなく、次を考えるための場所になった。

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